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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
135/214

ここは監獄都市 その3

「オーーケェーイ! 野郎ども戦いのお時間だ! 今日の相手は獄長自らがスカウトしてきたスペシャルモンスター、戦慄の魔剣使い『マスク・ド・コチニージョ』だ! そのセクシーな女体の前に禁欲生活の続く荒くれ囚人どもは悩殺、秒殺、天国行き、間違いナシだぜ! 観覧席の紳士淑女の皆様方は何番の野郎が生き残るか、手元の水晶球でベットしてくれ。今日も実況は『冒険者闘技場』専属DJ、"闘魂バーニングビート"シグマがお届けするぜ。チェキラ!」

 スピーカーからノリノリのアナウンスの声が聞こえてきた。

 なるほどね……ようやく理解したよ。

 ゼッケンで付けられたこの囚人番号は、どうやら観客席で見ている連中が賭けに使うためにあるらしい。

 僕ら囚人が待機しているここからは中の様子は分からないけど、実況がスピーカーから聞こえるからどういう戦いが行われているか、大体は分かるはずだ。

 実際、今のアナウンスからも多少の情報を得られた。

 僕らが戦うべき敵は魔剣を使う女モンスター、コチニージョというのは仔豚という意味のスペイン語……だったかな?

 おそらく顔を覆面レスラーのようにマスクで隠した、醜い凶悪なモンスターなのだろう。

 と、僕がそう予想をしていたそばから看守がいきなりプチッとスピーカーのスイッチを切った。

 ええー、何するの?

「おまえら後の者だけ情報を得たのでは先に戦う者が不利だ。俺は公平を重んじる主義でなァ~」

 軍人みたいな帽子と制服を着込んだ看守の男が、意地悪そうな目つきで僕たちの顔を見渡す。

 ううっ、ちょっとぐらいサービスしてくれてもいいのに。

 それから5分ぐらいして、最初に選ばれてゲートから出て行った囚人たちが帰って来た――全員血塗れの状態で、担架に乗せられて。

「うう……いてぇよぉ」

「ない、俺の腕がない、ああーっ! 腕ぇーっ、どこだーっ!」

「チクショウ、血が止まらねえ……はやくシスターを呼んでくれ、なあ、頼む」

 苦しげな呻き声を上げる彼らは全員が手や足を失っていたのだ。

 見るも無残、まさに地獄絵図といった状況に僕も思わず目を背ける。

 ひどいな……ちょっとスペシャルモンスター強すぎじゃないか、これ?

 今の僕はレベル1の上に、装備もやたら弱そうなプリズンシリーズなんだけど。

 こんな装備とレベルで大丈夫か?

 あの惨状を見せられたらまともに戦えるのか不安になってきたぞ……。

 そうこうしてる内に2戦目の出場者たちの番号がモニターに映し出される。

 うわ、僕の番号4771番がある……それに同房のフェルパーの3803番も。

 するといつの間に隣にいたのか、3803番が僕の肩にポンと肉球の付いた手を置いた。

「わてらはどうやらツイてるみたいでっせ。あれを見る限りスペシャルモンスターはえろう優しい相手のようでおます」

「は? 優しいだって? 冗談でしょ、みんな手や足を失くしてあんな悲惨な目に遭ってるのに」

 僕が素っ頓狂な声を出すと、男は担架で運ばれていく手負いの囚人たちに目を向けたまま、自らのピンと張った猫ヒゲを舌でペロリと舐めた。

「よく見なはれや、10人全員生存しとりますやろ? 普通やったらナンボなんでも死人が出とるのに、ハナから殺す気がないみたいだす。とはいえかなりの強敵みたいやから、わては全力で逃げに専念させてもらいまっせ。10分ならこちらから仕掛けへん限り、わては距離を保ち続ける自信がおます。あんさんも手足を落とされんよう、あんじょう気張りなはれや」

 3803番は血塗れの囚人たちを見ても全然動じた様子はなく、とてもリラックスしているように見える。

 うーん、盗賊技能によっぽどの自信があるんだなこの人は。

 確かに足もかなり早いし本物の猫のようだったもんね。

 そう言えばさっき何か言いかけてたような気がしてたけど、結局何だったのかな? 


 闘技場に備え付けられた特別室では、一人の男が獄長であるブルームを前に機嫌を伺っていた。

「おめでとうございますっ、いやー獄長が連れて来たあの娘の起用は大成功でしたね! まさか、たったの5分で囚人を10人全員片付けるとは……いやはや、闘技場始まって以来の新記録です! 今までのモンスターとは桁外れの圧倒的強さでございますっ! よっ、名プロデューサー!」

 看守長のクレーがもみ手をしながら薄ら笑いで媚びへつらうと、眉間に皺を寄せてブルームはガラス張りの特別席から闘技場を見下ろし、そこに立つ覆面姿の少女を冷たい眼差しで思いっきり睨みつけた。

「気に入らんな」

「はっ?」

 獄長の発言の意図が読めず、きょとんとした顔になる看守長。

(なぜ殺せるのに殺さない。まだまだ余裕がある、そう言いたいのか……。よかろう、ならばどこまでやれるのか限界まで試してやろうではないか)

 ブルームはゆっくり看守長に向き直ると冷たい眼差しのまま命令を下す。

「看守長、ウェイティングルームに連絡だ。2戦目の出場者を10人から100人に変更しろ」

「ひゃ、100人でございますかっ? さすがにそれでは、あの娘がいくら強いと言っても勝負にならないのでは……? 倍の20人ぐらいではどうでしょう?」

 だが押し黙ったまま返事をしない獄長の姿に恐怖を感じた看守長は、雷に打たれた如く慌てて敬礼した。

「はっ、了解でありますっ! ただちに100人へ変更するように手配しますっ!」

 脱兎のごとく特別室を飛び出していく看守長の背を見送ると、ブルームは再びガラスの窓際へと寄り眼下の少女を見つめる。

 観客席の仮面を付けた身分の高い金持ちたちは、速攻で勝負が着いた今の試合に満足していないようだ。

「100人がかりならばさすがのおまえでも不殺のまま勝ち残れはすまい。リアルな死にこそ人々は熱狂し、こぞって金を出すのだ」

 ブルームは冷たい口調でそう言うと、シガーケースからキューバ産の最高級葉巻を取り出して火をつけた。


 ゲートを潜り闘場へと足を運んだ僕は、そこに颯爽と立つ対戦相手の姿を目の当たりにする。

 例のスペシャルモンスターとは、不気味な豚の覆面を被り、白い革鎧に真紅のミニスカートを履いた、むっちりとした豊満な体つきの女性型モンスターだった。

 スタイルはかなりそそられるというか、迫力があるな……『龍華八仙堂』のロンファといい勝負かも。

 女性型モンスターというのはその名の通り、総じてヒューマノイドの女性に極めて近い見た目をしている。

 そのセクシーな姿で油断を誘い、鼻の下を伸ばした男性冒険者にトドメを刺すのが彼女たちの定番パターンだと『冒険者ルルブ』にも書いてあった。

 代表的なのは蛇女ラミア、蜘蛛女アラクネ、妖鳥ハーピーやセイレーン、淫魔サキュバスあたりかな?

 大体がおっぱい丸出しでそりゃあスゴイものだと、訓練学校時代は悪友たちと夜な夜なそんな話で盛り上がったっけ。

 盛り上がりすぎて舎監のカンキチに絞られたことも一度や二度ではない。

 マスク・ド・コチニージョも背丈から考えると、もしかしたら僕と同じぐらいの歳の女の子モンスターなのかも知れないな。

 どんなモンスターなのかは分からないけど、顔だけ豚の覆面なんかで隠されるとまるで本物の人間の女の子と戦っているみたいでとっても悪趣味だ。

 敵とはいえ女の子に剣を振るう気にはなれないフェミニスト、それが僕である。

 あの手に持っているいわく有りげな赤いロングソードが、察するにアナウンスで触れていた例の魔剣とやらだろう。

 囚人10人をあっという間に片付けた腕前の持ち主だから、うかつに近づくと危なさそうだ。

 よし、決めたぞ。

 僕も3803番の言ってたように終了時間まで目立たないようにして逃げ回るとしよう、うん。


 その時、アナウンスの声がまた響いた。

「ヘイ、ガイズ! ここで超ホットなニュースだぜ。戦慄の魔剣使い『マスク・ド・コチニージョ』のあまりの強さに、なんと2戦目は通常の10人じゃなく一気に100人の囚人を投入だ! それに伴い野郎どもの生き残りオッズも10倍にレートアップだぜ! フゥー! 紳士淑女の皆様方は試合開始までに手元の水晶球でベットしてくれ。野郎ども、バトル前の小便は済ませたか? 縮み上がったナニを奮い立たせて、テメエらが男だということをここで証明しやがれ! ヨーメーンッ?」

 はあっ、100人!?

 するとぞろぞろと大量の囚人たちが入場してきた。

 確かにあの惨状を見ると相当の凄腕モンスターみたいだけど……仮にも僕たちは囚人だけど冒険者、10対1でも女の子相手にどうかと思うのに。

 アークデーモン戦で実質17対1という特殊なバトルを経験した僕でも、100対1となるとさすがにドン引きレベルだよ。

 何だかあの女の子が可哀想になってきたな……。


 だが実際にバトルが始まると、僕はそれが杞憂であったのだと知ることとなる。

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