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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
インターミッション
115/214

エクセルキオンと愉快な合成生物たち

 とある日の魔界。

 科学、錬金術、魔術を融合させた『サイ・アルマギー』の提唱者で、この次元で最も高い知能を持つと"自称"している『魔技師エクセルキオン』の研究室を、一人のドラコンの男が訪ねていた。

 ドラコンは竜を祖に持つ竜人とでもいうべき容姿をした種族だが、彼らにとってドラゴンとは近親でも祖でもなく、忌むべき存在であり倒すべき相手なのだ。

 何故そうも頑なにドラゴンを憎み倒そうとするのかという理由について彼らは決して語ろうとはしないが、研究者によればドラゴンを倒すことで何らかの力を得ているのではと推測されている。

 ドラコンの種族特徴としては、リズマン程ではないが高い力と生命力を誇り、口からは酸性のブレスを吐くことができる。

 凶悪な外見をした人類の頼もしい友、それが彼らドラコンという種族である。

「これが頼まれていた『宝珠探索機』、名付けて『オーブレーダー』だ。どうだ? この幾何学的なフォルムとドラコンの君でも握りやすい配慮をした、人間工学ならぬドラコン工学に基づいた親切設計。んん~、まさにィィィ……エクセレンッ!!」

 インパクトのある銀色のドレッドヘアの髪型に褐色の肌、小汚い茶色の長衣を着て顔には大きなゴーグルをかけた、異様なルックスの男。

 その名は、エクセルキオン。

 魔界一のプロフェッサーと呼ばれるかのフランクベニーシュタイン教授の教え子で、世界にまだ類のない一風変わった合成生物を日夜作り続けている男である。

 欧州の貴族たちの間では今、エクセルキオンの作った合成生物を飼うのが密かなブームとなっている。

 エクセルキオンが派手にバッと両手を広げると、不気味なガスマスクに愛らしいエプロンドレスを着た妙なコーディネートのメイドが彼に照明を浴びせ、ノリのいい音楽を流す。

 ズッチャカ、ズッズッチャッカ、パラッパー、パッパーパラッパー、ドゥンドゥン、ドゥンドゥン♪

 するとネオン色に発光するスケルトンと虹色の派手なスライムが登場して、エクセルキオンの横でカチャカチャ、ウネウネと体を動かして踊り始めた。

 ガスマスクのメイドも一緒に踊りたいのか、照明を操作しながらリズムに合わせてメイド服のお尻をリズミカルに左右にフリフリと動かしている。

 その様子を冷めた目でドラコンの男は見つめた。

(……本当にこやつがこの次元最高の知能の持ち主なのか? いや、どうでもよい。目的の物さえ確かに機能するならな)

 ダンスタイムが終了したのかガスマスクのメイドが照明と音楽を落とすと、ネオン色のスケルトンと虹色のスライムが名残惜しそうに去っていく。

 それを無視して、試しに男が『オーブレーダー』を起動してみると、3つの表示が現在地点に現れる。

 男が今持っている、かつてイブリースが三種族を封印した3つの宝珠に間違いなかった。

「はい、大変結構ですよ。さすが魔界にその名を轟かせる天才エクセルキオン殿、よい仕事をされますな。ではこれが報酬の50万Gです」

 にっこりと笑みを浮かべて穏やかな声で心にもない言葉を口にしたドラコンの男は、とんでもない大金をエクセルキオンに手渡す。

 50万Gといえば、ネオトーキョーにある『堀田商店』でのムラマサの店頭価格と同額である――もっとも、ムラマサはいつも品切れ中なのだが。

「んん~、確かに。これでようやくサイバーレオポンの制作に取り掛かれる。想像してみたまえ君、サバンナの大地を時速120キロで颯爽と駆け抜ける、ヒョウとライオンが合成された究極のハイブリッドマシンを――。完成すればきっと芸術の向こう側にまで到達してしまうだろう……そう、まさにィィィ……エクセレンッ!!」

 またエクセルキオンが派手にバッと両手を広げると、ガスマスクのメイドが再び彼に照明を浴びせ、ノリのいい音楽を流す。

 ズッチャカ、ズッズッチャッカ、パラッパー、パッパーパラッパー、ドゥンドゥン、ドゥンドゥン♪

 するとネオン色のスケルトンと虹色のスライムが嬉しそうに再登場して、エクセルキオンの横でカチャカチャ、ウネウネと体を動かして踊り始めた。

(こんなおかしな男の相手いつまでもしてはおれんぞ。用も済んだことだし、さっさと退散するに限るな)

 内心そう考えつつ、笑みを浮かべたままドラコンの男はぺこりと頭を下げる。

「それでは私はこれで……」

 そそくさと立ち去ろうとする男の背にエクセルキオンが声をかけた。

「ところで、地上に残る宝珠を探し出し回収せよとの指示は『いつ』『誰から』君に下されたのだ? 吸血卿や魔界の役所からは何も聞いてないのだがねェ~」

 核心をつくその質問に男はギクリとしたが、あらかじめ用意しておいた台詞を自然な口調でにこやかに言う。

「生前のイブリース様に頼まれていた極秘の指示でして。恥ずかしいことに私も最近まですっかり忘れていたのですよ。やはり魔界に害を及ぼしかねない危険なアイテムは、回収して厳重に保管しておくに限りますからな。では失礼しますよ」

 エクセルキオンの質問をうまくやり過ごした男は研究室を出て一人ほくそ笑む。

 そして、もう一度手に入れた『オーブレーダー』を握ってみた男の表情がにわかに曇った。

 悔しいことにドラコン特有の爪の生えた尖った手でも、それは非常に握りやすかったからだ。

「むう……まるで私の体の一部のごとくに馴染む……」

 男はぎりぎりと牙を鳴らした。


「おや、お客様はもうお帰りでゲスか? せっかくアッシお手製のスペシャルヨーグルトドリンクをお持ちしたでゲスのに」

 乳白色のやけに健康的な肌ツヤのゾンビが残念そうに溜息をつくと、エクセルキオンはゾンビが持ってきたその白くドロっとした謎の飲み物をストローでチューっと一気に吸い、先程の男のことを考えて呟く。

「何か臭うな……」

 するとそれを受けてゾンビがむっとした顔で怒りだした。

「そんなはずはないでゲスよ! アッシは歩く乳酸菌、臭わないのがウリのヨーグルゾンビでゲスっ! きっとガスメイドのやつが屁でもこいたに違いないでゲス! ガスマスクで自分は臭わないもんだから、ガス漏れにきっと気付いてないんでゲスよっ」

 ヨーグルゾンビの言葉に乙女のプライドを傷つけられブチキレたガスメイドは、シュコーシュコーと不気味な呼吸音を響かせると彼に馬乗りになり、デフォルメされたドラゴンが描かれた可愛いパンツ丸出しで、ボコスカと猛烈なマウントパンチの連打をヨーグルゾンビの顔面に浴びせ続ける。

「何をするでゲスかっ、アッシは『第1回魔界合成生物発表会金賞受賞作品』でゲスよっ!? ネオンスケルトンにレインボースライム、踊ってないで助けてくれでゲス! ガスメイド、顔はやめるでゲス! せめてボディにするでゲス!」

 従来の腐乱死体のイメージを根底から覆した、乳酸菌で程よく発酵した健康的で臭わないゾンビ。

 それがヨーグルゾンビだ。

 その独創的なアイデアは魔界合成生物発表会で惜しみなく評価されたが、ゾンビというのは腐臭を漂わせて肉も程よく腐り落ちた状態で冒険者をビビらせてナンボだと、どこの迷宮のボスからも全く需要はなかった。

 そんな合成生物たちの大乱闘が始まった研究室で彼らの創造主であるエクセルキオンは二杯目の飲み物に手を伸ばし、目の前でボコボコにされるヨーグルゾンビを見てしみじみ思う。

「あーあ、こんな時クーパーくんがいたらなあ~……」

 残念ながらクーパーくんことクーパー・ザ・マスターピースは契約で魔界の大悪魔アークデーモンに貸与していたので不在だったのだ。

 いるだけで場がなんとなく和む癒やし系ゆるモンスター、それこそが彼の作った最高傑作(マスターピース)であった。


 人界にある自らの大豪邸へと戻ったドラコンの男は、書斎にある贅の限りを尽くした椅子に座ると、やや緊張の面持ちで握りやすい『オーブレーダー』を起動してその探索範囲を拡大してみる。

 すると遠く離れた場所にそれぞれ2つの反応があった。

 それを見た男の顔にニヤリと笑みがこぼれ、窓際に立つと街を見下ろして誰に言うともなく呟く。

「……この星に未使用の宝珠はあと2つもあったのか。ひとつはイタリアの名門カルボーネ家の領地か……これは少々厄介だぞ。じっくりと計画を練る必要があるな。もうひとつはエアリーランドの西部、オーク四天王『収穫王エストルク』の縄張りだな。これは簡単だ、野生のイノシシどもを狩った所で誰も文句など言うまい。汚れ仕事は中華殺技団の連中にでも任せるとしよう。あいにくと、金なら腐る程あるからな」

 ドラコンの男が呼び鈴を鳴らすと、その入手が極めて困難な2005年物、極上のブルゴーニュ産赤ワインを持って一人のメイドが書斎に現れた。

 ポニーテールのよく似合うゾクッとするような美しい顔立ちの、20代前半と思われる若い人間の女である。

 ただひとつメイドとして相応しくないのが、清楚な紺のメイド服の腰に妖気漂う刀を下げていたことだ。

 女の瞳には感情らしきものは一切なく、機械のように淡々とワイングラスにルビーのような美しい液体を注ぐと、ドラコンの男は口に含んだそれを長い舌の上で転がし存分にその味わいを楽しんだ。

「ふむ……当たり年だけあり、いまだ色褪せぬ素晴らしいワインだ。だがエクレールよ、それに負けぬ程におまえの美しさも衰えんな。おまえを私の下僕にしたのは大正解であったぞ」

 男は爪の生えた尖った手で乱暴に、グイッとエクレールの顎に手をかけたが彼女は無反応だった。

「究極の兵器というものは使わなくとも持っているだけで大きな抑止力となる。もっとも、2つもあれば1つは使っても構わんか。封印すべきは魔界で幅を利かせるデーモンか、目障りな吸血卿率いるヴァンパイアか、はたまた地上を牛耳る人間か……いずれにしても私の思うがままだな。実に楽しい玩具ではないか。のう、エクレールよ?」

 男はエクレールのメイド服の胸元へと手を滑らせ、尖った爪で乳房をギシッと鷲掴みにしたがそれにも彼女は完全に無反応だった。

 傷ついた彼女の乳房からは青い血が滴り落ちた。

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