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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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アングラデスの迷宮第一層 その2

「あの声はサラの悲鳴! 何かあったんだ、行ってみよう、ヤン!」

 僕は仲間の悲鳴を聞いた瞬間、すぐさま体が動き声の方角へ駆け出していた。

「どうせトイレの最中にネズミかゴキブリでも出たんじゃないアルか。わざわざ覗きにいくなんて、どうかしてるね。やっぱりアキラは相当のワルよ」

 しょうがないとでも言いたげに、ヤンがゆっくりとその後を追う。


「一体今の悲鳴は何、サラ!?」

 僕が堀田印の剣を抜き放って扉を開けると、そこにはアンナとサラと、そして……。

「えっ、コボルド!?」

 そこにいたのはチワワの頭をした犬人間、いや犬モンスターか。

 大きな瞳を潤ませた短い黒い毛色の2匹のコボルドたちが、その耳を垂らしてぷるぷると互いに身を寄せあって震えていた。

「今日初めて見るわネ。仕掛けてこないのを見ると、どうも友好的なタイプみたいヨ」

 アンナが駆けつけた僕を見て、コボルドたちに顎をしゃくった。

 友好的なモンスターか。

 そういえば訓練学校で聞いたことがある、迷宮にいるモンスターの中には、冒険者を見かけても何故か攻撃をしてこない連中もいると。

 もっとも、友好的といったところで先に攻撃をしてこないという程度で、こちらが手を出せば向こうも普通に反撃してくる。

 決して彼らモンスターとは分かり合うことも、友達になったりすることもできないのだ。


「私がここでお……お化粧を直していたら、気が付いたらいきなり後ろにいたの!!」

 アンナの背後に回ってしがみついているサラが涙声でそう言った。

「おお、よしよし。アタシが扉の前は見張っていたはずなんだけど……怖い思いさせちゃってごめんなさいネ、サラ」

 アンナが涙目でしがみつくサラの頭を優しく撫でている。

 ん?

 でもここって行き止まりだよな。

 あの扉を開けて出入りしたら普通気付くだろうし、それ以前に外はアンナが見張っていたはずだ。

 それにサラの後ろからいきなり現れたみたいだから、待ち伏せしていたのも考えにくい。

 僕が違和感を感じながらどうにか考えをまとめようとしていると、ヤンがやって来た。

「どうだったねアキラ、出たのはヤンさんが賭けた大だったか、アキラが賭けた小だったアルか?」

 げえっ、ヤンの馬鹿!

 サラがたちまち冷たい目になって僕とヤンを見ている。

 何故かコボルドたちも瞳を潤ませて僕とヤンを見ている。

 マズイぞこれは……。

「一体何を賭けの対象にしていたのか。後でゆっくりと聞かせてもらうわよ二人とも。場合によっては腕の一本か二本、ヘシ折らせてもらうわ……」

 そう言ってサラはまるで鬼神のような恐ろしい顔つきになった。

 こ、こわい。

「きゅううーん」

 放置されていたコボルドたちが所在なさ気にか細い声で鳴いてアピールをする。

「ホント友好的なワンちゃんだこと。ここまで友好的なモンスターってアタシも初めて見たわ。無理に戦わず、無視して進むもよし。さて、どうしましょ?」

 アンナの言葉に僕もそうしようかと思ったが、ほんの一瞬だけわずかに、コボルドの目に邪悪さが宿った気がした。

 気のせいだろうか?

 それに気付くと、なんとコボルドは一瞬僕の方をチラッと見ると慌てて目を逸らしたではないか。

 よし、決めた。

 こいつらは、よりによってトイレ中のサラを覗くという大罪を犯した連中だ。

 その罪は万死に値する。

「先手必勝、だったよねサラ?」

 僕は手にした剣で、目の前にいるコボルドの胸を素早く斬りつけた。

 ズルッという手応えとともに、鮮血をダンジョンの床に滴らせてのけぞるコボルド。

 その目に『なんでだワン?』という疑問と驚きの色を浮かべたまま崩れ落ちる。

 すると残ったもう1匹のコボルドが歯を剥き出しにして突然けたたましく吠えた。

「ワンワンワン、ワンワンワン、ワンワン、ワワワン、ワン!」

 僕が封切って開始した戦闘に素早く呼応したサラが、その剣で吠えているコボルドの心臓をあっという間に貫いてとどめを刺した。

「珍しく即決即断だったわネ。でも、それでいいわ。どんなに可愛くてもモンスターは所詮モンスター、情けは無用ヨ」

 アンナはそう言って笑いながら、僕のお尻をポンポンと叩いた。

 これは例えば僕がサラのお尻を触るようなもので、普通にセクハラなんだよなあ……。

「あれ、何してるのヤン?」

 気が付けばヤンは壁に何かを落書きしていた。

 そういえば『冒険者名言集』で見た覚えがある。

 『迷宮に残されたメッセージは先人からのアドバイス! 死にたくなきゃ聞き入れろ!』

 そうやって、危険な場所には冒険者同士が忠告を書き残すことによって、互いに助けあっているのだと。

 冒険者心にあふれるヤンの行動に感心した僕は、両手を組んでウンウンと深く頷いた。

「いやー、これでもう安心アルよ」

「なになに、『この場所、サラ専用トイレにつき立ち入り禁止』……!?」

 サラに見つかる前に、僕たちは慌ててコボルドの死体が転がるその場所を後にした。

 こんなの本人にバレたら『教会送り』にされるぞ……。


 サラはアンナと二人でスタスタと先に進み、まだ機嫌が悪いようだった。

 やがて、さっきの二層へと降りる階段の場所に戻ると、そこには大きな体をした、土佐犬の頭を持つ4匹のコボルドたちが凶暴な眼差しで荒い息を吐き、口からはよだれを垂らして僕たちを待ち受けていた。

 その首には綱を巻き、手には釘の無数に刺さった棍棒を構えて『さっきのコボルドとは違うのだぞ』とでも言いたげにアピールしている風にも見える。

「アキラ、こいつらはレッサーコボルドよ。いいアルか、絶対にその耳を傷つけては駄目ね!」

 さっそく振り下ろしてきたレッサーコボルドの棍棒を避ける僕にヤンがそう忠告する。

「もしかして痛みに反応して仲間を呼ばれるとか、竜の逆鱗的なやつで怒ってパワーアップするとか、そんな感じか? 分かった!」

「ウォンッ! ウォンッ!」

 けたたましいうなり声を上げて、すぐに別のレッサーコボルドがその棍棒で横から攻撃してくるが、僕はバックステップで飛び退いてそれをかわす。

 サラも2匹を相手に受けに回って苦戦しているようだ。

 その表情も硬い。

 すると不意にアンナの声が聞こえた。

「いけないワンちゃんたちネ。ちょっとはおとなしくしなさいっ!」

 いつの間にかレッサーコボルドの背後に回っていたアンナが、壁を蹴って天井まで大きくジャンプしたかと思うと、華麗に踵落としを1匹のレッサーコボルドの脳天へズガッと決めた。

 アンナの踵落としを食らったそのレッサーコボルドはたちまち床に倒れ、起き上がる気配もなく、他のレッサーコボルドたちも驚きの表情になって振り返る。

 えっ、もしかして、ただの蹴り一発で即死?

 レベル12の盗賊って怖すぎる……。

 僕はアンナだけは何があろうともこの先怒らせないぞと固く胸に誓った。


 アンナが加勢してくれたことで戦況は一変し、僕たちはレッサーコボルドとの戦闘に大きな怪我を負うこともなく勝利することができた。

「ハーイ、お疲れ様。それにしたって、コボルドもいるところにはいるものネ。最初に見かけなかったのは、やっぱりたまたま遭遇しなかっただけかしら」

 アンナはそう納得したようだった。

「そういや、さっきの耳を傷つけてはいけないってのは何だったの?」

 僕がヤンに先ほど気になっていた発言の意味を問うと、その丸眼鏡を光らせる。

「こいつらの耳は漢方薬としてなかなか高く売れるアルよ。ウシャシャシャ!」

 ヤンはホクホク顔でレッサーコボルドの死体から耳を切り落とすと、ズタ袋にしまった。

 ……まあいいか。

「なかなか歯ごたえのある相手だったね。アンナが加勢してくれて正直助かったよ」

 そう僕はサラに声をかけるが、プイッとあさっての方向を見る。

 どうやらヤンのデリカシーのない発言をサラはまだ根に持に持っている様子だ。

 全く、ヤンも余計な発言をしでかしてくれたものである。

 何とかしないと、今後の僕たちの関係にも亀裂が入ってしまうぞ。

 その時、僕の脳裏にある天才的なアイデアが閃いた。

「しかし、ヤンと賭けていた大コボルドか小コボルドか、どっちが出るかという賭けはこれで結局引き分けかな! あー残念!」

 サラにしっかり聞こえるようにわざと大声で叫ぶ僕。

 チラッと僕がサラの方を見ると、大きく息を吐いてホッとしている様子が窺えた。

 よし、何とか助かった。


 こうして『アングラデスの迷宮』第一層を無事に切り抜けた僕たちは、第二層へと続くその長い階段を降りていった。

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