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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
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国際裁判 その3

「おおお~~~! 『はじまりの迷宮(ファーストダンジョン)』で『魔王イブリース』を倒した、あの『心剣同盟』のマルティーノか!」

「なんという威厳、なんという風格……さすが『生きる伝説』だ」

「か~っ、世界最高レベル177のロードって肩書はやっぱ伊達じゃねえな。いい歳こいた爺様だってのに、おれっち程度じゃカスリ傷ひとつ付けられそうにねえぜ」

 法廷にぬらりと姿を見せたマルティーノを見て傍聴人たちのテンションも一気に最高潮に達した。

 カンカン!

「静粛に、静粛に! こら、そこ念導写真を撮らない! 退廷させますよ!!」

 裁判長も必死で木槌を打ち鳴らすが、世界で最も有名な冒険者の登場になかなか人々のざわめきは収まらない。

 すると陪審席でマルティーノはおもむろに口を開いた。

「皆の衆よ、神聖な法廷の場だ。しばしの間、静かにしてもらいたい」

 『生きる伝説』の口から発せられたその言葉で法廷は水を打ったようにシーンと静まり返った。

 うーん、とんでもないカリスマ性だな。

 かくいう僕も興奮が収まらない。

 こんな状況でさえなかったなら、それこそ装備にサインのひとつでもしてもらいたい程である。

 だって、あの世界に災厄をもたらした『魔王イブリース』を倒した伝説のパーティ『心剣同盟』の一員だもん。

 他の5人のメンバーは全員冒険者を引退して個人情報が伏せられているから素性が分からないけど、彼だけは現役で今も冒険者として活躍してるんだよね。

 このエルフの老人が着ているのは、不思議な刻印のされたゆったりとしたマント付きのサーコート。

 サーコートとは本来は鎧の上に着るような類の物で、防御力が目当てではなく、外見で敵味方の識別をしたり華やかさを演出するための物だ。

 でも冒険者マニアの僕は知っている。

 マルティーノが身に着けているサーコートは、プレートアーマー以上のアーマークラスを誇る、世界で最もレアな最高の防具『君主の聖衣』だからだ。

 アーマークラス的にはカルロ王子の『ホーリーメタルシュラウド』の方が上かも知れないけど、『君主の聖衣』には様々な状態異常耐性の他に自動回復能力という素晴らしいパワーが秘められている。

 着ているだけで回復呪文も休憩もなしに丸一昼夜モンスターと戦い続けてレベリングしたとかいう話を訓練学校時代に『冒険者ルルブ』で読んだっけ。

 ただしロード専用装備だから、仮に今マルティーノが僕に『いい顔をしているな少年。おまえは絶対に無実だ。出会いの記念にこの君主の聖衣を授けよう』と言っても着られはしないんだけど……はぁ、憧れと羨ましさで胸が一杯だよ。

 いやいや、そんな場合じゃなかった。

 この人からも僕はうまく無罪票を勝ち取らなきゃいけないんだ。

 気を引き締めた僕がジューダスが残してくれたメモにサッと目を走らせると、赤字で『トニーノ・マニエロの祖父』と書いてある。

 トニーノって、もしかして……『イグナシオ・ワルツ』のトニーノ?

 ええーーっ、トニーノって『生きる伝説』マルティーノの孫だったの!?

 だとしたらこんな衝撃情報初耳だけど、うーん……僕は正直そこまでトニーノのことは知らないんだよな。

 いや駄目だ、無罪票の獲得に関わるぞ、ちゃんと彼のことを思い出すんだ。

 エルフの金髪ベリーショートのイケメンでビショップで……どんな人だったっけ?

 僕が必死に考えているとマルティーノは予想外の言葉を口にした。

「証拠品として提出されている被告人の所持品である『刀』について聞こうか。どこでそれを手に入れた?」

 げっ、まるっきりジューダスメモが活かされようがない質問がきたぞ。

 でもここはちゃんとそのまま、ありのままに事実を話すべきだろうな。

「ムラサマとスシマサですか? ムラサマはコボルド神シバを倒して手に入れたレアアイテムで、スシマサは同じパーティにいる侍の剣の師匠から僕にと贈られた物です」

 僕の言葉に傍聴席からクスクスと小さいな笑い声が漏れる。

「ぷっ。なんだよムラサマとスシマサって。ムラマサの質の悪いコピー商品か? だせぇ」

「コボルド神シバ? そんなモンスター聞いたこともないんだけど。口からでまかせかしら?」

「どうやら偽りで飾られたメッキが剥げたようだぞ。やはり奴は有罪だな」

 傍聴席から聞こえる雑音に眉を動かすこともなく、陪審席のロードはただ僕を真っ直ぐに見つめていた。

「……そうか。以上だ」

 マルティーノはそれっきり腕組みをして目を閉じた。

 まずい、彼が有罪と無罪どっちに考えを決めたのか何の手応えもヒントも感じられない。

 そもそも今の質問の意図がどこにあったのかすら分からないぞ。

 まあ、それを言い出したらさっきのハルバードが好きかなんて質問も謎すぎるんだけどね。


「次の陪審は欧州貴族ソサエティ代表バレンタイン氏です」

 裁判長に呼ばれ現れたのは高級感あふれるスーツを着こなす、竜から進化したと言う説のある種族、ドラコンの男だった。

 いかにも凶暴そうな竜そのものの顔と鋭い鉤爪が恐ろしいけど、ドラコンはれっきとした人類の友だ。

 僕はドラコンってあんまり見たことはないんだけど、このバレンタインの顔は昔どこかで見たような……そんな気がする。

 あれかな、馴染みのない種族の顔って人間にはみんな同じに見えるってやつかな?

 ジューダスのメモに目を通すと赤字で『無罪票・難』と書かれていた。

 おいおい不吉だな……この男から無罪票を勝ち取るのはそんなに難しいのか?

「どうされました。私の顔に何か付いていますかな?」

 バレンタインは竜じみた恐ろしい目でギロリと僕を見てそう尋ねてきた。

「い、いえ。なんでもありません」

 危ない、まじまじと見すぎて彼の心証を悪くしたかも知れない。

「ところで、証拠品の君の所持品にあった青いリボンですが。あれはファッション的に男子が身に付ける類の物ではない気がしますが?」

 ファッション、やっぱり貴族の人はそういうところに目がいくのか。

 正解はなんだろう……『そういう趣味です!』と答えるのは何かと問題がありそうだし。

 これも普通に答えるしかないよね、やっぱり。

「あれは僕の母の形見なんです」

 バレンタインは右手の鉤爪をぎしって机に食い込ませて身を乗り出す。

 何故か興味を惹かれた様子だった。

「……母、ですか。資料によると君は孤児とありましたが? 何か資料の情報に食い違いが?」

 う、思わぬところから下手すると僕が嘘つきみたいな印象になってしまいそうだ。

 ちゃんと説明して訂正しなくては。

「母が生前残してくれていた物みたいで。僕を産むと同時に母は亡くなったと聞いています。面識はありませんし、どういう人だったのかも知りません」

「おっとこれは失礼。私からの質問は以上です」

 バレンタインは優雅にお辞儀をすると着席した。

 一体何だったのだろう。

 これも手応えが分からないけどジューダスのメモを信じるなら無罪票は期待できないかも。


「次の陪審は欧州魔術師ギルド最高幹部リーム氏です」

 おおっ、次はあの有名な欧州魔術師ギルドか!

 欧州魔術師ギルドも名前こそよく聞くけど、その頂点に立つ人物を見る機会なんてそうそうないぞ。

 著名人に次々会えて、嬉しいやらそれどころじゃないやら複雑な心境だ。

 だが法廷に現れた深緑色のローブを纏った美しいエルフの女性の姿を見て僕は驚いた。

 それは髪こそ真っ白だが、僕の仲間の女魔術師エマにそっくりだったからだ。

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