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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
190/214

別れの時

 そうか……国際裁判で僕に無罪票を投じたマルティーノは、『心剣同盟』の仲間たちにも良いように僕のことを話してくれてたんだ……うう、感激だよ。

 でも、最後に言ってたリーダーに認められたって、何の話だろう?

 確かにマルティーノは僕のことを『一流の戦士』だと誉めてくれてたけど、リーダーは彼ではないはず。

 『心剣同盟』のリーダーは名前こそ伝わってないけど、侍のはずだからね。

 今から50年以上も昔――まだ異種族が"デミヒューマン"という蔑称で呼ばれ迫害されていたあの愚かな暗黒時代に、心を閉ざしていた異種族たちを説き伏せパーティを結成した伝説の侍の日本人……。

「ちょっとアキラ、聞いてる?」

 かつての時代に思いを馳せていた僕は、アンナに呼ばれて我に返った。

「ごめん、全然聞いてなかった。何?」

 全員にやれやれという顔をされ話を聞くと、テッドがここにいる理由は惨殺されたオーク四天王『収穫王エストルク』ら西の部族の蘇生のために、孫娘であるシロの手を借りに来たらしい。

 マツカゼはその途中で死んでいたのを運良くテッドに発見されて無事蘇生に成功し、恩を返すために一緒について来たのだという。

 マツカゼほどの男が殺されるなんて……一体誰に?

 そんな疑問が浮かんだけど、口を挟まずテッドの話はそのまま続く。

「私だけではさすがに手が足りそうになくてね。あいにく一族の者たちも皆出払って不在。それで一番近くにいたシロエッタを迎えに来たというわけだよ」

 それを聞いてぷるぷると小刻みにポーリーン肉付きの良い体が震える。

「お、お父様たちが……部族のみんなが、助かるのですか!?」

 ポーリーンの言葉に、老いた灰色狼のような男は優しい眼差しを向けた。

「君は……なるほど、オークのお姫様か。遺体の下にさえ辿り着けたなら、アンバーウルフ一族の名に賭けて必ず助けてみせよう」

 テッドはポーリーンに含みのある返事をした。

「辿り着けたなら? 気になる言い方ネ。何か障害でもあるのかしら?」

 アンナが小首を傾げると、テッドはゆっくりと頷く。

「実は国連内部でも北の虐殺王に対するパワーバランスや今までの偉業を考慮した結果、モンスター認定されているオークとはいえエストルクの部族は蘇生させようという方向で話がまとまりかけていたんだよ。しかし、新しく法務部長になった加賀という男にその案は一蹴され白紙になってしまった。国連も今や一枚岩では無いようだ。私は旧知の仲であるローゼンバーグ氏に極秘の依頼を受け、エストルクたちの蘇生のため個人的に動いたという訳さ。ここに来るまでの間に入った情報では、彼らの遺体は加賀の指示で何かに再利用するためエアリーランドのノーグ砦に移され、妖精兵や念導兵(ガーディアン)が厳重に警備していると聞く。私は戦闘はあまり得意ではない僧侶だからね。忍者のマツカゼ君が付いてきてくれたのは本当にラッキーだったよ」

 またもやここでカンガルーの名を聞くことになるとは……どうやらアイツはサラの件だけでなく、僕にとって避けては通れない一番の敵であるようだな。

 僕が拳を握りしめていると、マツカゼが静かに笑った。

「噂に聞くエアリーランドの妖精兵に、国連の念導兵(ガーディアン)か。フッ……面白い。拙者の相手として不足なし」

 それに同意するように仲間たちも大きく頷いた。

「アキラと一緒にイタリアに行くつもりだったけど、念導兵(ガーディアン)がいるならアタシはそっちに行くしかないわネ。一体退治した実績を舐めてもらっちゃ困るわ」

「最後までアキラの力になると約束しましたけど……ごめんなさい。ポーリーンはお父様たちを助けに行きたいです」

「蘇生ならおらに任せるだよー。お爺ちゃまの期待を裏切らないよう、頑張ってポーリーンの部族の人らを全員生き返らせて見せるべ!」

「へっ、マブが困った時に力にならねーようじゃ女がすたるぜ。悪りーなアキラ。そういうこった。まあこっちが片付いたらアチシたちもイタリアに行くから待ってな」

 そう言って僕にいい顔でVサインを決める仲間たち。

 おいおいおいおい、ちょっと待て。

 全員がエアリーランドに行っちゃうの!?

 これだけ人数がいるのに、イタリアへ行くのって僕一人か?

 信じられないまさかの展開に僕が間の抜けた顔でポカーンとしてると、背後からポンとフルワンが肩に手を置いてきた。

「話は大体分かった。どうやらおまえはただの極悪人という訳ではないようだな、アキラよ」

 おお、まだこの人がいたか!

「僭越ながらこのフルワン、エアリーランドには少々詳しい。道案内とハルバードの腕前については任せてもらおうか」

 そう言ってドンと胸を叩くドワーフの男に、仲間たちからおおーと歓声が上がる。

 おまえもか!

 僕は盛大にずっこけた。

「大丈夫よアキラ。考えてごらんなさい、そのニ刀を持ってるアナタは今のアタシたちの中でも最強なんだから。きっと一人でもなんとかなるわヨ」

 アンナがそう言って僕に手を貸しつつ慰めるけど、うーん……でも正直一人は心細いよ。

 それに攻撃に関しては確かにそうかも知れないけど、僧侶がいないってのは冷静に考えてヤバイような……ダメージ回復できないぞ。

 何か釈然としないまま、一人イタリア方面の抜け道に向かう僕に仲間たちは次々と別れの挨拶をしてきた。

 最初に別れを告げに来たのはオークの美少女剣士ポーリーンだ。

「正直に言うと……アキラがオーク四天王『芸術王オルイゼ』を倒したのだとアルビアに聞かされてから、あなたのことは快くは思っていませんでした。憎もうとさえしました。でも、最初に冒険者闘技場でポーリーンを助けてくれた時に……その、……好きになってしまったのも事実です。もしも種族が同じで、違った出会い方をしていたなら……いえ、何でもありません。また近いうちに会いましょうアキラ。その時はサラをポーリーンに紹介して下さい」

 ポーリーンは恥ずかしそうに僕にぎゅっと抱きつき親愛のハグをすると、その大きな胸やお尻を揺らしてのしのしとエアリーランド方面の抜け道へ歩いて行った。

 待てよ……僕がオルイゼを倒したことを、わざわざオークであるポーリーンに聞かせただって?

 どうしてそんなことを……アルビアは本当に僕たちを裏切っていたのだろうか?

 そう考え込んでいると次にバードのパンク少女ベルがやって来た。

「じゃあなアキラ。おまえとの冒険、グレートで楽しかったぜ! さっきも言ったけどパパッと片付けてすぐそっちに行くからよ、待っててくれよな!」

 ベルは僕の頬にキスをするとウィンクして去っていく。

 そのリアクションにちょっぴりドキドキしていると、今度はロードのフルワンが僕に近づく。

「この"ロード・オブ・ハルバード"の777番弟子たるフルワンを裸に剥いたのは、後にも先にも一人だけだ。また会おう、戦士アキラよ」

 フルワンも僕の頬に髭をこすりつけてキスをすると堂々と去っていく。

 え、何か今のリアクションは同性に対して間違ってやしないか……それともドワーフ流の挨拶なのか?

 なんだか微妙な気分になった僕に、仔犬のように愛らしい僧侶のシロがニコニコ顔で近寄る。

「テッドお爺ちゃまや『心剣同盟』のみんなにまで認められて、アキラさは本当にすごい戦士だよー。いつかおらの一番上の兄さまも紹介するから楽しみにしててくんろー。汝に聖イグナシオの恵みがありますように」

 シロは十字を切るとトコトコと愛らしく小走りで去っていった。

 一緒にいるだけで和む、可愛いシスターだったなあ。

 ほんわか気分の僕の隣に、いつの間にか忍者のマツカゼが両腕を組みキメ顔で立っていた。

「フッ……拙者たちの間にもはや別れの言葉は不要だなアキラ。ひとつ言い忘れていたが、拙者を殺ったのは欧州忍者ギルド最強の忍、ライゾウだ。トキカゼが死の間際、ライゾウに拙者がギルドを裏切った情報を伝えていたらしい。拙者は歯も立たず敗れたが、もしもおまえがあの男と戦うことになったら忍法<十神不動掌底>には気をつけろ。こうして生還した今の拙者なればこそ分かる、あの技の弱点は恐らく――」

 マツカゼは僕にライゾウと戦う際の注意点を拙者を連呼しながら詳細に伝えると、風のように去っていった。

 うう、そんなヤバい相手と戦いたくないぞ。

 でも欧州忍者ギルドは僕のことを狙っているみたいだったし……戦う機会が来ないように願おう。

 そう思っていると、背後からいきなり盗賊のアンナにお尻をポンと叩かれた。

「アキラ、絶対にサラを助けてあげなさいヨ。それが日本に残ってる『バタフライ・ナイツ』メンバーみんなの願いでもあるんだから。アタシたちの心は離れていてもいつもひとつヨ。じゃあまた後でネ」

 アンナはウッフンと投げキッスをすると、スキップでエアリーランド方面の抜け道へと向かった。

 わかってるさ、僕の愛刀スシマサとムラサマを届けてくれてありがとうアンナ。

 絶対に僕はサラの結婚を阻止してみせる!

 最後に挨拶に来たのは『心剣同盟』の僧侶、テッドだ。

「アキラ君、短い間だったがこうして君と出会えて良かったよ。今まで孫娘のことを守ってくれてありがとう。それじゃあ……」

 一旦去りかけたテッドだったが、何かに気付いたように足を止めてまた引き返してきた。

「ちょっと待った! 君のその刀を見せてくれないか?」

 そう言って僕の二振りある愛刀のうち、スシマサを指差すテッド。

「これですか? どうぞ」

 テッドは僕から刀を受け取ると食い入るように見つめ、深く頷く。

「私にはホルターのような鑑定眼はないが、見忘れるはずもない。これは間違いなくスシマサだね。おまけに柄に結んであるこの青いリボンは……」

 なんだかスシマサえらく有名だな……それはともかく、このリボンに反応したってことは、ひょっとしてお婆ちゃんのことを何か知ってるのかもしれない。

「そうだ、テッドさんなら知ってませんか? 世界最初のロード、アカリ。会ったことのない僕のお婆ちゃんなんですけど」

 そう尋ねる僕にテッドは刀を返すと目を細めた。

「よく知っているよ。君も例の国際裁判で彼女とはもう会っているはずだよ」

 国際裁判で僕はアカリお婆ちゃんと会っている?

 その言葉に僕は必死でいつぞやの記憶を辿る。

 僕に無罪票を投じてくれた、国連事務総長ローゼンバーグ。

 アカリ――タマモズキアにあの世界で見せてもらった本、『ファースト・ロード』にその名前は出てきた。

 漢字で書くと紅里……そう、本名は紅里・ローゼンバーグ。

 全てが今繋がった。

 僕のお婆ちゃんは世界で最初のロードで、世界で一番偉い国際冒険者連合の事務総長だったんだ。

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