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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
110/214

アングラデスの迷宮第六層 その6

 バトルアリーナに降り立った新たな6人を見てアークデーモンの顔が邪悪に歪む。

「次は貴様らか。そこのリザードマンの戦士……問題の貴様を圧倒的な力の差で葬り、寝ぼけた魔界の者たちに私の強さを証明してくれる」

 アークデーモンがあの恐ろしい炎の鞭を振り上げ、それが信じられない長さにまで再び伸びるとクロトは素早く動いた。

「リザー道連技<ヤツザキオロチ>」

 一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ。

 豪快かつ連続で繋がった流麗な動きにて振るわれたクロトの大剣により、炎の鞭はバラバラに分断された。

煉獄鞭(パーガトリビュート)を断ち切るとは、おのれ小癪な」

 敵の最大の武器を封じたこのチャンスに仲間たちも素早く呼応する。

「ミーミの最強呪文をお見舞いするのー! 嘆きの邪霊よ霧深き冥府より来たりて禍々しき手で我が敵の魂を奪い苦しめよ<命奪魂呪掌>」

 ミーミがダメージと稀に状態異常効果も与えるサイオニックの最上位闇属性攻撃呪文を詠唱した。

 その間にアンナはトリッキーな動きでアークデーモンの背後を取り、邪眼の短刀を振りかぶる。

 クロト、マナ、チヒロもそれぞれの武器でアークデーモンの体に攻撃を繰り出す。

 しかし彼らが繰り出したいかなる攻撃も、魔神形態となったアークデーモンに対しては、まるでダメージらしいものを与えることができなかったのだ。

「どれもこれもくだらん攻撃だな。残りがそのレベルならわざわざこの姿になるまでもなかったか」

 余裕の表情でアークデーモンは羽を動かして笑う。

「……やれやれ、本当に何のダメージもないとはな。さすがに絶望的な気分になるぜ」

 二刀のク・ナイフでの攻撃が無駄に終わったチヒロがその顔に冷や汗を浮かべ、石化効果狙いが失敗したアンナも息を飲む。

「私と貴様らの『格』の違いを見せてやろう。煉獄より生じた破滅の炎よ汚れしその熱を持って万物を黄昏に染めあげよ<超核撃>」

 ドッガアアアアーーーン!!!!

 恐ろしい爆発音と衝撃波がバトルアリーナで戦闘していた6人を飲み込むと、大剣を地に突き立てて耐えきったクロト以外の全員が吹っ飛び重傷を負う。

 それは魔術師の最強の攻撃呪文である<核撃>を上回る威力の、未知の呪文であった。

 僧侶のヴェロニカは瀕死の重傷の中で、回復呪文を誰かに使うべきかとっておきの手を試すか悩み、後者を選んだ。

「森と動物と精霊の御名において今ここに奇跡の御業を<覇闘武霊具>」

 詠唱が完成し、全員の武器がプリズム色に輝き出すのを見届けヴェロニカは意識を失う。

 最後の力を振り絞ったヴァルキリーのマナは、いち早くプリズム色に輝く聖女のランスを手にしっかりと握り締め、アークデーモンへと突撃した。

 <覇闘武霊具>はかつて邪神アトゥとの戦いの際にカルロ王子が使ったレベルアップでは習得しない特別な呪文で、詠唱者の全魔力をパーティの仲間全員の武器へ付与して攻撃力を数倍にする効果があるのだ。

「あたしのっ、最後の一撃を食らえっ!」

 マナが魂を込めて叫び、聖女のランスをアークデーモンに突き立てる――が、貫通することなくあっさりとその肉体に押し戻された。

 <覇闘武霊具>による魔力付与を受けたその強力な一撃すらも、目の前のアークデーモンには通用しなかったのである。

「ウソ……」

 精根尽き果てたマナは無念の思いでその場に崩れ落ちた。

「ぜ、絶体絶命の大ピンチな状況ネ……何か手はあるかしらチヒロ?」

 重傷を追いながらも立ち上がったアンナが、同じくボロボロになった旧知の盗賊に尋ねる。

「手はない。が、その弱点が何なのか、ここはストレートに本人に聞いてみるってのもいいかもな」

 この手の交渉に長けているチヒロはそう言ってアークデーモンに呼びかけた。

「強いなあんた。しかし、その魔神形態とやらは全ての攻撃を無効化するのかい? そんなんじゃフェアな戦いとは言えないんじゃないか。それで俺たちを倒しても、果たして魔界にいるというあんたのお仲間たちはその強さを認めてくれるかな?」

 ニヒルにそう挑発するとアークデーモンは低い声で笑った。

「瀕死のくせに口が達者なやつだ。ならば教えてやろう。この魔神形態の弱点は、かつて私を滅ぼした聖剣エクスカリバーと妖刀ムラマサによる同時攻撃だ。古の因縁をより深めたことにより、無敵の魔神形態もその攻撃を食らえば即座に滅びるだろう。そして貴様らはそれを持っていない。フフ……実を言うと戦う前から勝敗は決していた、そうとは知らずに必死で戦う貴様たちは実に愉快であったぞ。それと魔界の者たちだが、貴様らごとき非力な冒険者を警戒していたことで私は完全に悟った。もはやあいつらに従う理由など何ひとつないとな。この戦いが終われば私は魔界を治める新たな支配者として君臨するつもりだ。その準備運動を兼ねた退屈しのぎのいい余興になったわ」

 再びアークデーモンが<超核撃>の呪文詠唱を始めた、その時――。

 クロト以外の全員が観客席に飛ばされて、控えていた残りの僕たちと入れ替わった。

 戦闘不能と見なして僕たちはクーパーくんに頼んで強制的に交代してもらったのだ。

 すぐにサラは無防備なクロトの前に立ち塞がると、手にした妖魔のハルハードをくるくると大回転させる。

「秘伝<キンデルダイク大風車>ーっ!」

 その技はフリチョフから新たに教わったという、範囲攻撃のダメージを分散させて味方を守る防御技だった。

 それにより僕たちへの<超核撃>の呪文ダメージは半分以下に抑えられ、さらにサラの黄金のティアラが効果を発揮し彼女への呪文ダメージを完全に無効化した。

 ヤンが回復呪文を詠唱している間に、残った僕たちは視線を交わし、観客席で打ち合わせした通りにそれぞれの必殺技を同時にアークデーモンに向けて放つ。

「ヤヨイはアークエンジェルだもん! アークデーモンなんかに負けないよ! かぶらやをつがえてひゅうっと放つよ! 命中してね、神技<空流照美主大螺(あるてみすおおら)>」

「聖イグナシオ神よ、私に悪を滅ぼす力を! <ペリ・ソーレ・フィナーレ・マーレ>」

「えーと……悪泥衛門(あくでいえもん)神妙にしろ! あ、<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>~っ!」

 それっぽい決め台詞をいきなりヤヨイとジェラルドが言うもんだから、釣られて僕も思わず寿司屋の政になった気分で決め台詞を言ってみた。

 風を切る鋭い音をさせてミナモトグレートボウから放たれたヤヨイの矢が空中で虹色の大きな螺旋を描き、僕のスシマサとジェラルドのクシュナートの剣が矢と重なるようにアークデーモンの体に命中すると、虹色の螺旋が花火のようにキラキラと弾けた。

 僕たちのトリプル必殺技を受けたアークデーモンはその体中から真っ赤な血しぶきを上げた。

「よし、効いているぞアキラ、ヤヨイ!」

 ジェラルドが快哉を叫ぶ。

 やった、今までノーダメージだった魔神形態に僕たちの攻撃が通用した!

「信じられんな。エクスカリバーとムラマサによる同時攻撃以外は決して食らわぬはずの無敵の魔神形態を傷つけるとは……どこぞの物好きな神の干渉による力か? だが、奇跡的に傷つけはしたがダメージはわずか、それでは私を倒すことは決してできん。さらに絶望的なことを教えてやる。上級モンスターのたしなみである自動再生能力というものを知っているかな? フフ、喋っている間に今与えたわずかなダメージでさえも完全に回復したぞ」

 ここに来てまた自動再生か!?

 悪魔に絶大な効果を持つスシマサでの<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>に、ジェラルドとヤヨイの必殺技まで重ねて放ったのに……僕はスシマサを握る手に力を込めて叫んだ。

「くそっ、卑怯にも程があるだろ!」

 エクスカリバーなんて持ってないし、たとえムラマサがあったとしてもあれは侍しか装備できない。

 おまけにその同時攻撃じゃないと駄目だなんて、条件がいくらなんでも無理すぎる。

 それらがなくとも今の必殺技の連発による蓄積ダメージならいつかは倒せるかも知れないが、自動回復がある以上それも阻まれてしまう……どうしたらいいんだ。

 回復したクロトがデュランダルで打ちかかるがアークデーモンはそれを避けもしなかった。

 ズッ……。

 大剣が敵の体にめり込んだかと思いきや、すぐに反発するように押し戻される。

「無理、か」

 クロトはチロリと赤い舌を出してまた距離を取った。

 僕たちが次の一手をどう打つべきか悩み動けずにいると、アークデーモンはその耳元まで裂けた口を開く。

「このまま貴様らをただ倒すのも味気ない。ひとつ愉快な話を聞かせてやろう。ヴァンパイアどもがその牙で下僕を増やしたり、冒険者の肉体を使って不死生物や魔族に生まれ変わらせるというのは貴様たちも聞いたことがあるだろう? 私にも似たような力がある。生涯に一度しか使えぬから、下僕は厳選に厳選を重ねたい所であったのだが……。古臭い年寄りどもの昔話には興味のない私でも、デーモン族の祖を滅ぼした寿司屋の話と今の<操手狩必刀(くりてかるひっとう)>については知っている。フフ……その力は今後魔界を治めるにあたって大いに利用できそうだ。私の下僕は貴様に決めたぞ、漆黒の戦士よ。<魔眼>ッ!」

 アークデーモンの額が縦に裂けたかと思うと突如不気味な第三の目が出現し、僕をギロッと睨む。

 くっ、体が動かないっ……!?

 駄目だ、意識まで遠のいてきた。

「アキラに何をしたんだ!?」

 ジェラルドの言葉にアークデーモンが楽しそうな声で答える。

「こいつはもう貴様たちの知る仲間の戦士ではない。私の忠実な下僕、狂戦士(ベルセルク)だ。その悪魔的な格好もちょうど様になっていて良いではないか。さあ、そいつらを地獄へと送ってやれ狂戦士(ベルセルク)よ」

 狂戦士(ベルセルク)と化したアキラは手にしたスシマサを仲間たちへと向ける。

「そんな……アークデーモンのまやかしなんかに負けないでアキラ!」

 懇願するサラに近づくとアキラは無言で剣を振り下ろす。

 ギィン!

 それを受け止めたのはジェラルドとクロトの剣だった。

「くそっ、洗脳されてしまったのかアキラ? しっかりしろ、本当の悪魔の手先になってどうする!」

 狂戦士(ベルセルク)はそのジェラルドの言葉を無視して攻撃態勢に入った。



 ここはどこだ?

 辺りには僕が見たこともない独特な建物が居並ぶ。

 はるか昔の日本のような印象を受けるけど、どこかエキゾチックというか違う感じがする。

 現実世界ではアークデーモンに下僕にされかかった所までは覚えているけど……また生と死の間で奇妙な世界に迷い込んだのだろうか?

 見知らぬ街並みを前にして戸惑っていると、男女の楽しそうな声がどこからか聞こえてきた。

 そちらの方へ歩いて行くと、目隠しをした裸の男が半裸の女性たちを楽しそうに追い回している光景が目に飛び込んだ。

 うわあ、何だかイケナイ遊びをしているな……。

 それはまだましな方で、建物の隅のあちらこちらから真っ昼間だというのに何をしているんだか、男女の悩ましげな声も聞こえてくる。

 街の風紀がとてつもなく乱れている――そう感じた。

「そちは遣唐使として一緒に海を渡ってきた日本人か? 唐は仏教の教えを守る敬虔な国だと聞いていたがこの乱れようは一体……。ここはその唐でも皇帝の宮殿がある随一の都、長安だというのに。退廃しきっている」

 突然横からそう話しかけてきた者がいて、僕はそちらへ振り向く。

 この男の顔に僕は見覚えがあるぞ。

 以前見た夢で出会った藤原紅麻呂(ふじわらのべにまろ)とかいう、僕の必殺技<ブレーメンドライブシュート>の原型を見せてくれた貴族の人だ。

 でも、何か雰囲気があの時と全然違う気がする。

「えっと、紅麻呂さんですよね? 以前、当麻蹴介(たいまのしゅうすけ)と対決した時に会った」

 僕のその言葉に紅麻呂は不思議そうに首を傾げた。

「確かに紅麻呂は麿だが、そちとは初対面のはず……? 当麻蹴介のことなら知っておるが、あの男とも話したことなど一度もないぞ」

 えっ、どういうこと?

 その時、ようやく僕はじっくりと彼の顔を見てその違和感に気付いた。

 そうか……前に会ったあの時よりも若いんだ、紅麻呂。

 すると目の前にいるのは僕が前に会った紅麻呂ではなく、あれより過去の世界の紅麻呂なのか?

 ただでさえここは夢であって夢でない不思議な世界で、現実世界での僕は大ピンチなのに……頭がどうにかなりそうだ。

「麿は正式な使者ではないが、この惨状を黙って見てはいられない。一言皇帝に物申さんと思ったが……どうやらそちも同じ考えのようだ。麿と一緒に来ないか?」

 全然そんな考えは持っていなかったけど、やっぱりこの事態は異常なんだね。

 他に知り合いもいないしここは紅麻呂に付いていこうと思い、僕は頷きを返し彼に同行した。

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