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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
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悪いニュース その1

 その日の夜、ウィザードヴィジョンでは通常の番組を一時中断して緊急ニュースが流れた。

「昨夜未明、エアリーランド王国西部に生息する西のオーク族リーダー、オーク四天王『収穫王エストルク』が何者かの手によって討伐されました。また現場には他にも推定100体以上のバラバラとなった死体が散乱しており、西の部族全員が討伐されたものと思われます」

 司会者の知的な印象の男が原稿を淡々と読み上げていく。

「本日はあの『三大冒険者夢の競演』で見事な実況をされた、『世界三大冒険者』というフレーズの生みの親でもある"華炎のアナウンサー"ことデューク・セイガー氏にお越しいただいております。セイガーさん、今回の事件ですがどう思われますか?」

 司会者に振られて、隣に座った大きな黒いサングラスと口髭が印象的な男が口を開く。

「エストルクについてはわたくし個人の見解ですがね、温和な性格と頼れるリーダーシップで群れをまとめる素晴らしい男だったと思いますよ。何しろエアリーランド西部の凶暴な野生モンスターの群れを討伐して、荒れ果てた広大な土地を耕し豊かな収穫と繁栄を手にしたんですから。オークはモンスターとはいえ、それは国連が勝手に定義するだけであってエアリーランドの人々から見れば立派な英雄ですよ。しかもエストルクについてはその国連も特に問題視しておらず、性急な討伐要求もなかったはずです。それをいきなり皆殺しとは。討伐者が名乗り出もしないところを見ると、何か裏がある気配がしてなりませんよ。手放しでは喜べませんね」

 セイガーの言葉に司会者は大きく頷いた。

「なるほど、オーク四天王は既に一人『芸術王オルイゼ』が討伐されていますからね。残った四天王、特に『虐殺王ノーティクス』の今後の動向が気にかかるところです。それでは続いてのニュースですが、『芸術王オルイゼ』を討伐したあの冒険者の話題です。ネオトーキョーで活躍中だった戦士のアキラ氏が『国際冒険者法』違反容疑にて逮捕、起訴されました。氏の身柄は既に国際冒険者裁判所本部のあるオランダのハーグへ送られ、3日後に国際裁判にて裁かれる模様です。セイガーさんから見てこの逮捕はどうでしょうか?」

「わたくしはそのアキラという冒険者については詳しくは知らないのですが、国際裁判にかけられるなんてよっぽどの案件ですよこれは。一体彼は何をしたと言うんですかね? オルイゼを倒した程の男となれば、世界中の冒険者が固唾を飲んで判決の行方を見守る注目の裁判になると思われますよ」

 その後、他のコメンテーターたちがああだこうだとそれぞれの意見を述べてニュースは終わった。

「以上、ゲストにデューク・セイガー氏をお招きしての緊急ニュースでした。引き続き『伝説のスターの超お宝映像発掘<娘殺し(レディキラー)>葉山一郎きらめきメモリアル』をお楽しみ下さい」


 通い慣れたオカマバー『バタフライナイト』でそれを見ていた『バタフライ・ナイツ』のメンバーたちは、ポカーンとした顔でグラスを持つ手を止めた。

 何しろパーティリーダーであるアキラが意味も分からずに逮捕されたばかりで、さっそくこのニュースである。

 全員があまりの展開の速さに面食らっていたのだ。

「3日後に国際裁判!? ウソでしょ……いくらなんでも話のスケールが大きすぎるわ。国際裁判なんて、よっぽど世界的レベルな重大事件でしか開かれないはずよね? アキラがどうして……」

 信じられないという顔つきでサラはそっと自らの右手の薬指にある真紅の指輪に触れ、力なく視線を落とした。

「アキラちゃんが逮捕されちゃうなんてもうヤダ~、悲しいわ~。二度も街に現れたモンスターを撃退して、アングラデスも攻略しちゃったネオトーキョーのヒーローを犯罪者扱いするなんて、もうどんだけよ~」

 目を引く鮮やかなショッキングピンクのドレスを着こなしたごつい体つきのママがイヤイヤと体を揺らすと、隣に座るアンナはグラスを置いて仲間へと顔を向ける。

「アタシたちもこのままネオトーキョーで黙って見ている手はないわヨ。こうなったらオランダのハーグまで裁判の傍聴に行くしかないようネ」

 アンナの言葉にヤンは冗談でも聞いたかのような顔で両手を広げた。

「本気かアンナ? 転移港の使用料金は結構高いね。それにオランダまで行っても結局見ているだけなら、日本でウィザードヴィジョンを見てても同じことよ。アキラだってリーダーとして……いや同じ男として、きっとできる限りヤンさんには節約して欲しいと願っているに違いないアルね」

 ウンウンと一人頷く丸眼鏡の男に、全員が白い目を向ける。

「そんなワケないでしょ。アタシたちが側で見守っていた方がアキラだって百人力、きっと心強いはずヨ。サラもそう思うわよネ?」

 銀のイヤリングを揺らしてアンナがウィンクすると、サラは顔を赤くしてコクリと頷いた。

「わしもアンナの意見に賛成じゃき。一度仕えると決めた主の窮地を助けずして何が侍か。わしゃアキラのためなら地の果てだろうが駆けつける腹づもりぜよ」

 豹頭の侍が勇ましくそう宣言すると、隣に座った赤ずきんのエルフの美女が大きな茶色の瞳を潤ませる。

「トレビアン! とっても男らしいのねヒョウマって。ワタクシそういう男らしい殿方が好きよ……ウフフ」

 エマは意味ありげにチラリとヤンに視線を向けながら、ヒョウマにぴたりと身を寄せて肉球のぷにぷにとした手を取った。

 エルフの美女に鼻の下を伸ばすフェルパーの侍を見て、ヤンはいきなり格好を付けて指を振る。

「ちっちっち、"逆転請負人"と呼ばれてあらゆる弱者のピンチを救って来たこのヤンさん、アキラを思うみんなの気持ちを確かめるために一芝居打っただけアルよ。さあ明日は転移港でオランダに行くから、この辺で切り上げて宿に帰ってさっさと寝るよ。裁判に乗り遅れるね」

 分かりやすいほど態度をコロッと変え、ヤンは一人意気揚々と去って行った――ちゃっかり支払いはアンナに任せて。

「アラまあ、エマもすっかりヤンの扱い方を心得てきたようネ」

 アンナが肩をすくませると、エマは悪戯っぽい笑みを浮かべてぺろっと舌を出す。

「ワタクシの古い知り合いが欧州で弁護士をしていますの。一流と評判の殿方ですから、後で連絡してアキラの弁護を頼めないか聞いてみますわ」

「本当? ありがとうエマ!」

 サラは満面の笑顔でエマに抱きつき、あまり好きではなかった彼女に対して初めて心からの感謝をした。

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