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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
185/214

タイムリミット

「衛兵、我が里が誇る辺境警備隊に恥辱を与えたそこの男を捕らえよ」

「ハッ!」

 きびきびとドワーフの衛兵たちが僕を包囲する。

 せっかく窮地を乗り越えたというのにこれはないよ!

 僕が衛兵にひっ捕らえられそうになったその時、アンナが叫んだ。

「ちょっと待って! アタシが王様に見せたかったのはそんなイチゴ柄パンツのドワーフじゃなくて、そこの花ヨ!」

 ムッとした表情でアンナを見るフルワン以外の全員が、周囲に咲き乱れる緑色の花に一斉に視線を向ける。

 言われれば地上では見たことのない花だけど……なんだこれ、状況がさっぱり分からないぞ?

「この花がどうしたというのだ? 私には何の興味もないな」

 そう言って片手を上げ衛兵たちに指示を出す、おそらく王様であろう男に、アンナは必死に言葉を続ける。

「ガイが日記で『里を出る前ニガスの丘にこっそり植えたアレがもうじき開花する頃』って書いてたじゃない。それがこの花に間違いないわ。きっと何か……」

 王はきっぱりと首を横に振る。

「悪あがきはもうしまいにせよ。我が息子ガイが戯れに植えただけのこと。それ自体には何の意味もない」

 うんざり顔でそう言う王に堀田老人は声を上げて反論した。

「いや。ギムレスよ、『花言葉』というものを聞いたことはないか」

 すると衛兵が顔色を変えて堀田老人に斧を向け叫ぶ。

「無礼な! 一度ならず二度までも王を呼び捨てにするとは!」

 だが王は何かを思いついたような顔でそれを止めさせた。

「待て……『花言葉』だとホルター? 面白い、聞いてやろうではないか。だがこれでそなたの顔を立てるのも最後だ。私を納得させられなければ、先程申した通りの処分を下す」

 処分ってなんだ?

 なんかよく分からないけどかなり正念場っぽいな……事情を知らない僕も思わずゴクリと僕も唾を飲み込む。

 一同が緊張の面持ちで見守る中、溜めに溜めて堀田老人はその口をゆっくりと開いた。

「ドワリリスの花言葉――それは『我が決断に一片の悔い無し』だ」

 堀田老人の言葉にその場がシーンと静まり返る。

 そして一瞬の静寂の後、王が真っ先に口を開いた。

「そ……そんな都合のいい花言葉があるものか! 口からでまかせを!!」

 怒鳴る王の前に、真っ白い髭のドワーフがひょこひょこと進み出て穏やかな口調で諭す。

「いや、ホルターの申した言葉に嘘偽りはありませなんだ。確かに、ドワリリスの花言葉は『我が決断に一片の悔い無し』で間違いありませぬ。この爺も若い頃、家内にドワリリスの花束を贈ったので、よう覚えておりまする」

「な、なんと……」

 そう聞かされ、頭に手を当てて何やら悩んでいる様子の王にアンナが畳み掛ける。

「ガイは里を出て冒険者になったことも、戦いの中でいつ死ぬかもしれないことも全部覚悟の上だったんでしょうネ。それをお父様に知って欲しかったから、わざわざこんな物をここに植えたのヨ」

 ウンウンと頷きつつアンナは王にそんな話をしてるけど……ガイって、確か前にアンナたちと一緒のパーティを組んでた戦士だよな?

 僕には何が何やらだ。

 王はこちらを見もせずに軽く手を振った。

「……沙汰は追って出す。それまでそなたらの身柄は城で一時預かりとする。私は久々に城外に出て、ちと疲れた……戻って少し休みたい」

 そう言った王の指示で僕たち、気絶したベルや丘の下に転がって同じく気絶していたポーリーンも含むみんなは、ドワーフの街の中にあるお城へと衛兵に武器を突き付けられたまま無理やり連行された。

 うーん、ある意味僕の念願叶ったワケだけど、こんな形では来たくなかったよなぁ……。

 おまけに仲間も一人いない。

 けどあの人は盗賊スキル持ってるし、うっかり捕まるようなヘマはしないだろう。

 そのうちひょっこり合流するさ、アルビアは。


 日本最大の迷宮攻略都市『城塞都市ネオトーキョー』。

 そこにある有名な冒険者の出会いと憩いの酒場、<うるわしの酔夢亭(すいむてい)>には、この街でもトップクラスの冒険者たちが集まっていた。

 ロードのジェラルド、侍のヒョウマとムクシ、魔術師のエマ、僧侶のヴェロニカ、ビショップのトニーノ。

 『イグナシオ・ワルツ』に『バタフライ・ナイツ』のメンバーが臨時で加入した、共に日本最大難易度と謳われた『アングラデスの迷宮』を攻略した現在注目株の精鋭パーティである。

 さらに南のネオリューキューで活躍する実力派パーティ『ハートブレイカーズ』から、アルケミストのドミナ、侍のヒルメリダ、忍者のフリーマン、モンクのザンテツ、レンジャーのミィの姿もある。

 いつもは数多くの冒険者でごった返すこの酒場に、現在彼ら以外のパーティの姿は見当たらない。

 毛むくじゃらのムーク族のバーテンも暇なのか無言でグラスを磨いている。

 この場にいる全員その顔は暗く沈み、食い入るように酒場の片隅にあるウィザードヴィジョンを見つめていた。

「キング・クリムゾンドラゴンが『城塞都市ネオトーキョー』の都市防衛機構本部を襲ってから一夜明けました。現場にはブレスにより溶けたオリハルコン製の鉄骨がいまなお剥き出しとなったままで、事件の悲惨さを物語っています。犠牲者の数はおよそ300名と見られていますがその正確な数は不明、遺体も骨ひとつ見つかっておらず完全に溶かされたものと思われます。当時現場では『巫女みこツインテイル』のライブが行われていました。判明している主な犠牲者は新たな上級職業『巫女』であったマナさんとヤヨイさん、プロデューサーの葉山剣一郎さん、ネオトーキョー都市防衛機構本部主任のリューさん、ヤヨイさんと同じパーティ『イノセント・ダーツ』のチヒロさん、クロトさん、ニーニさん、ミーミさんらがいたことが確認されています。あ、ただいま入りました情報によるとマナさんと同じパーティ『イグナシオ・ワルツ』のベンケイさんも『巫女みこツインテイル』親衛隊として現場にいた模様です。キング・クリムゾンドラゴンの行方は依然不明で、再度の襲撃もあるのではないかとネオトーキョーは不穏な空気に包まれています」

 ニュースの声がそこで途切れると、ジェラルドが目を伏せたまま悲しげな表情で口を開いた。

「共に戦った『イノセント・ダーツ』がこんなことで全滅するとは……うちのマナとベンケイまで……。神よ、彼らの魂に安らぎを」

 ジェラルドがそう言って十字を切ると、彼と同じく聖イグナシオ教会本部に属するヴェロニカとトニーノも祈りを捧げた。

 ムクシも毛に覆われた下で泣いているのか全身の毛を小刻みに震わせており、その背を隣りに座るヒョウマが優しく叩く。

 彼らが國原館で妹同然に可愛がってきた師匠の孫娘、ヤヨイも逝ってしまったからだ。

 死体がないのではもう復活させようもない、事実上の消滅と同じである。

 パーティメンバーを二人も失った『イグナシオ・ワルツ』の心情は推して知るべしだが、それは『バタフライ・ナイツ』のメンバーにとっても同じだった。

 彼らの仲間である僧侶ヤンが、ギガオーサカにてカジノで大儲けしたのを聞きつけたならず者に殺されたというとんでもない知らせが舞い込んだのだ。

 発見されたヤンの骨の一部は国連本部に送られて蘇生させられる運びとなったのだが、不幸にもそれすら失敗して消滅したという。

 国連本部に遺骨を送るように指示を出したのは、例の討伐報酬大幅減額を施行した法務部長、加賀の命令である。

 ニュースではヤンがならず者に殺されたという話までしか流れなかったのだが、ヒョウマたちに同行していた『世界三大冒険者』の一人、カルロ王子がギガオーサカからスイスの国連本部まで自ら出向いて調べ、ジェラルドの持つ念話経由で情報を伝えてくれたのだった。

 部外者なのでこれまで黙っていた着物姿のアルケミストは、ふうっと煙管から紫煙をくゆらせた。

「それで、あンたらはどうすンだい? キング・クリムゾンドラゴンの居場所を探し出して討伐に向かうのかい? それとも国連の加賀って奴をとっちめに行くのかい? あたいらもここまで来たンだ。昨日の敵は今日の友、なンだって力を貸してやろうじゃないのさ」

 ドミナが頼もしげに煙管をカン、とテーブルに打ち鳴らすと仲間であるミィ、ザンテツ、ヒルメリダ、フリーマンもそれに力強く頷く。

「むむむ、討伐報酬大幅減額の件だけでなくヤンの消滅にまで絡んでいたとは。ワガハイもう完全に加賀は許せないのでありまーす! 正義の侍ムクシが成敗してやりますぞ!」

 ムクシが鼻息荒く立ち上がると、隣のヒョウマが首を振る。

「待てムクシよ。わしも同意じゃが物事には順序があるきに。監獄都市におるアキラの救出をしてやらにゃいかんぜよ。アンナが一人で向かったっきり、どうなったやらさっぱり状況がわからん」

 同門の侍に冷静に語るヒョウマに、エマも大きな胸を揺らせて力強く頷いた。

「ワタクシもそれに同意ですわよ。終わったことを蒸し返すより、今を優先しませんと。アキラさえいればきっとこの絶望的な状況も何とかしてくれる……どうしてかしら、不思議とそんな気がするの」

 『バタフライ・ナイツ』から臨時メンバーとして参加していたヒョウマとエマの言葉を受けて、ジェラルドが憂鬱そうな顔で立ち上がり、皆を見回した。

「すまないが……みんなにひとつ最優先で力を貸してもらいたいことがある。明日なんだ――我がカルボーネ家の抵当期限と……例の加賀と、私の妹であるサラの結婚式が」

 美形のロードの男がそう言うと、全員が言葉を失った。

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