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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
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ヘルハウンドの迷宮 Easy その1

 テングたちとの戦闘を終えた僕たちは、僧侶であるシロの呪文で回復を済ませた。

 千切れかかっていた超無残なベルの足の傷も元通り、本当に回復呪文ってやつは凄いよ。

「サンキュ、シロ。おかげで治ったぜ。クソテング野郎のせいで、もう少しでくたばっちまうとこだったっつーの」

 ベルが立てた親指を逆さにして歯を見せて笑う。

「おらがいれば何も心配いらねえだよー。こっただ傷も治せねえようじゃアンバーウルフ家の名折れだべ」

 シロがラウルフの特徴である犬のような鼻をピクピクさせながらえっへんと胸を張った。

「それじゃ行こうか。例の凶悪S級モンスターをサクッと片付けよう。ボヤボヤしてると晩飯に乗り遅れるよ」

 そう言って颯爽と肩で風を切り先頭を歩く僕。

 ちょっと前までの情けない自分はもういない、今の僕はどんな敵でも一撃で片付ける自信に満ち溢れている。

 だって世界最初のロードだったお婆ちゃん、アカリの必殺技を使えるんだから。

 そうだ、ここを出てサラの一件が落ち着いたら、アカリお婆ちゃんを探してみようかな?

 きっとまだどこかで元気にしているはず……そうとも僕は天涯孤独なんかじゃない、家族に会えるんだ。

 よし、やる気が俄然漲ってきたぞ!

「なんかアキラの野郎、急に張り切りだしたな……にしてもなんださっきのスゲー剣技は? とてもレベル1の戦士の強さじゃねーっつーの」

「ポーリーンは見ていないので残念です……それ程までだったのですか、アキラの剣の冴えは。確かに闘技場でも並外れた蹴り技を見せていましたが……」

「あんなにボーッとしてたアキラさがあそこまで強かっただなんて、まだ信じられないだよ。まるでおらの一番上の兄さまみたいだったべ!」

 女子たちがアキラの話題で盛り上がっていると、アルビアがその背後からドヤ顔で会話に割り込む。

「ふっふっふ、アキラはんは並の戦士じゃ~あらへんで。なんせ、あのオーク四天王の芸術王オルイゼを倒しただけやなく、日本最高難易度の『アングラデスの迷宮』攻略まで達成したお方やさかいな! 邪魔する奴は人だろうが神だろうが愛刀のムラマサで全て叩っ斬る、それが"非情の殺戮マシン"アキラはんや」

「マジかよ! 超クールだなアキラの野郎。好きになっちまいそうだぜ!!」

 その言葉に興奮した顔でベルが食いつく一方、ポーリーンの顔はたちまち凍りついた。


 しばらくジャングルを進むといきなり凄まじい異臭が漂ってきた。

 汚物と臓物をぶちまけたような……ちょっと耐えられない臭いだ。

「うっぷ、何だこれ? 死臭?」

 僕が鼻をつまみながらそう言うと、シロがふらふらしながら何かの呪文を唱えた。

「人一倍鼻の利くラウルフには地獄だよー。今<防膜>の呪文さを唱えたから、これでマシになるべ」

 あら、ホントだ。

 あれ程キツかった臭いが一切しなくなったぞ。

 僧侶呪文って色々と便利だなー、シロがいてくれて本当に良かったよ。

 僧侶といえば僕の仲間のヤンは元気かな?

 ヤンのことが突然気になったけど……いや、今はあのノームの変わり者のことなんてどうでもいいはず。

 僕がぶんぶんと頭を振ると、合わせるようにアルビアが陽気に片手を振った。

「ほな、わてが一足お先にダッシュで見てきますわ。アキラはんたちはここで待っといてんか」

 言うが早いか、アルビアはそのスピードを活かして、あっという間にジャングルの奥へと消えていった。

 数分後アルビアが難しい顔をしながら帰ってきた。

「お帰り。どうだった?」

 僕の声にアルビアは勿体付けるような口調で返す。

「聞いて驚いたらあきまへんで。あの『ロック・ザ・バードキング』が死体になって他のモンスターに食い荒らされてましたわ……わてらの他に誰かがここにおるっちゅうことでっせ。しかも相当な手練なのは間違いおまへん。そいつらの目的がこれじゃなさそうなのは、ええことなんか悪いことなんか……」

 そう言って、手に握った何かを僕に見せてきた。

 それはキラキラと淡い輝きを放つ、手の平サイズの球状の物体だ。

「もしかしてそれが宝珠!? えーっ!!」

 驚きの声を上げる僕にアルビアが頷く。

「こりゃ間違いおまへんで。どうせならこの調子で誰かさんが『レイクドラゴン』と『デビルユニコーン』もついでに倒してくれたなら、えろう助かりますわ」

 そりゃそうだけど、こんな簡単に手に入っていいのかな?

 完全に記憶を取り戻した僕は三体の凶悪S級モンスターと戦う気マンマンだっただけに、いきなり肩すかしを食らい拍子抜けしたぞ。

 特に一度敗走した鳥の王にはきっちりとリベンジしたかったよ。

「おい、アチシにも貸せよアルビア」

「おらもよく見たいだよー」

「ポーリーンも気になります!」

 興奮した女性陣が僕を押しのけて前へ出ると、アルビアはお預けとばかりにさっと手を引っ込めた。

「あきまへん! これは宝石でもオモチャでもあらへんで。とってもとーっても大事なモンやさかい、その時が来るまでわてが厳重に管理しときます!」

 女子が一斉に不満そうな顔でバードの男を睨むが、当のアルビアはどこ吹く風といった様子で全然気に留めていないようだ。

 アルビアは信用できる男だから宝珠は彼に預けておけば安心だな。

 身のこなしも仲間内で一番だし、何かあっても簡単に宝珠を奪われたり失くすようなこともないだろう。

「まあ鳥の王の宝珠が手に入ったのは良しとして、次の2体か。そうだ、『デビルユニコーン』のいる地獄の森ってここじゃないの?」

 鬱蒼と樹々が生い茂るジャングルを見回しながら僕がそう問うと、ベルが小さく首を横に振る。

「ここは単なる凶悪S級モンスター共の棲む場所に通じる入り口に過ぎねー。この先に『ロック・ザ・バードキング』が本来いた絶望の断崖がある。そこを降りれば『レイクドラゴン』のいる神秘の地底湖だ。地獄の森はそのさらに下層にあるって昔クソ親父様から聞いたぜ」

 うへえ、もしかして崖下りでもしなきゃいけないのかな?

 何となく嫌な感じがするぞ……。

 ベルに案内され、僕たちは絶望の断崖を目指した。


 一方、欧州のとある大豪邸。

 コンコン。

 書斎のドアをノックする音が静かに夜の大豪邸に響く。

「入れ」

「お帰りなさいませ旦那様。魔界での首尾はいかがでしたか」

 ビシッとスーツを着こなしたビジネスマン然とした男が、さらに上等な高級感あふれるスーツを着こなす自身の主へと頭を下げる。

 館の主は、竜から進化したと言われる種族ドラコンの男――欧州貴族ソサエティ代表を務めるドラッケン・イムズ・バレンタイン伯爵である。

「ふふ、万事うまくいったぞ。魔族である連中の天敵たる、我が下僕エクレールのおかげでな。復活し損ねた『魔王様』には気の毒だが、おかげで大量の魔力とポイントを得られた」

 ほくそ笑みながら、伯爵は自らの傍らに立つ無表情な美しいメイドの頬を鋭く尖った爪で撫でる。

「それより、私の不在の間に人界では何か変わった動きはあったか?」

 伯爵に問われ、男が手際よく黒い革のカバンから書類を取り出し読み上げた。

「例の加賀財閥の息子はこちらの思惑通りに動いております。カルボーネ家の領地が手に入るまであと数日です。ですが……二件、要注意案件がございます」

 伯爵の眉がピクリと動いた。

「ひとつはアキラの仲間であったヤンという男が、どんな強運かカジノで大勝ちをしておりまして。目標額と吹聴している2000万間近にまで迫っております。ご存知の通りカルボーネ家の娘であるサラも彼らの仲間であり、恐らくその金を負債の完済に充てる気かと」

 それを聞いたドラコンの男がイライラとした様子で高級そうなオークウッドの机に鋭い爪をガリガリと立てる。

「……聞き捨てならん話だ。何のためにわざわざ遠回りをしてまで、あのカルボーネ家を破産に追い込んだと思っている?」

 男は主の怒りをなだめるように目を伏せると丁寧に言葉を返す。

「ようく存じております。既に私めの一存で中華殺技団に依頼を済ませ、旦那様の指示があり次第いつでもヤン抹殺命令を降せる準備を整えてございます。影響力のない無頼の冒険者ならば、暗殺をした所で何も問題はありませんので」

 それを聞いた伯爵の表情は一変して上機嫌になった。

「ほう! それは愉快な話ではないか。計画の懸念材料は速やかに処分せねばならん。やれ、すぐにな。だがその前に、もうひとつの要注意案件とやらも聞いておこうか」

「はい。獄中のアキラが囚人仲間と例の使用済みの宝珠の回収に向かいました」

 これにはあまり関心を持たなかったのか、伯爵はつまらなそうな顔になる。

「構わん。あれは最早使い道のないただのゴミだ。だが、気に入らんな……囚人の分際でそんな物に目を向けるとは、何故だ? 放って置けばすぐにくたばると思っていたが、その前にこの私の正体に気付くのではないか? となれば少々面倒なことになるぞ」

 顎に手をやり考え込む伯爵に男がすかさず言葉を続ける。

「ご安心下さい。それも私めが手を打ってございます。アキラが決してあの監獄から外に出られぬよう、配下の者が監視しております。万一、旦那様の存在に気付いた所であそこから出られなければ何も問題はございません。囚人の話になど耳を傾ける者はおりませんゆえ」

「結構。有能な部下を持ち私は嬉しいぞ。では下がれ。そうだな……ワインを持って来いエクレール。ワインセラーの中から一番上等のヤツをな。今宵は祝杯を上げたい気分だ」

 一礼して男とメイドが書斎を退室すると、伯爵は実にご機嫌な様子で一人呟く。

「よしよし、魔界も人界も我が手中にあり! 私こそが次元を超えし、唯一無二、絶対的存在となる日も近いぞ。ふふ……名を考えねばならんな。王にふさわしい名を」

 長年の魔界における下働きの間に溜まっていたストレスが爆発したのか、深夜に渡って自身の名乗りの口上まで考え続けるドラッケン・イムズ・バレンタイン伯爵であった。

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