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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
199/214

サムライ・デル・ディアマンテ

 酒場にあるような木製の丸い卓が一つあるだけの、他に何もない殺風景な部屋。

 メイドに命を奪われたはずの僕は、いつも夢の中や死にかけた時に訪れる、あの不思議な場所にいた。

 そこで僕を待ち受けていたのは相棒のクロと、女神のタマモズキア。

「わらわの言った通りにメイドさんを傷付けず、よう正しい選択をしたのうアキラ。あっぱれじゃ」

 タマモズキアはとても優しい目で僕を労った。

 僕の下した決断――自らの命を捨ててまで女神の残した言葉を守ったのは、やっぱり間違いではなかったようだ。

「結果死んじゃいましたけどね。なんか最後、五体バラバラにされたような記憶が……それより! 復活、出来るんですよね?」

 詰め寄る僕にタマモズキアは足を組みかえ、うーんと考え込んだ。

 えっ、なんでそこで考え込んじゃうの?

 『心配ない、大丈夫じゃ!』って即答して欲しいんですけど……。

「まだ時が満ちておらぬからのう。それまでこれを読んでおくがよい」

 そう言って一冊の本を僕に手渡した。

 タイトルは『サムライ・デル・ディアマンテ』とある。

 他にやることもないし、仕方なく卓の端に腰掛けて読み始めるとクロが僕の膝の上に乗ってきた。


 しばし後、本を読み終えた僕は思わず声を上げる。

「えっ、ここで終わり? 九右衛門やられたとこで終わってるんだけど。続きないんですか、コレ?」

 物語は主人公が敵の奇妙な攻撃によって村正を取り落とし、倒れたところで終わっていたのだ。

 尋ねる僕にタマモズキアはくるくると指を回しながら答える。

「気になるなら続きは自分の目で確かめて来るがよかろう。そーれっ!」


 僕の目の前にまるでトランプのジョーカーのような、奇妙な格好をした男が本と鎌を手に立っている。

「アナタ、ダレ?」

 そいつは心底驚いたような顔つきで僕を見ると、慌てて本を開こうとした。

 おっと危ない、その攻撃はついさっき予習したばかりだ!

 男が本を開くよりも速く、僕は腰のスシマサとムラサマを同時に抜き放つ。

「させはしない! <操手狩ニ刀(くりてかるにとう)ムラマサ無礼胴(ぶれいどう)>ッッッ!!」

 シュピーン―シュピーン。

 小気味良い金属音が二度響くと、男の首は宙を舞い、持っていた本ごとその両手も両断していた。

 タマモズキアの気まぐれか、またいきなり過去らしき場所に飛ばされちゃったけど、戸惑うことなく落ち着いて戦えたぞ。

 今までの経験が活きたかな?

 自分を心の中で褒めつつ二刀を納刀したその時、背後から不気味な声が聞こえる。

「ネオトーキョーノ、ハヤマアキラ?」

 振り返ると首だけになった男がニヤッと笑みを浮かべ、僕の名を呼んでいた。

 真っ二つにされた本のページには『葉山旭』と僕の名がクッキリ浮き出ている。

 おいおい嘘だろ、両断してもまだあの本の攻撃は有効なのか!?

 自らの不覚を呪い身を固くしたが、そのままシーンと静寂が薄暗い室内に訪れる。

 僕の身には何の変化も起こらない。

「エ? ナンデ? ネオトーキョーノ、ハヤマアキラ! ……アキラ、ナンデシナナイ!?」

 そう叫ぶ首だけジョーカーに、僕はポンと手を打ち返事をした。

「ああ、そういや僕の今の名前はアキラじゃなかったんだ」

 僕は胸元から冒険者登録証を取り出すと、顔面蒼白となった首だけの男に見せつける。

 そこには『レベル1・悪・戦士・4771』と、しっかり書かれていた。

「アキラ、ズルイ! 『ノタ・デ・ムエルト』トナマエチガウナンテ、アリエナイ! ムジュンシテル!」

 どういう仕組みか分からないけど、登録証によると現在僕はアキラではなく4771という名前で認識されており、それが優先されたらしい。

「ズルくて上等、僕は死なない! <青き薔薇の崩壊>!」

 ザシュザシュザシュッ。

 右で抜いたスシマサで振るう超高速の剣技が、男の頭部をこれでもかというほどに細切れにした。

 首だけになってもいつぞやのアークデーモンみたいにピンピンしてたけど、これならもう再生もできないだろう。

 敵を片付けた僕は、傍らで倒れている例の物語の主人公に駆け寄った。

「心臓、動いてないよね……九右衛門死んじゃってるけど、どうしたらいいんだろう? 蘇生呪文なんてないし……もしかして、僕がかわりに王女助けに行くのかな」

 どうしたものかと立ち尽くしていると、突然眩い光が室内に溢れてイケメンの青年が姿を見せた。

「あちゃー、九右衛門もう死んじゃってるじゃないか。ただの人間が単身で悪魔に挑むなんて、やっぱり100年……いや1000年は早かったんだ」

 そう言い頭を抱える青年。

 確かこの人、ものずきんちゃんを名乗ってたタマモズキアにイグナシオって呼ばれてたよな。

 イグナシオ……もしかして聖イグナシオ教会が信奉する、回復呪文の元になった聖イグナシオその人か!

 そう思うと半裸の格好もなんだか神々しく思えてくる……信者のジェラルドやヴェロニカたちがいたら感激のあまり失神してたかも。

「そこの君、ナインテイルの力の片鱗が漂っているけど……まさか、未来から来てたりしないだろうね?」

 じろりと疑いの眼差しを向けてくる神様に僕はあっさり頷く。

「あ、はい。なんだかちょいちょい過去に来てる感じですね。でも、あのイグナシオ様に会えるなんてすごいや。僕のいた時代ではイグナシオ様は――」

「ちょ、ちょっと待ったーっ! これ以上未来の情報は知りたくない! おお、恐ろしい……やりたい放題じゃないか彼女は。協定違反どころじゃないぞ」

 ぶつくさ言いながらイグナシオはパチンと指を鳴らす。

 すると空中にキラキラと輝く、おそらくダイヤで作られたと思しき美しい鎧が現れた。

 おおっ、なんだこれ!?

 こんな凄まじく豪華な鎧、初めて見たぞ!

「このボクの持つ秘宝のうち、最も価値のあるのがこの『ダイヤモンドの鎧』だ。『自動再生・特大』付きの鎧だなんて知れたら、それこそ我が物にせんと神魔戦争だって起きかねない、極上の品だよ」

「自動再生? それってデーモンとかが持ってる、あの厄介な効果ですよね? すごい、超レアアイテムだ!」

 目を輝かせて羨ましがる僕に、イグナシオは気を良くしたようでふふんと微笑んだ。

「この鎧の価値を分かってくれるかい? じゃあ特別に九右衛門にそれを着せる権利を与えよう。人間がそれに触れられる機会なんてまずないからね、嬉しいだろう?」

 おお、嬉しいけど……なんかいいように使われてる気がしないでもないな。

「そうだ、念のために装備制限でその鎧を装備できるのはこの世でただ一人、九右衛門だけにしておこう。人間の寿命は短いし、何かあってもそれなら安心だ。いやー、ボクって天才かも」

 そう言ってイグナシオはまたパチンと指を鳴らした。

 訓練学校時代の恩師カンキチを思わせる、鋼のような肉体の九右衛門に着付けるのはちょっと時間が掛かったけど、何とか無事に鎧を着せることが出来た。

「よし。じゃあボクたちは消えるとしよう。戻って彼女に会ったら、もう過去に人を送るのはやめるように伝えておいてくれたまえ」

 イグナシオがパチンと指を鳴らすと、残されたのは九右衛門だけとなった。

 ダイヤモンドの鎧の再生効果により、むくりと起き上がった九右衛門は首を捻る。

「……一体なんだ、この金剛石の鎧は? 何があった?」

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