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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
167/214

ナインテイルまつり

 夢を叶えよう 願いを形にして

 いま 走り出す わたしたち冒険少女


 わたしのハートは 未鑑定なんだもん

 止められない譲れない

 クリティカル 心に届いちゃうから


 心のツルギが 軌跡描くように

 ひらめく ときめく 無敵 ステキ


 大好きって気持ち 思いを言葉にして

 さあ 胸を張って わたしたち冒険少女


 乙女のハートは 無敵なんだもん

 未攻略のダンジョンも

 二人なら きっと行けちゃうよね


 勇気のシルシが 奇跡起こすように

 きらめく 輝く キラリ キリリ


 大事なものは全部 胸に刻んでるから

 もう 迷わない わたしたち冒険少女


 どんなに高い鉄壁の アーマークラスでガードしてたって

 絶対に 負けないって 気持ちでぶつかろう


 大好きな人の 力になりたいから

 いざ 時は来たり! わたしたち冒険少女――♪


 お揃いの水色のツインテールのウィッグで揃えた、巫女装束を連想させるフリフリの白いトップスと赤いミニスカート姿の美少女二人組。

 歌い終えた彼女らはステージの中央で深くお辞儀をした。

 稀代の天才プロデューサーの異名を持つ、葉山剣一郎がプロデュースした冒険者アイドルユニット『巫女みこツインテイル』である。

 葉山剣一郎自らが作詞作曲振り付けを担当したデビューソング『冒険少女』が終わると、万雷の拍手と喝采の雨が狭い会場内に鳴り響いて止まなかった。

 デビューが決まってからみっちりと超一流のプロによる厳しいレッスンをこなして来ただけあって、『巫女みこツインテイル』のライブはそれはもう完璧なものであった。

「だ、大成功ですよ! ナインテイルまつりがこんなに盛り上がるなんて夢みたいだ……ありがとうございます、先生っ!」

 大興奮のナインテイルまつり実行委員会の男たちがこぞってサングラスの男にペコペコと頭を下げる。

 それはウェーブのかかった特徴的な黒い長髪、黒づくめのシャツとズボン姿、いかついサングラスをかけた50代ぐらいの男だ。

「そ、それで先生、ギャラの方なんですが……」

 実行委員会の男が申し訳無さそうな顔で口ごもると、サングラスで隠れたプロデューサーの目がキラリーンと光る。

「この葉山剣一郎が金や名声の為に仕事をしていると思うのかね? 銭湯のお祭り企画で高額なギャランティを要求するほど落ちぶれてはいないゾ。察しなさい君ィ!」

 黒い長髪をなびかせると、葉山は親指を立てにっこりと頷く。

「せ、先生……っ!!」

(この人はホンモノだっ! 葉山剣一郎は尊敬に値する本当の人だった……っ! ありがとうございます、先生!)

 若いスタッフがあまりの感激で泣き崩れる。

 実行委員会の男たちも葉山の粋な言葉を聞いて、全員が男泣きに泣いた。


 日本最大の迷宮攻略都市であるここ『城塞都市ネオトーキョー』は、迷宮に赴き生計を立てる冒険者たちの重要拠点である。

 そのため、先日国連から発表された『冒険者の討伐報酬の大幅減額』のニュースは冒険者たちの空気を一変させ、暗く重々しい鬱屈とした雰囲気が街にも漂っていた。

 『ナインテイルの湯』が企画したナインテイルまつりもその影響で開催を危ぶまれたが、実行委員会が一丸となり、後の大赤字を承知で強行開催に踏み切ったのだった。

 結果は盛り上がりに盛り上がって大成功といえたが、今後の街にもたらされる収入を考えると実行委員会の懐にはもう完全に余裕はなかったのだ。


 しかし不思議である。

 稀代の天才と呼ばれる名プロデューサー葉山剣一郎が、何故タダ同然のギャラにも関わらずこんな企画を引き受け、国連も新上級職の巫女などをわざわざ用意したのか。

 その意図は完全に不明だが、実行委員会の男たちにとってはそんなことはもうどうでも良かった。


「それよりも、ライブが大成功したとなればあっちの方も……そろそろ来るゾ~!」

 全身黒づくめの葉山がビシィッ、と指をステージの少女たちに鋭く向ける。

 すると突然マナとヤヨイの持つマイクが輝き出し、二人の頭の中で謎の声が囁いた。

 『スペシャルパワーを使いますか?』

「えっ? 茉菜ちゃん何か言った?」

「ううん。今の声、弥生ちゃんじゃなかったの?」

 互いの顔を見つめ合い不思議そうな表情を浮かべる二人の少女に、ステージの袖からプロデューサーが声を掛けた。

「察しなさい君たちィ! 巫女になりたいんだろう? なら答えは決まっているゾ。『はい』だ!」

 戸惑いながらも少女たちがコクリと頷くと、突如その体を眩い光が包み込んだ。

「スゲー、光りだしたぞ『巫女みこツインテイル』の二人!」

「これも演出? ナインテイルまつり、思ったよりやるなあ!」

 それを見た観客たちも大盛り上がりでワーっと歓声をあげる。

 しばらくして光がおさまった時、マナとヤヨイは今まで感じたことのない新たな力を得ていた。

「今……第4の上級職、巫女への扉が開かれたゾ! これで未来が変わる。より良い方向へと――」

 葉山は腕組みをしたまま満足そうな表情を浮かべ、意味深な言葉を誰に聞かせるともなく呟いた。


「ヤヨイとマナの二人、すごくよかったじゃないか。なあ?」

 中立のパーティ『イノセント・ダーツ』のリーダーである盗賊の男、チヒロが仲間に同意を求める。

「いい、な」

 極端に口数の少ない筋肉隆々なリズマンの戦士クロトも、チロチロと爬虫類っぽい赤い舌を出し入れしながらそう呟く。

 客席は満員でごった返しているにも関わらず、クロトの周辺だけぽっかりとスペースが空いている。

 それもそのはず、クロトはネオトーキョーの戦士の中でも二番手のレベルを誇る超実力派戦士だからだ。

 彼がリズマンと呼ばれる希少種族で、爬虫類を思わせる独特な風貌をしているからというのも少なからずあるのだが……。

 その背中で燦然と輝く、黄金の柄頭が眩しい両手大剣デュランダルは、冒険者ならば誰もが羨むムラマサに匹敵する伝説級の武器であり、この街ではもう彼の代名詞となっていた。

「ミーミもアイドルになりたかったのー!」

「ニーニだって踊りには自信があるのよ! まったく、逃した魚……いやフェアリーは大きいんだから! 覚えてらっしゃい実行委員会!」

 クロトの肩に止まって不満そうな声を出したのは、猫よりも小さな愛らしいフェアリーの姉妹である。

 姉のニーニはアルケミスト、妹のミーミはサイオニックだ。

 『アングラデスの迷宮』<攻略者>の称号を授かった彼ら『イノセント・ダーツ』も、仲間のヤヨイがアイドルオーディションに合格し、パーティ人数が4人となったので冒険を一時中断してライブの応援に駆けつけていたのだった。

「それにしてもマナの応援に来ないだなんて『イグナシオ・ワルツ』は随分と薄情なのね! そうだわ、マナをニーニたちのパーティにスカウトしてみない? ヤヨイとも仲いいみたいだし、きっと喜ぶわよ!」

「6人のフルパーティになるしミーミも大賛成なのー! ヤヨイとマナは巫女になったから、限定上級職が二人もいるだなんて超すごくなるのー!」

 名案を思いついたと嬉しそうに飛び回るフェアリーたちに、チヒロがやれやれと両手を広げる。

「確かにマナも中立だから俺たちのポリシーには合ってるが。『イグナシオ・ワルツ』は今頃ネオリューキューで『魔王ミズキ』討伐の真っ最中だぜ? 『バタフライ・ナイツ』のヒョウマとエマも助っ人参加したと聞いたな。そんな真剣にドンパチやってる最中に、パーティ引き抜きを持ちかけるのはフェアじゃないさ。それに、彼女だってうんとは言わないだろう。パーティの『絆』ってヤツはそう簡単に断ち切れるもんじゃない――」

 ステージの二人を温かい目で見つめながらそう呟くチヒロの言葉に、クロトも黙って頷きを返す。

「ふん、かっこつけちゃって。逃した巫女は大きいわよ、チヒロ」

 ニーニがつーんとそっぽを向くと、妹のミーミも姉の真似をする。

「ふーんなのー。チヒロとは意見が合わないのー」

(やれやれ、またカノン姉妹のご機嫌を損ねちゃったか。この間のポイズンジャイアントの一件以来どうもなぁ……)

 チヒロは心の内でそう呟くと、困った顔でポリポリと頭をかいた。

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