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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
監獄都市編
121/214

僕の永久就職先

 一般に女性の永久就職先は男性との結婚といわれる。

 では、『国際冒険者法』違反により国際冒険者裁判所で有罪判決を受けた冒険者の永久就職先はどこか?

 答えはイギリスのロンドンにある『監獄都市ニューゲート』である。


 ロンドン名物であるロンドンウォールという高い壁に囲まれた『監獄都市ニューゲート』。

 似たように高い壁で覆われた『城塞都市ネオトーキョー』は迷宮からモンスターが溢れ出て攻めてこようとも、壁面から発射される超高熱念導砲に阻まれその壁を越えることが不可能なように設計されている。

 だがロンドンウォールの壁は外部からのモンスターの襲撃に備えるためでも、囚人を逃さないためでもなく、『ヘルハウンドの迷宮』に潜む凶悪なモンスターを万が一にも外に出さないためにある。

 ニューゲートは都市ひとつが丸ごと監獄となっており、その中に迷宮が存在する極めて異例な場所なのだ。


 現在のイギリスは50年前に即位して以来、全くその容姿の衰えを見せないヴィクトリアス女王が統治している。

 夜な夜な処女の生き血を浴びているという噂や、密かに別人に世代交代している説、人間ではないという話まである謎多き女性だ。

 そんなミステリアスなヴィクトリアス女王が統治するイギリスは、貴族を頂点とした厳しい身分階級制度で知られる国。

 貴族に与えられる一等市民、社会的地位のある富豪に与えられる二等市民、そしてごく普通の一般市民にあたる三等市民の階級。

 この国の犯罪者は市民階級が剥奪され『監獄都市ニューゲート』へと送られる。

 通常の犯罪者ならそこで懲役を終えると晴れて出所、三等市民の階級が与えられ日常の生活に戻れるという仕組みだ。

 そう、通常の犯罪者ならば。


 国際冒険者裁判所で有罪となった僕に下された刑は無期懲役。

 僕は収監されたこの『監獄都市ニューゲート』から一生涯解放されることはないだろう。


 僕自身についての話をしよう。

 僕はかつて腰に2本の日本刀をぶら下げた戦士だった。

 別に洒落ではない。

 その名はスシマサとムラサマ。

 これも洒落ではなく、あの全侍の憧れである妖刀ムラマサにちょっとばかり名前が似ただけの、完全に別の刀だ。

 だが僕にとっては強敵との戦いを一緒に戦い抜いてきた、とても大切な愛刀たちだった。

 そして『漆黒の使者』コーデと僕が名付けた、超絶イケてる上にとてもアーマークラスの高い鉄壁の防具、悪の兜、悪の鎧、黒いブーツ。

 あと、大好きな女の子が僕のために手作りしてくれた、ブラックミノタウルスの皮で作った黒い皮手袋。

 『監獄都市ニューゲート』に収監された際にこれらの装備は全て没収されてしまった。

 それだけならまだしも、お金も経験値も全額没収されレベルも22からたったの1になり、僕はまた新人に逆戻りした。

 今の僕の装備は、一度抜刀すると納刀するまで決して手から離れない呪いのかかった、極めて切れ味の悪いなまくらな剣『プリズンソード』。

 それと背中に『4771』と数字の入ったゼッケンが付けられた、赤と黄色の横縞ラインが超絶ダサい革鎧『プリズンレザー』だ。

 僕の名前は4771番。

 幼馴染みであるカンガルーこと加賀竜二の企みによって、何もかも奪われてしまった。

 名前すらも。


 どうしてこうなったのか、それを説明するには時計の針を少々巻き戻す必要がある。

 僕たちが『アングラデスの迷宮』をクリアした翌日。

 ネオトーキョーにある宿、<トーキョーイン>のロビーにあいつらが現れたあの日まで――。



 <トーキョーイン>のロビーで、僕も仲間もあまりの出来事に声を失い完全に固まっていた。

 両手に嵌められた青く輝くオリハルコン製の手錠を見て、ヤンが気の毒そうな顔でポンと僕の背中を叩いてその静寂を破る。

「いやー、とことんワルを極めて行くとこまで行った末、アキラとうとう逮捕されたアルか~。でも安心するね。ヤンさん面会にはちゃんと行くよ」

 まるで聖人のような顔つきで一人満足そうにウンウンと頷く丸眼鏡の僧侶ヤン。

 いやいや、そんな冗談言ってる場合じゃないんだけど!?

「ちょっとアンタ、どうしてアキラが逮捕されなきゃいけないのヨ? ちゃんと理由を説明しなさいヨ、理由を!」

 ド派手なメイクとコーデの盗賊アンナがすごい剣幕で年配の男に迫ると、水着のような露出がすっかり板についたビキニアーマーが眩しい戦士サラと、大人版赤ずきんといった風貌をした魔術師エマの美女コンビもそれに続く。

「そうよ! 理由も明かさずにいきなり逮捕だなんておかしいわ、どう考えても不当逮捕よ!」

「ワタクシの知り合いに法律に詳しい方がいましてよ。納得のいく説明をしてくださるかしら?」

 オカマ含む女性陣が僕のために食い下がったが、国連の年配の男は冷たい声でそれを一蹴した。

「この男アキラは法に基づいて、きちんと法廷で裁きを受ける手はずになっている。その時まで情報は一切明かすことはできない。それと警告しておく。私の体に指一本でも触れた瞬間、抵抗したと見なし即座に念導兵(ガーディアン)を起動させおまえたちを"鎮圧"する」

 その言葉は豹頭の侍ヒョウマの闘争心に火をつけた。

「おまんら、わしの主に何をするつもりちや? この侍ヒョウマがおる限り好きなようにはさせんぜよ!」

 その腰から天下の名刀グレートカネヒラを引き抜いて威勢良く構えるヒョウマ。

 おおっ頼もしい!

 けど……ここで国連の人間に逆らうのは、冷静に考えると非常に危ない。

 一般人相手に武器を使うなんて、それこそ『国際冒険者法』にまともに触れてしまうからだ。

「刀を抜くのはやめなさいヒョウマ! 国連に逆らうのはいくらなんでもまずいわヨ!」

 アンナが止めに入るが、年配の男はなおも言葉で揺さぶりヒョウマを挑発する。

「その抜いた刀を私に振るうつもりか。面白い、やって見ろへぼ侍。その瞬間、念導兵(ガーディアン)によりおまえは"鎮圧"されている」

 もう起動したのか、念導兵(ガーディアン)の単一の目が赤く光った。

 パッと見はただの金色の鎧に見えるが、相手は設定レベル99のモンスターマシンだ。

「わしを舐めるなよ。死線、苦戦を共に乗り越えたアキラのため、指一本触れるどころかそん首をもらう覚悟ぜよ! 奥義<一ノ太刀>ッ!」

 僕が止める間もなく、ヒョウマは年配の男に対して何の迷いもなく國原一刀流の奥義を放つ。

 設定レベル99もある念導兵(ガーディアン)とまともに戦えば、軽装のヒョウマは絶対に無事では済まないだろう。

 それでも主のためなら喜んで死ねる、きっとそれが侍というものなのだ。

 くうー、泣かせる……いや、そんな場合じゃない!

 その瞬間、長い灰色のフード付きローブで全身を覆い隠した人物が、念導兵(ガーディアン)の反応よりも早くヒョウマの振るう刀の前に飛び出してきた。

 キィィィン!

 ヒョウマの放った奥義は信じられないことに、身を挺して飛び出したフードの人物の体によって弾き返された。

「何じゃと!?」

 ヒョウマが驚くのも無理はない。

 フードの男はパンパンと軽く埃をはたくような仕草を見せただけで、その体は完全なノーダメージのように見える。

 あの達人ヒョウマの刀を生身で弾くだなんて……このフードで姿を隠したミステリアスな人物は一体何者なんだ!?

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