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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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アングラデスの迷宮第六層 その5

 大胆にも先手をくれてやると言い放ち、悠然と立つアークデーモンにまず先陣を切ったのはモンクのベンケイであった。

「その余裕が命取り也。拙僧の全力で参る……<波動念剛拳>」

 ドガッ!

 薙刀を手放したベンケイの右拳が青白いオーラに包まれるや、その間合いを急激に詰め吸い込まれるようにアークデーモンの腹めがけて拳が叩きこまれた。

「なるほど……まともに食らえば気絶しかねない程の一撃、これがノックアウトというものか。ただし、それが通用するのは並のモンスターが相手であったならばの話だ」

 モンクの強烈な拳をまともに受けたというのに顔色ひとつ変えずに平然とそう語るアークデーモン。

 自身の放ったノックアウト技が通用しないと見ると、ベンケイはすぐさま薙刀を拾いまた間合いを取った。

「その白い服で分からなかったけど、よく見たら結構いい筋肉してるじゃないドワーフのお坊さん。それじゃお待ちかねよ! 大気に満ちたりしエーテルよ我が敵の頭上に留まり灰色の世界で覆え<苦霊層雲>」

 ニーニがアルケミスト呪文の雲系攻撃呪文を詠唱すると、アークデーモンの頭上に不気味な灰色の雲が現れた。

「継続型攻撃呪文か……鬱陶しいことこの上ない。だがそれだけだな。どいつもこいつも話にならん。貴様らの実力もその程度だと知れた所でそろそろ片を付けるか」

 雲からのダメージを受け続けているのか、かなりイラついた表情を浮かべるアークデーモンはその手に炎の鞭を出現させた。

(炎の鞭、ということは炎属性のモンスターかな? ならこいつが効くか試してみよう)

 素早く思考をまとめたトニーノは詠唱の声を叫ぶ。

「永久の凍土より来る氷風よ無慈悲に吹き荒れ全てを凍てつかせよ<氷柱花>」

 ビュオオオオ!

 猛烈な吹雪の嵐がアークデーモンの体を包み込み、氷の中へと閉じ込めたのを確認するとトニーノがその拳を振り上げる。

「よし、やったぞ!」

 ピシ。

 氷に亀裂が入った。

 パリィィィィーン。

 アークデーモンを包む氷が砕け散るのと、二人の侍が駆け出していたのはほぼ同時だった。

「千載一遇の好機じゃ、やるぜよムクシ! 國原一刀流心技<跳偉虎>ッッ!!」

「むふふ了解ですぞヒョウマ殿、國原一刀流心技<七ツ鋸>でありまーす」

 ヒョウマは大きく跳躍し空中からグレートカネヒラとハネトラの二刀を交差させ、ムクシは地上からセブントルソーを全力で振り抜き、互いに最強の必殺技をアークデーモン目がけて放つ。

 ザッ。

「何!?」

 二人はアークデーモンに振るった剣のあまりの手応えのなさに驚き、慌てて飛び退いた。

 刃が敵の肉まで届いていないのだ。

 アークデーモンの纏っている魔術師風のローブを浅く切り裂いたのみで、薄皮すら斬れたのかも怪しい。

「ムクシよ、おまん今手加減したか?」

「ヒョウマ殿こそ何のダメージも与えていないのでーす」

 信じられないという顔で互いを見て言い合う二人に、怒りの声でアークデーモンが呟く。

「侍のクリティカルヒットはかつてこの身で味わったことがある……ちっ、今の私には効かぬ児戯とはいえ、あの時のことを思い出したわ」

 二人の侍の体にアークデーモンが手にした炎の鞭を振るおうとしたのを見てとっさにエマが叫ぶ。

「おどきになって二人とも、ワタクシの最強攻撃呪文で一気に片付けますわよ。イルギナ・ニジェット・シャンテ・エイン<核撃>」

 ドガアアアアーーーン!!!

 凄まじい爆発音と熱量が一気にアークデーモンを襲う。

 その攻撃を受けてついにアークデーモンがよろめき、バトルアリーナの地面に手を突いた。

「イニシエ詠唱……かつてイブリースが警戒し、人界より消し去ったというあの小賢しい技を使う者がまだいたとは正直予想外だったな。だが、今はもうあんな古くさいカビの生えたイブリースの時代とは違う。我々魔界の上級魔族は、あえて弱点をより深めるという戒めで自らを縛ることで、それ以外の攻撃全てを完全無効とする魔技を発見し、進化した。今の姿でもほとんどの攻撃は効かぬが、そのイニシエ詠唱はさすがに無効化できんようだ。ならば茶番は終わりだ……見せてやろう、私の魔神形態を!」

 そう叫んだアークデーモンの身を包むローブが張り裂けたかと思うと、背中からは巨大な6枚の羽が現れ、その顔や体つきも今までの人型から悪魔のそれへと完全に変わり果てた。

 鋭い牙が見える大きく裂けた口が不気味に動く。

煉獄鞭(パーガトリビュート)

 アークデーモンの手にした炎の鞭が伸びる――バトルアリーナを覆い尽くさんばかりに長く、どこまでも。

 それはまるで大きな輪のような形で彼ら全員を包み込むと、逃げる間もなく一瞬で収縮した。

 バシュッ!

「うぐっ!」

 大きな音が響き光と熱が弾けたかと思ったら、ヒョウマ、ムクシ、ベンケイ、トニーノ、エマ、ニーニの6人は声を上げその場に崩れ落ちた。

 そのまま誰も立ち上がる気配がない。

 6人もの熟練冒険者がアークデーモンが振るった炎の鞭の、たった一度の攻撃で全員倒されたのだ。

「戦闘不能だな。次に戦う者どもをさっさと選べ」

 アークデーモンは観客席に視線を向けて冷酷にそう言い放った。


 クーパーくんによって観客席へと戻された仲間たちに、ジェラルドはすぐさま駆け寄りその息を確かめる。

「まだ死んではいない! 待ってろ、すぐに全員私の回復呪文で癒やしてやるからな」

 ジェラルドが上位回復呪文を唱えようとしたのをヤンが止めた。

「待つよ。回復させるのは軽くビショップのトニーノだけにしておいて、後は自分に呪文を使わせるアルよ。バトルに備えて節約しておかないとダメね」

「……確かに理に適っているな。分かった」

 ジェラルドはヤンに諭されて下位呪文である<快活光>をトニーノに唱え、意識を取り戻した彼が残りの倒れた者たちを回復させた。

 金髪のビショップは難しい顔をしてクーパーくんに尋ねる。

「幸い死ぬのは避けられたが、これで僕たちは敗者と見なされてもう戦闘の権利を失った訳か。こんな感じで全員敗北した場合、生存者はどうなるのかな?」

「……」

 トニーノの言葉にクーパーくんからの返事はない。

「答えてはくれない、か……」

 トニーノが力なく目を伏せると、少女のようにぺろっと舌を出してエマが僕たちに謝罪した。

「ワタクシのかけた沈黙の呪文がまだ切れていないようですわね。しくじりましたわ、ごめんあそばせ」

 全員がそれを聞いて盛大にずっこける。

 たった今ボスバトルで死にかけたってのに、何だか緊張感がないなあ……。

 まあクーパーくんはともかく、あのアークデーモンは絶対に生きて返してはくれないだろう。

「弱点以外の攻撃を完全に無効化するとか言っていたわよ。もう、ニーニがせっかく雲をかけておいたのに意味がないじゃないの! せめてその弱点が何か分かればいいのに」

 ニーニが悔しそうに呟くと妹のミーミが寄り添った。

「ミーミが仇を取ってあげるのー。闇属性が意外と弱点かもなのー」

 サイオニックのミーミがやる気マンマンでその極小サイズの腕を振り回す。

「アタシのこの邪眼の短刀で石化にでも賭けてみようかしら。どっちみち盗賊なんて最後まで温存しておいても戦力にならなさそうだし」

 アンナの言葉を聞いて同じ盗賊であるチヒロも頷く。

「まったくだ。役立たずの俺もここで出るしかないだろうな。後のことは任せたぜクロト、ヤヨイ」

「いや。俺も戦う、ぞ」

 伝説級の名剣デュランダルを持つ戦士のクロトが勇ましくチヒロの隣に進み出た。

 僕と同じ戦士なんだけど、この人って体つきからして無茶苦茶強そうなんだよな。

 しげしげとクロトの鋼のような体を見ていたら、いきなりマナが僕の首に手を回してきた。

「先輩の戦いをしっかり見ておきなさいよ葉山」

 僕の訓練学校時代の先輩であるヴァルキリーのマナもここで行く気なのか。

「バランス的に一人ぐらい専門の回復呪文使いがいないとどうにもなりませんからね。わたくしも参りましょう」

 美人すぎる女僧侶ヴェロニカも名乗りを上げ6人が出揃った。

 メンバーがクロト、チヒロ、アンナ、マナ、ヴェロニカ、ミーミに決まると、彼らはクーパーくんによって一瞬でバトルアリーナの舞台に運ばれた。

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