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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
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ここは監獄都市 その4

 試合開始からわずか3分、100人もいた囚人たちは次々と豚の覆面を被った少女『マスク・ド・コチニージョ』の剣の前に倒れ、その数を大きく減らしていた。

「その強さグゥーッレイトゥ! マスク・ド・コチニージョの魔剣に次々と野郎どもは葬られ、残り半分にまで減っちまったぜ! 100人も投入したこの2戦目でも野郎たちは全滅してしまうのか? タイムアップまで残り7分! このバトルから一瞬たりとも目を離すなよ、チェキラ!」

 実況をしているDJの声も興奮を抑えきれない様子でテンションが異様に高い。

 囚人たちはマスク・ド・コチニージョが振るう凄まじい速さの攻撃を前に、まるで歯が立たなかったのだ。

 無慈悲に振るわれる魔剣は囚人たちの手や足といった重要な器官を軽々と寸断し、着実に戦闘不能に陥れていく。

 果敢にも少女に挑んだ囚人は、速攻で血しぶきと悲鳴を上げてその場に這いつくばるのみ。

 とても信じられない強さだった。

 少女の持つ赤いロングソードは囚人たちの血でより一層その濃さを増し、その剣身が恐ろしいまでに美しく濡れそぼる。

 キィン!

 少女の背後から急襲を仕掛けた男が、手にしていたプリズンソードを一瞬で払いのけられた。

 不意打ちという卑怯な攻撃に怒ったのか、ゆっくりと魔剣を上段から振りかぶる少女。

 それに対して囚人の男は腰を抜かして少女に命乞いを始めた。

「ひいっ、た、助けてくれ! 俺にはシャバで帰りを待っているかわいい嫁と娘がいるんだァー!」

 すると少女は何故かピタリとその剣を途中で止めた。

 それを見計らったように、男は狡猾そうに目を光らせると自らの胸元に手を突っ込む。

 取り出した何かを素早く地面に思いっきり叩きつけて男が飛び退く。

「かかったな。忍法<爆熱昇天蓮華>ェェエエ!」

 ちゅどっ!

 圧縮された何かが一気に爆ぜたような爆発音が鳴り響き、たちまち少女の全身は爆炎に包まれて闘技場の隅まで吹っ飛んだ。

「キャァーーーーッ!」

 予想外に可憐な黄色い悲鳴が闘技場に轟いた。

 ドスン!

 派手な音をさせて落下し、震えながらプスプスと焼け焦げた体で立ち上がる少女の下に、先ほど攻撃を仕掛けた男が腕を組んだまま独特の歩法でニヤニヤと笑いながら距離を詰める。

 他の囚人たちは今の男の攻撃に度肝を抜かれたのか、立ち尽くしたまま動く気配がなく、固唾を呑んで成り行きを見守っている。

「どうだ豚女? 欧州忍者ギルドを破門にされた俺様の『忍法』の味はよォ~?」

「ひ、卑怯者……」

 震える声で初めてまともに喋った少女の声は、モンスターらしからぬ可憐な少女のそれであった。

「ケッ、命のやり取りに卑怯もクソもあるかよバ~カ。俺様にゃヨメもガキもハナからいねえよ。おっ? 覆面の中身はどんな醜い化物かと思ったら、これはこれは」

 男がヒュ~ッと口笛を鳴らした。

 爆発により豚の覆面が破れて少女の素顔が明らかになったのだ。

「ワッツハプン? こいつはびっくりだ、『マスク・ド・コチニージョ』の素顔はなんと絶世の美少女だぜ! だがそのピンクの髪の間から生えた、いびつで大きな耳が人ではないモンスターだとちゃーんと証明しているので、観覧席の紳士淑女の皆様方は安心して楽しんでくれ。さあ野郎ども、ここからはおまえらのターン。反撃のお時間だぜ! ウェイカッ、ゴーファィッ!」

 実況DJがそう煽ると、ダメージを負って動けない美少女モンスターを前に、今まで成り行きをただ黙って見ていただけの他の囚人たちの顔つきが残忍なものに変わった。

「なんだよ、ずいぶんと可愛らしい顔しやがって。よくも今までビビらせてくれたな。こいつぁたっぷりと『お礼』をしてやらねえとなぁ」

 モヒカンの男がプリズンショートソードを手にじゅるりとヨダレをすすると、先ほどの忍法で少女をふっ飛ばした忍者の男がそれを止める。

「待て。こいつを倒したヤツは収監中の"刑務闘技"を今後一切免除、試合前に獄長がそう宣言したのは聞いただろう」

「まあな。だからってアンタにその権利を独り占めさせる気はないぜ? こっちも色々と溜まってんだよ、俺はやりたいようにやらせてもらうぜ!」

 モヒカンの男は譲る気はないとばかりに白い歯を剥き出しにして忍者の男を威嚇する。

 すると忍者の男は名案が浮かんだとばかりにパチンと指を鳴らした。

「いいことを思いついたぞ。ここにいる全員で、同時にこいつをぶっ殺すのはどうだ? "刑務闘技"免除の権利を全員ゲットという平等な作戦だ。どうだ、やらないか?」

「おまえ、それ天才的発想っ……! おーい、集まれぇ~っ! 全員輪になって仲良く武器を構えようや。抜け駆けなしのイチ、ニノ、サンでこのアマをぶっ殺すぞ~!」

 モヒカンの男のその号令で、まだ動ける囚人たちが爆発でダメージを負い起き上がれない少女の周りに集まり始めた。


「獄長、囚人どもが勝手なことをやり始めましたよっ! 一旦試合を止めましょう!」

 特別席に駆け込んできた看守長があたふたとした様子で叫ぶが、ブルームは涼しい顔で眼下で行われつつあるイベントを見守っていた。

「構わん。甘さと弱さは私の監獄都市には不要だ。あの娘も一度死んで身を持って己の甘さを知ればいいだろう……蘇生できるかは知らんがな。それに、あの娘に勝てば"刑務闘技"は免除してやると約束はしたが、迷宮に送らないと言った覚えはない。連中にとって常に死は近くにあるもの。私が獄長である限り、決して逃しはしない」

(な、なんて冷酷なんだ。このお方は……)

 看守長はブルームの冷酷非情っぷりに冷や汗を流した。


 ぞろぞろと囚人たちがモヒカンの男の前に集まる中、囚人番号3803番のフェルパーは一人離れた場所に陣取り、耳と猫ヒゲをしょんぼりと下げた残念そうな顔でため息をついた。

「わては無抵抗の相手を大勢でいたぶるような真似は好きやおまへん。かと言って、それを止められる力も意志もありまへんのや。ここで静かに見物させてもらいまっせ」

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