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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
131/214

国際裁判 その4

 慌てて手元のジューダスメモを確認してみると、赤字で『エマニュエルの祖母』と書かれていた。

 エマのお婆ちゃん!?

 それにしては顔には皺ひとつないし、とてもそんな歳には見えない。

 と言うかエマがちょっとイメチェンしただけに見えるぞ……エルフの女性の年齢って、外見からは全く判別できないんだな。

 この分だとエマ本人も本当はいくつなのか怪しいもんだ。

 そういやアングラデス最深層で出会ったクーパーくんもエマの年齢を言おうとして沈黙の呪文なんてかけられてたんだっけ?

 それも2回も。

 その話は置いといて、陪審の一人がエマのお婆ちゃんだったと言うのは僕にとって有利な情報だ。

 何しろ同じパーティの仲間の家族なんだからね。

 リームもきっとその辺の事情を汲んでくれてると信じたい。

 エマはジューダスにも連絡してくれてたし、お婆ちゃんの方にも連絡が行ってる……はずだよね?

 陪審席に着いたリームは上品な佇まいでにっこりと優しげに微笑む。

「魔術師ギルドを預かる最高幹部として、アタクシは直感的な質問をしてみるわね。あなた、赤の服と黒の服、どちらがお好みかしら?」

 は?

 赤の服と黒の服どっちが好きかだって?

 おいおい、本当に何の意味があるんだよこの質問……。

 でも大丈夫、僕にはこの質問の正しい答えが分かっている。

 僕は本当は黒が大好きだけど、この人はあの赤ずきんコーデがトレードマークのエマのお婆ちゃん。

 自分の孫娘の好きなカラーを嫌いなお婆ちゃんなんて世の中にいないだろう。

 つまり――。

「はいっ、赤です! 情熱の赤! 赤ずきんの赤!」

 僕が鼻息を荒くして答えるとリームは頷いた。

「はい、もう結構。全てわかったわ。アタクシからは以上よ」

 そう言って僕にウィンクをした。

 おお、この感じはどうやら無罪票を取れたっぽいぞ!

 残る陪審はあと2人だ。


「次の陪審は欧州忍者ギルド理事長カジモト氏……わわっ、もう着席されていましたか。ではお願いします」

 裁判長が驚いたように、いつの間にか法廷の陪審席にいたのは、野性味あふれる獣毛のベストを着た猿を連想させる小柄な老人だった。

 欧州忍者ギルド……僕とかつて闇闘技場で戦った忍者のマツカゼが所属しているあのギルドだ。

 マツカゼもでたらめな強さだったけど、ギルドの理事長ということはこのカジモトという老人もきっと凄腕の元忍者なのだろう。

 ジューダスのメモには『並外れた忍者へのプライド』と赤字で書かれている。

 カジモトはつまらなさそうな顔で僕に尋ねてきた。

「小坊主よ。おまえが上級職で一番強いと思うのは何じゃ? 申してみい」

 えー……なんだかざっくりしてる質問だなあ。

 個人的には世界三大冒険者のコジローに代表される侍だと思うけど、ここはメモの通りに忍者を持ち上げておくのがきっと正解だ。

「はいっ、それは忍者です。何と言っても素手でクリティカルヒットを放てる殺戮マッスィ~ンですから。何を隠そう僕も忍者の転職条件を満たして――」

「もうよい。儂からは以上」

 ええ~、調子が出てきたところなのに僕の言葉を途中で遮ったぞこの人……大丈夫かな。

 でも泣いても笑っても次が最後の一人だ。


「最後の陪審は国際冒険者連合の代表者たる、国連事務総長ローゼンバーグ氏です」

 国連のトップか……あんなカンガルーみたいな最低の人間を就職させて、無実の僕を国際裁判にかけた組織の元締めとは一体どんなやつだろう。

 僕が若干腹を立てつつその人物が法廷に現れるのを見守っていると、ゆっくりとその人はやって来た。

 それは気品と気高さを感じさせる青のスカートスーツ姿の、50歳は過ぎているであろう中年の女性だった。

 初めて見る顔のはずのに何だか懐かしいような……不思議な感覚だ。

 待てよ……ローゼンバーグという名もどこかで聞いたことがあるような気がする。

 いや、さすがに国連のトップだからどこかで聞き覚えがあって当然か。

 ジューダスのメモに目をやると『話せば分かる高潔な人物』と赤字で書かれていた。

 ローゼンバーグは傍聴席に着くと、優しいまなざしを僕に向けた。

「被告は証拠品として提出されている『かがやきのたて』について詳しく説明をお願いします」

 えっ?

 よりによってあの『かがやきのたて』について聞かれるとは、かなり意外な展開だ。

「えーっとですね、あれは僕がネオトーキョーの『龍華八仙堂』という漢方薬局のガラポンで当てた特等賞品で……」

 ローゼンバーグは僕の話を遮るようにコホンとひとつ咳払いをした。

「見た所ただのトロフィーのようですが、何か使い道がありましたか?」

 使い道……そうか。

 質問の意図が僕にも理解できた。

「ネオトーキョーを上空から襲来した最優先討伐対象モンスター、グレーターグレイグリフォンと戦う際に使いました。空を飛ぶ強敵でまともに戦うことすらままならない相手でしたけど、光る物を集めたくなる鳥の習性を利用して、これを掲げて太陽の光を反射させおびき寄せて倒すことに成功したんです」

 僕の言葉に満足そうにローゼンバーグは頷く。

 どうして今さら『かがやきのたて』なんかについて聞かれたのかと思ったけど、多分そういうことだ。

「おびき寄せる、ということは被告は自らを囮にしたと言うことですね。危険ではありませんでしたか?」

「危険は承知の上でした。でも、僕がやらなければ仲間を救うこともできなかったから。あの時は迷いませんでした」

 僕がそう答えると傍聴席からも、ほう……、と感心するような声が聞こえてきた。

「アキラって実はイイ奴なんじゃね?」

「自分の身を危険に晒してまで仲間を助けようなんて、なかなか見上げた心構えじゃないか」

「モンスターと契約した力があるのならそんなことしないわよね」

 僕に対する敵意に満ちていた法廷の空気が少しだけ変わった気がする。

 裁判長も今の話を聞いて何やら考えこんだ表情を浮かべているぞ。

 間違いない、この人は僕に助け舟を出してくれたんだ。

 するとローゼンバーグは真剣な表情でじっと僕を見てこう言った。

「最後に被告にもうひとつだけ聞きます。証拠品の中にあった一枚の紙に書かれた言葉。その『意味』については理解していますか? 答えは『はい』か『いいえ』で構いません」

 『ライカ、アカリ、クロのダイス、タマモ』とぞんざいな字で紙に書き殴られたあれか。

 僕が書いたらしいんだけど、アングラデスの最後のボスとの戦いで記憶が混濁しちゃったせいか、さっぱり覚えていないんだよね。

 『クロのダイス』のクロとは、きっと僕の相棒のクロのことだよなあ……でもダイスって何だ?

 それ以外の単語に至っては完全に思い当たるフシさえない。

 なんでこんなことを尋ねるんだろうと思いつつも僕は正直に答えた。

「いいえ」

「……そうですか。以上です」

 最後の質問の答えを聞いてローゼンバーグは何となく残念な顔をしたように見えたけど、手応えとしては悪くない。

 エイリーク、リーム、ローゼンバーグ、この3人の無罪票は間違いなく取れたと思う。

 きっとこれなら一番の決め手となる裁判長も僕の無罪に投票してくれるはずだ。


「それでは被告人が有罪か無罪か、投票を行いたいと思います。陪審の皆さんは順番にご起立願います」

 裁判長が神妙な面持ちでそう告げた。

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