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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
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キング・クリムゾン その1

 『城塞都市ネオトーキョー』では、デビューライブで巫女として覚醒した『巫女みこツインテイル』による、その日三度目のライブが行われていた。

 ライブステージをナインテイルまつり会場から、ネオトーキョーでも一際高い場所に建つ都市防衛機構の本部屋上に移しての大規模なライブである。

 都市防衛機構とは、迷宮攻略都市を管理、防衛するために国連によって組織された集団だ。

 冒険者登録を行うための施設である訓練所同様、世界中の迷宮攻略都市に必ずそれは存在している。

 市街地へのモンスターの襲撃や冒険者の乱心など万が一の危機的事態に備えて、日頃からその監視の目を光らせているのだ。

 青空の下、愛らしい少女たちの歌声が高らかに響いた。

「ツイてるね♪ ナイてるね♪ ふたつのハートが近づくの♪ ツインテイルね♪ ナインテイルね♪ 本当の私を見て欲しい♪」

 それはデビューソング『冒険少女』ではない、『巫女みこツインテイル』はもう次の新曲『ハートの距離は何テイル?』をリリースしたのだ。

 デビュー初日にもう新曲をリリースという、完全にセオリーを無視した天才プロデューサー葉山剣一郎の大胆な一手であった。

「ハイッ、硬者(アーマー)! 小者(レッサー)! 強者(グレーター)! 殺者(スレイヤー)! 切者(スライサー)! 忍者(ニンジャ)! ジャージャー!」

 若者たちも『ヲタ芸』と呼ばれる独特の掛け声と踊りで、ステージ上の少女らの歌声に合わせて狂ったように応援している。

 久しく廃れていた日本古来より伝わる由緒正しいアイドル応援方法『ヲタ芸』も、誰が発案を持ちかけたのか知らないが、この日華々しく復活を遂げたのであった。

「あれが噂の『ヲタ芸』か。俺も早く覚えねぇと、流行に遅れちまう」

「本当キレッキレだな最前列の連中……特にあの仕切ってる白い袈裟着た奴の動き、とても素人とは思えん。でもよくこんなでっかいハコを用意できたよな。都市防衛機構本部って国連の施設だろ? すげえや」

「おれ、エレベーターなんて生まれて初めて乗ったぜ。さすがネオトーキョーの技術の粋を結集して建てられた都市防衛機構本部だけある……あ、今おれと目が合った! ヤヨイちゃーん!」

「マナちゃーん、愛してるー!」

 熱狂的な若者たちを尻目に、会場の隅々には長槍を持って武装した都市防衛機構の兵士たちが直立不動の姿で立っている。

 彼らも話題のアイドルユニットに興味津々のはずだが、ステージ上には目もくれず己の仕事を忠実に守っているその姿は賞賛に値するだろう。


 後方のテーブル席でドリンク片手にライブを見ている青い腕章を付けた年配の男に、黒いウェーブがかった長髪サングラスの男が親愛の情を込め語りかける。

「いや、こんな立派なハコを貸して頂き助かりましたゾ、リューさん!」

「なあに、君のお父上……葉山一郎さんには生前何かと世話になったからな。ペーペーで満足に食えない私たちを、一郎さんはいつもメシに連れてってくれたものだ。私たちでは手が出ないような高級な店にね」

 しみじみと遠い目をして思い出に浸る腕章の男であったが、ふと顎に手をやり考え込んだ表情になった。

「しかし……妙なのは国連本部だな。ここの使用許可を一応申請していたら、何故か事務総長ローゼンバーグ氏でなく新しく就任した法務部長が直々に圧力を掛けてきた。『犯罪者アキラと多少なりと関わりがあった者に国連が所有する建物の使用許可は出せない』と」

「圧力……では指示に背いたリューさんの身にご迷惑が? それはいけませんゾォ~!」

 慌てた顔で髪を振り乱す『巫女みこツインテイル』プロデューサーの葉山剣一郎に、ネオトーキョー都市防衛機構本部主任のリューはギラリとした笑みを浮かべて首を軽く振った。

「ローゼンバーグ氏ならいざ知らず、新参者の小童の戯言に屈する私ではないさ。いざとなれば出るところに出てやる覚悟だ。それに、『ザ・カブキ』の恋十郎さんからもアキラの件については前に頼まれたからな。愛するこのネオトーキョーの街を一度ならず救ってもらった恩もある――真に尊敬に値する人物が窮地に立たされた時、人は自ずとその力になろうとするものだ」

「リューさん……」

 その言葉にいたく感激する葉山であったが、その明晰な頭の中では会話に出てきたアキラのことについて思い巡らせていた。

(アキラ……ヤヨイとマナからは別のパーティでありながら、善・中立・悪の3パーティを結びつけ、アングラデスのボスであるアークデーモンを倒した迷宮攻略の真の立役者と聞いたゾ。それほどの男が国際裁判で有罪判決を受け監獄送り……しかも彼を告発し有罪に導く証言をした人物こそ、今の国連法務部長の加賀竜ニとは。ふむ……察したゾ、君ィ!)

 サングラスで隠れた葉山の目がキラリーンと輝いた。


 その時、不気味な影が会場全体を覆い尽くした。

「な、なんだ? 上からすごい突風がきてるぞ」

「雨雲でも発生して暴風雨が起こったってのか? せっかくのライブだってのに」

「いや、違うぞ……翼が見える。鳥? まさかまた『トリプルG』!?」

「いいやそれも違う! あれは……もしかして……」

 ざわめき怯える観客たち。

 それはかつてネオトーキョーを襲撃した『グレーターグレイグリフォン』とは比べ物にならない、超大型の飛行生物であった。

 アキラたちが戦った鳥の王『ロック・ザ・バードキング』をも凌駕するとてつもない大きさである。

 それもそのはず、その飛行生物は鳥ではなく伝説の生物、モンスターの王者とも評されるドラゴン。

 その中でも最大の大きさと強さ、そして凶暴性を兼ね備えた『キング・クリムゾンドラゴン』だったのだ。

 真紅のドラゴンは空中に佇んだまま会場の人間たちを一瞥すると、いきなり容赦なく火炎のブレスを吐いた。

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