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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
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監獄都市生活2日目 その2

「えっと、シスター……じゃないですよね?」

 僕がためらいがちに尋ねると、やれやれという様子で老婆は深くため息をついた。

「ただのしがない占い婆がシスターに見えるようではいよいよオシマイじゃのう。道に迷うた哀れな少年よ、わしの占いはピタリとよく当たるぞ? ひとつ試してみるがよい」

 不確かな占いより確実に傷を癒やしてくれるシスターを僕は今早急に求めてるんだけどな。

「そんなにお金持ってないし、いいです。それじゃ」

 興味なさげに返事をして顔を背ける僕を、老婆はひどく慌てた様子で引き止めにかかった。

「こ、これこれ! 待たぬか少年! ここで占わねば何をしにわざわざ……コホン。いや、短気は損気じゃぞ? ちいとまけてやらぬでもない。いくらなら出せるんじゃ?」

「僕が持ってるのは1Gだけですよ」

 昨日アルビアから貰ったそれが僕の今の全財産である。

「それでよい。特別サービス、1Gでおぬしの未来をわしが占ってやろうぞえ。こんなサービス滅多にしないんだから、感謝せいよ?」

「えーっ……何だか強引だなあ。まあいいや。はい1G。いちち」

 監獄でも金が必要だとはいえ、実際1Gじゃ何もできないだろう。

 そう思った僕はなけなしの1Gを檻の外の老婆へとポイと投げて渡す。

 コイン1枚放るアクションですら体が痛い、早くシスターに治してもらわないとな。

「うむ。しかし10Gすら持っておらんとは哀れじゃのう。おぬしは間違いなくこの監獄都市で一番の貧乏人じゃな。わしが太鼓判を押そう」

 心底呆れたような声で老婆がそう言った。

 むぐぐ、確かに哀れなのには違いないけどさ。

 Gはここに入る時に全額没収されたんだからしょうがないじゃないか。

「もういいからさっさと占ってくださいよ」

 若干イラっときた僕は老婆から顔を背けてベッドに仰向けになる。

「やれやれ、ゆったり世代の若者はこれじゃから……ほい、見えたぞ。『危険に満ちし迷宮へ敢えて飛び込め。番人が持つ3つの宝珠が汝を救う』『親しき友にも二心あり。裏切り者に重々注意せよ』『メイドさんを決して傷付けてはならぬ。それは死出への道標となる』……こんなん出ましたぞえ?」

 いや、お茶目に『こんなん出ましたぞえ?』って言われましても。

「一体何なんですかその変な占い……ってあれ? もういないや。たった今までそこにいたのに。意外に身軽なお婆ちゃんだな」

 それにしても1Gと格安とはいえ、かなり胡散臭い内容の占いだったな。

 まあせっかくお金を払って占って貰ったんだし、一応忘れないように憶えておくか。

 えーと、迷宮に入ったら番人の持つ宝珠を3つ集めて僕は救われるというのと、僕の友達に裏切り者がいるというのと、メイドさんが……。

 ……なんか馬鹿馬鹿しいな。

 最初の迷宮がどうたらはともかくとして、友人たちが僕を裏切るはずもないし、メイドさんの知り合いなんていない。

 あーあ、なけなしの1G損したなあ……。

 そんなことを考えているとアルビアが戻ってきた。

「お待ちどうさん、シスターをお連れしましたわ」

「お帰り。待ってたよ。もう全身がたまらなく痛くて。早いとこお願いしますシスター」

 白猫のようなフェルパーのアルビアが連れて来たシスターは白犬のようなラウルフの少女だ。

 可愛らしい白いローブ&ブーツに、小ぶりの杖を両手で抱えた背の低いちんまりとしたシスターである。

 種族特徴である、真っ白いふわふわの体毛が小型犬のようでとても愛らしい。

「んだ。看守さん、今からおらは治療ばすっから、ここを開けてくんろ」

 少女がくりんとした琥珀色の瞳で上目遣いに、相当な訛りのある言葉でそう告げると看守は敬礼してそれに従う。

 シスターはベッドの側まで来ると、僕に片手の中指と薬指をつまむ不思議な仕草で挨拶した。

「おらは聖イグナシオ教会所属、僧侶のシロエッタだよ。あんれま、こんただ継続ダメージ受けちまって可哀想になー。ベルも何も本気でやらなくてもええのに。そんじゃ全身の力を抜いてリラックスするだよ」

 そう言うとシスターは優しく微笑み、えいっ、と杖をかざす。

 か、かわいいな。

「囁きは祈りへ祈りはやがて詠唱へ神の見えざる手よ今我に宿れ<神仙手>」

 ぱあっと光が僕の体を照らすと一瞬で痛みは消え去った。

 おお、さすが僧侶呪文はすごい!

 効果てきめんだよ。

「ふう、おかげでスッキリしました。ありがとうございますシスター……えーと、シロエッタ」

 ベッドから起き上がって深々と頭を下げる僕に、ラウルフの僧侶はぶんぶんと頭を振る。

「なーんも。おらのことはシロでええだよ。それじゃおらはもう行くだよ。汝に聖イグナシオの恵みがありますように」

 看守が房の扉を閉めると、トコトコと小走りで可愛らしいシスターは去っていった。

 シロか……なんだか僕の相棒を思い出してほっこりとする名前だ。

「どないでっか、アキラはんもシスターの魅力にやられてんか? 治療をして金がもらえるでもなし。こないなけったくそ悪いとこにわざわざ来てくれはるシロさんは、囚人だけでなく看守からも尊敬を受けてはる、女神的存在のお人なんやで。"癒し系"とは正真正銘、あの人のことやな」

 目を細めてうんうんと頷きながら猫ヒゲを撫でるアルビアに僕も頷く。

「うんうん。僕の仲間の僧侶とは天と地の差があるよ。それより、看守に申請さえしたら迷宮にはいつでも潜っても構わないんだったよね? せっかくだし、ちょっと行ってみようかなと思うんだけど」

「な、なんやて~!? せっかくシスターのおかげで元気になったばかりやっちゅうのに、正気でっかアキラはん?」

 僕の発言にアルビアは目を丸くして頭を抱えた。

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