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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
108/214

アングラデスの迷宮第六層 その4

 やっぱりそうだ。

 一層の小部屋にいた、かつて『ゆるキャラ』と呼ばれていた着ぐるみに霊が憑依したあのモンスターだよな?

「はーい! クーパーくんは一層のクーパーくんなのぉ?」

 ヤヨイが子供のように手を挙げて質問をするとクーパーくんはその体を揺らす。

「違うよヤヨイちゃん。あれはぼくを真似て作られた粗悪な偽物……なんだけど何故かぼくがご主人様に作られたより前の時代の物なんだよね。あれれ、おかしいね~?」

 言ってることはよく分からないけど、確かにあの一層の着ぐるみとコイツは違う……品位、風格、材質、クオリティ、その全てがあのクーパーくんとは別物だ。

 おまけによく喋るし。

「君はここを守ってる門番的存在なのかな? 倒さないと先のボス部屋へは進ませてくれない的な」

 チヒロがいつでもク・ナイフを抜けるような姿勢で油断なくそう尋ねると、クーパーくんは体を揺らした。

「ぼくは契約で隔離エリアにあるアークデーモンさんのいるバトルアリーナまで冒険者のみんなを運ぶだけだよ。『国際冒険者法』に則って契約者と冒険者双方に、正々堂々楽しくバトルをさせるのがご主人様から与えられたぼくの役目なんだ」

「まさかモンスターの口から『国際冒険者法』が出てくるとは」

 呆れたようにジェラルドがそう呟き十字を切った。

「正々堂々という言葉は"正義の侍"ムクシは気に入ったのでーす」

 ムクシの言葉を聞いてクーパーくんは嬉しそうに体を揺らす。

「それじゃルールを説明するね。バトルアリーナでアークデーモンさんと戦える人数は6人。それ以外の人は観客席での観戦になるから手出しはできないよ。でも今回だけは特別にアークデーモンさんたっての希望で、戦闘不能になった人と観客席の人は即交代で参戦してもいいんだって。だから実質17対1だよ、超ラッキーだね!」

 17人?

 それって僕たち3パーティ全員の数が含まれているのか。

 今までの冒険者の歴史でも類を見ない、かなり特殊かつ有利なバトルだぞ。

 これを聞いてジェラルドとチヒロは互いの仲間たちと何やら話し合うと、クーパーくんに向き直った。

「面白い。私たちはそのバトル方式に異存はない。受けて立とう」

「俺たちも拒否する理由がないからな。『イグナシオ・ワルツ』と同意見だぜ。アキラたちはどうだい?」

 ジェラルドとチヒロにそう尋ねられた。

「らしいが、どうするんぜよアキラ?」

 ヒョウマが腕組みをして見つめ、他の仲間たちもリーダーである僕の返事を待っている。

「もちろん、交代で一緒に戦ってもいいんなら僕だってそれに異存はないよ。数が多ければそれだけ勝利の確率も上がるからね。あれ? でも中立の『イノセント・ダーツ』はともかく、善と悪の者は一緒に戦ったら駄目なんじゃないの?」

 僕がそう言うとクーパーくんは即座に答えてくれた。

「『国際冒険者法』では善と悪の人は一緒にパーティを組んで迷宮に潜ってはダメだけど、迷宮の中で待ち合わせたりして合流するのは許されているんだよ。ひとつかしこくなったね!」

 くっ、馬鹿にされたような気分だ。

 でも、いくら何でも話がうますぎる気がする……これは罠だろうか?

 それともアークデーモンはそれだけの自信があるということなのか。

「じゃあもういっそのこと、ここで各パーティから最初に戦うメンバー6人を選出していくってのはどうかな?」

 トニーノが僕たちにそう提案を持ちかけた。

「アラ、いいアイデアだわネ。うまくすればメンバー次第で速攻で勝てるかも知れないわヨ」

 うん、確かにアンナの言う通りかも。

「ほいたら最初の露払いはわしに任せてくれちや。このグレートカネヒラとハネトラの二刀が唸るぜよ。アキラ、おまんの出番は最後までとっといてくれ」

「ヒョウマ殿が出るならセブントルソーを持つワガハイも戦いたいのでーす。ジェラルド殿も最後の切り札として控えておくのですぞ」

 伝説級の名刀を持った攻撃力の高い侍二人か……同門の侍だしコンビネーション的にも悪くない気がするな。

「では拙僧も参ろう。相手が一人ならノックアウトできる隙があるやも知れぬ也」

「言い出した僕も当然行くよ。ビショップなら回復呪文も攻撃呪文もいけるからね」

「ワタクシの攻撃呪文もいかがかしら? 無効化能力を持つ相手でもお任せですわよ」

 ベンケイ、トニーノ、エマが続々と名乗りを上げると、小さなフェアリーもふわふわと飛んできた。

「最後の一人はニーニが行くしかないようね! クロトの出番が来た時のために、雲で継続ダメージをかけておいてあげるわ!」

 こうして最初に戦うのはヒョウマ、ムクシ、ベンケイ、トニーノ、エマ、ニーニという超攻撃的なメンバーに決まった。

 彼らがアークデーモンを倒してくれたらそれでいいのだが、なんとなく僕の出番が回ってきそうな胸騒ぎがする。

「あ、そうそう。バトルアリーナでの蘇生呪文と転移呪文は禁止だから使えないよ。それと戦闘不能、もしくはギブアップした人は観客席の人と交代できるけど、敗者扱いでもう戦えないから気を付けてね。他に何か質問はあるかなー?」

「そういう重要なことは早く言っといて欲しいアルよ。転移がダメならどうやってここに戻ってくるね?」

 ヤンが丸眼鏡を光らせて尋ねると、クーパーくんは明るい声でそれに答える。

「ぼくも一緒に行くからアークデーモンさんを倒したらまたここに運んであげるよ。でも倒さないかぎりバトルアリーナの中から逃げることはできないよ。ボスバトルで逃げるなんてありえないもんね!」

 倒したらって、結構アークデーモンに対してドライだなクーパーくんは。

 でもシンプルで分かりやすい、要は後のことは考えずにアークデーモンさえ倒せばいいのだ。

 最後に僕は気になっていた質問をぶつけてみた。

「クーパーくんのご主人様ってアークデーモンじゃないよね。誰なの? 魔王とか神とかそういうレベルの人?」

 すると嬉しそうにクーパーくんはその体を揺らして僕にアピールする。

「いい質問だね! ぼくのご主人様は科学、錬金術、魔術を融合させた『サイ・アルマギー』の提唱者で、この次元で最も高い知能を持つお方『魔技師エクセルキオン』様だよ。従来の腐乱死体のイメージを覆した臭わず健康的な『ヨーグルゾンビ』や、固いゴーレムの概念から逸脱した豆腐で作られた『トーフゴーレム』を聞いたことはないかな? ぼくはそのご主人様が創造した作品群の中でも最高傑作(マスターピース)なんだよ。えへへ、すごいでしょう?」

 自信満々にその体を揺らすクーパーくん。

 ……魔技師エクセルキオンが相当の変わり者ということは良く分かった。

 この分だとクーパーくんもあまり凄いモンスターではなさそうだな。

「『サイ・アルマギー』はワタクシも聞いたことがありますわ。欧州の貴族たちの間では密かなブームとなっていて、彼らは高いお金を出して妙な合成生物をこぞって買い集めていると。あなたのご主人様はその製作者でしたのね」

 そう言ってエマはクーパーくんのボディに白い指を這わせる。

「さすがエルフのおばちゃんは物知りだね! エルフは他の種族よりだんぜん寿命が長いもんね!」

 クーパーくんが嬉しそうに言った言葉にエマが激しく動揺した。

「お、おばちゃん……そんな風に呼ばれたのはワタクシ生まれて初めての経験でしてよ。悪い冗談ですわね」

「あれれ? でもぼくは見ただけでみんなの年齢がわかるけど、エルフのおばちゃんの年齢は――」

「イルギナ・ニジェット・シャンテ・エイン<沈黙>」

 シーン。

 エマが沈黙の呪文でクーパーくんの口を塞いでしまった。

 何歳なんだろう、気になるな……。

 でも今からボス戦があるというのに、こんなやり取りに呪文使っちゃってていいのかな?

「さ、お遊びはこのぐらいにして行きましょう。みんな、準備はいいわネ?」

 アンナの言葉に全員が頷きを返すと、クーパーくんが僕たちを一瞬にして見たこともない場所へと運んだ。

 天井がない、空が開けている!

 クーパーくんは隔離エリアとか言っていたけど、どうやら『アングラデスの迷宮』の中ではなさそうだ。

 いつの間にか僕の腕をぎゅっと握っていたサラが声を出す。

「この場所、私の母国イタリアにあるローマのコロッセオにとても似ているわ」

 古風な石造りの円形闘技場の観客席に僕たちは運ばれており、闘技場の中央にはヒョウマ、ムクシ、ベンケイ、トニーノ、エマ、ニーニの姿が見える。

 そして、僕の悪の兜によく似た丸い角を生やした魔術師風のローブを纏った男の姿も。

「私は魔界の大悪魔、アークデーモン。本来ならば貴様らなど全員一度に相手をしてやりたい所だが、契約を交わしたあの選別転移モンスターが法がどうだの譲らなかったのでな。まあいい、この特殊空間に存在するバトルアリーナで圧倒的大差を付けて、貴様らくだらぬ冒険者どもを血祭りに上げてくれる。先手はくれてやろう、かかって来い」

 アークデーモンはバトルアリーナに響き渡る恐ろしい声でそう宣言した。

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