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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
186/214

彼女からの贈り物

「王の命だ。沙汰が下るまでここでおとなしくしているんだな。逃げようなどと妙な気を起こすんじゃないぞ」

 そう言って衛兵が突っつくように僕たちを3階に用意された部屋に押し込み、扉にガチャリと鍵をかける。

 ドワーフのお城の中にある一室に、僕たちは身柄を預かるという名目で事実上軟禁されてしまったのだ。

 まあいいさ。

 あの狭くて汚い地獄のような監獄都市の囚人房を経験した今の僕にとっては、並大抵の劣悪な環境ですら天国に思えるってもんだ。

 そう思いあらためて室内に目を向けると、結構広くて快適な部屋なのだと気付く。

 しかも扉で区切られてさらに隣室へと続いており、そこにはちゃんと人数分のベッドが用意されていた。

 机の上には水の入ったポットとグラス、大きめのパンと甘い香りを放つ果物がこれでもかと並び、部屋の隅にはトイレとシャワールームまで完備されているぞ。

「おいマジかよ、シャワーがあるぜ!? もう我慢できねー、アチシがお先に使わせてもらうっつーの! 話は後だぜアーヴィ……アンナ!」

 ウキウキと服を脱ぎ捨てながらシャワールームにベルが駆け込む。

 なんか色々こっちから丸見えだったけど……羞恥心ってものはないのかなあの人?

「ポーリーンも少し汗を流してきます。覗いてはダメです」

 僕が呆気に取られて見ているとポーリーンが口いっぱいに果物を頬張りながら隣室の扉を閉めた。

 劣悪な環境どころか、本当に天国かな?

 残ったのは僕とシロと堀田老人、そしてアンナだ。

 そう、『アングラデスの迷宮』で僕と一緒に冒険を繰り広げ、転移港で別れて以来それっきりだった『バタフライ・ナイツ』の頼もしい盗賊、アンナ!

「アンナ、一体何が――」

 僕がそこまで口にした瞬間、目にも留まらぬ速さでアンナが動いた。

「アキラ、久しぶりネ! アンナ・サプライズド・チュウ!」

 ぶっちゅううう。

 事情を聞こうとした僕の唇に、不意打ちで濃厚なキスをお見舞いしてきた。

 完全に一分の隙もない、達人のような動きだったぞ!?

 盗賊としてのスキルをフルに活用してそういうことするのはやめて欲しいんだけど……避けようがないじゃないか!

「あんれまあ、アキラさとベルのお兄さんはそっただ関係だったべ?」

「んん~っ!!」

 謎の笑みを向けるシロに違うと言おうとしたが、唇を塞がれて声にならない。

 おまけに妙に力が強く、一向に離してくれる気配もない。

 うう、なんて歓迎の仕方だよ。

 諦めて僕が抵抗しなくなるとようやく満足したのか、アンナは僕の体をそっと解放した。

「もう勘弁してよ……いくら何でもサプライズすぎるって。そうだ、僕のムラサマとスシマサを持ってきてくれたんだよね! さっきはおかげで助かったよ。あ、防具もある?」

 唇を手の甲でごしごしと拭う僕に、アンナは壁に寄りかかりながら手をひらひらと振る。

「ダサい囚人服のままじゃ可哀想だから持ってきてあげようと思ったけど、可憐な乙女のアタシには重くて無理だったわ。でもアキラの今着てるそのジャケット、ちょっとセンスいいじゃない。色はアタシ好みじゃないけど。ま、結果オーライってとこネ」

 なんか色々ツッコミどころがあるんだけど……さっきの怪力なら鎧のひとつやふたつ余裕だろうにさ。

「そうそう、これだけは持ってきてあげたわヨ」

 疑惑の目を向ける僕に、アンナがポーチから取り出したのは黒い皮手袋――ブラックミノタウルスの皮でサラが作ってくれた、僕へのプレゼントだ。

 胸が一杯になってほんの一瞬涙が出そうになったけど、僕はさっそく装備して腰に下げた二刀の柄を握り締めて抜刀する。

 空気を切り裂くビュッ、という音が室内に響く。

 ドワーフの老人がそれを見てほう、と感嘆の声を上げ目を細めた。

 うん、しっくり来るぞ。

 満足そうに手触りを確かめた僕に、堀田老人はビシッと指を突きつけた。

「黒の皮手袋。神話生物ブラックミノタウルスの皮を用いて作られた希少品。ふむ……拙い出来ではあるが作り手の強い思いが込められておる。その真価を発揮できるのは……どうやらおまえだけのようだ」

 『掘田商店』の主にして伝説のビショップは、そう言って椅子にどっしりと腰を下ろしパイプを手にした。

 僕だけが真価を発揮できる、か……レベルは1のままなんだけど、確かに攻撃力と守備力がグーンと増した気がする。

 何よりサラの愛情が込められているから勇気も100倍だ。

 僕はムラサマとスシマサを納刀して椅子に腰掛けるとアンナたちからこれまでの経緯を聞いた。

 ニガスの丘で三種族を解き放つための使用許可を王様に求めたらあっさり断られて、王様の息子で昔アンナとパーティだった戦士ガイが、己の死を後悔しなかった証拠を提示したらオッケーという話になったこと。

 『心剣同盟』の一員で先代国王の息子という、実はやんごとない立場の人だった堀田老人ことホルターがガイの日記を鑑定して、彼が死ぬ前にニガスの丘に植えた何かにワンチャンの望みを賭けてあそこに来たこと。

 アンナは僕たちが脱獄に失敗したのを悟って、監獄都市に侵入しわざわざ迎えに来てくれたらしい。

 自慢げに見せてきた見慣れない青い宝石の付いた綺麗な短剣で、警備をしていた念導兵(ガーディアン)を仕留めたという話には耳を疑ったよ。

 念導兵(ガーディアン)といえばあのヒョウマをいとも簡単にねじ伏せた、設定レベル99と噂される化物だからね。

 ホルターも『災厄の短剣でそういう戦い方をしたか』と妙に感心してたからきっと本当なんだろう。

 頭いいよなアンナって、一緒にいると頼りになる存在だ。

 そこまで聞いた時、隣室の扉が不意に開きシャワーを浴びたベルとポーリーンが気持ちよさそうな顔で隣室から出てきた。

「ふー、さっぱりしたぜ。ポーリーンと一緒でも入れるって結構な広さだったな」

 タオルを首からぶら下げたベルが手にしたグラスの水をぐいっと飲み干す。

「それはどういう意味でしょう? ポーリーンは最近ダイエットしてますし、ベルはお胸がありませんからスペース的にも何の問題もありません」

 両手にどっさりと果物を抱えたポーリーンの姿はダイエットという言葉にまるで説得力がない。

 アンナが急に両手をパンパンと打ち鳴らし全員の注目を集めた。

「ハイハイ、みんな揃ったところで大事な話をするわヨ。あの王様の決断をノンビリとここで待っている余裕はアタシたちにはもうないの。今すぐにここを出発するわヨ」

「今すぐ? てことはまた脱走か。僕の評判ますます悪くなりそう……」

 アンナの妹のベルも憮然とした表情でまだ乾ききってない髪をくしゃくしゃにした。

「はあ、マジかよ? つってもアルビアもいねーし。オーブは今アイツが3つとも持ってるんだぜ? モノがなきゃ解放もできねーっつーの」

 だよね、バードのアルビアは僕たちが捕まる前にどこか行ったっきりそのままだ。

 妹の言葉にアンナが驚いたような顔つきで声を上げた。

「ちょっと待って。アルビアって言った今? アナタたち、まさかアルビアと一緒に行動してたの?」

「アンナの言ってるのがどのアルビアかは知らないけど、フェルパーの囚人でバードのアルビアだよ。知り合いなの?」

 意外そうな声で聞き返すアンナに僕が答えると、オカマの盗賊は意味ありげに小指を立てて顎に手をやった。

「アキラには前にも話したことがあると思うけど……アタシが以前組んでたパーティ『ハイランダーズ』にいたのヨ、アルビアも。あのヤンや、消滅したガイと一緒にネ」

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