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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
159/214

最強の侍

「くっ、万事休す……か」

 盾を失った上に近すぎる間合いに踏み込まれたジェラルドは、目の前のモンクに剣を撃ち込めずにいた。

 おまけに頼りの仲間たちは、敵のレンジャーと忍者に完全に動きを封じられて援護は望めそうにない。

(とは言え、1対1の状況をお膳立てされてるんだ。このモンクに文句も言えやしない。たまたま相手が私にとって相性最悪だっただけの話だ。超接近戦でここまで隙のない連続攻撃を仕掛けてくるとはな……)

 右へ左へとうねるようなヌンチャクの痛烈な攻撃を、プレートメイルで保護されてない手首の部分に浴びたジェラルドの額から汗がこぼれ落ちる。

 そんな防戦一方のジェラルドに対し、ザンテツは龍の姿が彫られたヌンチャクで連打の嵐とばかりに猛攻を仕掛ける。

「ホワッチャアーーーーァ!!」

 ザンテツは大昔のムービースターが出す怪鳥音のような声を上げて、見目麗しいロードの青年の側頭部に強烈な一撃をまともにお見舞いした。

「ジェラルド! ちいっ、忍者に人質に取られた後衛も気になるが……ここはリーダーの救助が優先じゃ。いつまでも威嚇射撃に付き合うとる義理はないきに。男ヒョウマ、いざ参るぜよ! うおおおッ!!」

 雄叫びを上げて突撃するヒョウマに向けて、敵のレンジャーから神速の矢が迫る――。

 シュバッ!

 フェルパーの侍は猫科特有のしなやかな動きで名刀グレートカネヒラを振るうと、その矢を一刀の下に切り落とした。

「にゃーん! うそだにゃ、ミィの矢を見切ったにゃ!? はぁ~、でもやっぱりあの人素敵だにゃん」

 次の矢を番える動作もせずに、ヒョウマを恍惚の表情でうっとりと見つめるミィ。

「今ですぞヒョウマ殿!」

 ムクシがそれを見てチャンスとばかりに動き、長い毛で覆われた目がキランと光った。

 連携攻撃の合図である。

「応よムクシ! 國原一刀流心技<跳偉虎>ッッ!!」

「同じく、國原一刀流心技<七ツ鋸>でありまーす」

 ヒョウマが大きく跳躍し、空中からグレートカネヒラとハネトラの二刀を交差させ落下してくる。

 ムクシは地上から駆け抜けざまに名刀セブントルソーを全力で振り抜き、互いに最強の必殺技をザンテツ目がけて放った。

「ホチョッ!?」

 よろめくジェラルドにとどめを刺そうとしていたザンテツは、両隣からの侍二人による援護攻撃に気付いた。

 それを避けるか受けるか考えたザンテツだったが、その技の迫力あるモーションを見て、受ければ確実に自慢のドラゴンロッドがへし折れてしまうと確信した。

 そして、その時にはもう回避できるほどの時間は残ってはいなかった。

 チィーン。

 静かな金属音が広間に鳴り響いた。

 その正体はエルフの女侍の刀が、二人の必殺技を受け止めた音であった。

 大の男二人による刀をたった一刀で受け止めたのならもっと激しい音がしそうな物だが、一体どのような力と角度でそれを受け止めたのか……。

 ヒョウマとムクシはピタリと女侍の刀に自らの刀を押し付けたまま、まるでストップモーションのように間抜けな格好で止まっている。

「し、信じられんぜよ……なんちゅう技量じゃ」

「むむむ……出来る侍だとは思ったでありますが、よもや心技<七ツ鋸>がこうもアッサリ止められるとは。ワガハイ、もう自信喪失ですぞー!?」

 ヒルメリダは素早く納刀すると、金色のポニーテールを揺らして視線をグロッキー状態のジェラルドに向けた。

「その鎧の若者はもう戦闘不能と見ていいだろう。ザンテツ、君はもう下がれ。モンクと侍では相性が悪い。この二人の相手は私がする」

「わかったッ! 無駄にドラゴンロッドを折らずに助かったぜッ、ヒルメリダ!」

 モンクの青年がウィンクして素早く前線を退いて下がると、女侍はヒョウマとムクシに向かって話しかけた。

「私はヒルメリダと申す。先ほど"國原一刀流"と聞こえた気がしたが……君たちは國原館の門下生か?」

 その言葉にムクシが胸を張って答える。

「そうなのでーす。ワガハイたちはあの最強の侍であるコジロー先輩を育てた、國原中弥斎師匠の愛弟子なのでありますぞ。國原館に入門希望でありますかな? むふふ、ヒルメリダ殿もなかなか見所があるのでーす」

「おまんは馬鹿かムクシ……」

 ヒョウマは思わず頭を抱えた。

 自分たちの実力をはるかに超えると思われる相手にかける言葉ではないからだ。

 それを聞き、ヒルメリダは静かに目を伏せ首を横に振った。

「最強の侍はコジローではない……國原館の者とはいえ、君たち程度ではやはり知らないか」

(あの世界三大冒険者のコジロー先輩が最強の侍じゃないじゃと? この女、先輩を……いや國原館を愚弄しよるか。しかもわしら二人を一人で相手にするじゃと?)

 馬鹿にしたようなヒルメリダの言葉に、めらめらと怒りの炎がヒョウマの中で湧き上がる。

「ほんなら最強の侍は誰ちや。自分じゃ言いたいんか? ちっくと腕に覚えがあるからとほたえたな。ムクシよ、おまんは手を出すな。こいつはわしが相手するき」

 ハネトラを納刀し、グレートカネヒラのみを構えたヒョウマが間合いを取る。

 ヒルメリダはヒョウマの刀に視線を向けると微笑を浮かべた。

「ほう……大包平か。良い刀を持っているな。ただひとつ残念なのは、それに見合う実力を持ち主が兼ね備えていなさそうなことだ」

 その皮肉にカチンときたヒョウマがすかさず言い返す。

「言うたな。ならおまんの得物は何ぜよ?」

「私の刀はムラマサ・レプリカ。これはあの妖刀と呼ばれたムラマサの偽物……刀のランクでは君の大包平とは比べようもない。ただの紛い物だ」

 ヒルメリダは愛しげにムラマサ・レプリカの真っ赤な鞘へと指を這わせる。

「ほいたらその実力も紛い物かどうか、わしが今ここで改めて試してやるぜよ! 國原一刀流奥義<向抜撃剣(むこううちぬきけん)>」

 それはヒョウマたちの先輩である救出屋のトシが得意とする技であった。

 古の侍、土方歳三が得意とした必殺剣をベースとした、相手より先に攻撃可能な奥義。

 先日、念導兵(ガーディアン)との戦いで力不足を実感したヒョウマは、その技をこの短期間で師匠より学んでいた。

 だが――。

「國原一刀流奥義<向抜撃剣改速むこううちぬきけんかいそく>」

 キィーーン!

 ヒルメリダが後から放ったその技は、信じられないことにヒョウマの技より速く発動し、グレートカネヒラを天高く弾き飛ばした。

「な、なんじゃと!?」

 國原一刀流の奥義、しかも自分の技よりも格段にレベルの高いその攻撃を前にしてヒョウマは動揺の色を隠せない。

 見守るムクシもあんぐりと口を開けている。

「國原一刀流の大半の技なら私も習得している。君に教えてあげよう、國原一刀流が生んだ最強の侍……その至高の奥義を」

 ヒルメリダは静かにムラサマ・レプリカを抜いて構えると、目を瞑ったまま雷のごとくヒョウマに向かって駆け出した。

「<操手狩必刀(くりてかるひっとう)ムラマサ無礼胴(ぶれいどう)>」

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