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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
103/214

世界にひとつの指輪を求めて その4

 忍者に切り落とされた僕の右手の切断面からは怒涛の勢いで血がビュービューと流れ落ち、痛みも凄まじいが血を大量に失ったことでめまいがする。

 だが全職業でも最高の体力を誇る戦士たるおかげか、僕は戦意も喪失せずちゃんとリングに立っている。

「その黒いマフラーで首の防具を隠してたって訳か……」

 激しい痛みに耐え僕がそう口にすると、意外と美形だった素顔のマツカゼは少し困ったような顔をした。

「いや、色がな……オリハルコン特有のメタリックな青がどうにも。拙者の好きな黒のジャケットと合わないからあのマフラーでアレンジしていたのだ」

 どうやらコーディネートの問題らしい。

 服の色の趣味が同じ者同士、こういう状況でなければお互い話が弾んでいい友達になれたかも。

「それよりも、その出血では拙者が手を下さずとも5分でおまえは死に至るだろう。もう降参したらどうだ?」

 確かにそうだ、最後のアングラデス六層挑戦前に地上で死にかけるとは冗談じゃない。

 慢心していたのは僕の方だったのかな。

 こんな所で教会送りなんて割に合わないけど……でも。

「まだ左手と刀、それに両足が残ってるからね」

 僕は痛みをこらえつつ精一杯笑って見せた。

 どうしてそんな答えをしたのか自分でもよく分からない。

 幾度も窮地に陥った戦いを繰り返してきたことで、感覚がマヒして意地になってたのかも。

「……愚かだな。だが、まるで侍を思わせるその見上げた根性と装備のセンスは嫌いではない。ならば拙者の最高の技で教会へと送ってやるのがせめてもの礼儀」

 マツカゼは両手を交差させて構えると、天高く跳躍した。

 この状況での通常攻撃による迎撃はきっと難なく回避されてしまう。

 僕に残された技は、左手でのムラサマによる<操手狩必刀・通くりてかるひっとう・つう>か<ブレーメンドライブシュート>だけだ。

 前者は無心のままに相手の弱点である首を狙ってしまうので、再びあのオリハルコンネックガードに防がれてしまうだろう。

 後者は蹴り技だけど全身のバネ全ての力を使って放つ大技なので、片手の今はまともに放てる気がしない。

 文字通り打つ手なし、か。

 リングに転がった僕の右手が握りしめたスシマサと、その柄にサラが結んでくれた母の形見の青いリボンが視界に入る。

 それを見た瞬間、突然僕の脳裏に見たこともない技のイメージが閃いた。

「食らうがいい……拙者の最高の技48番、<天空双手斬>」

 空中より落下しながら両手での手刀攻撃を仕掛けるマツカゼを前に、僕の左手と口が勝手に動いた。

「<青き薔薇の崩壊>」

 ザシュザシュザシュッ。

 肉体を切り刻む斬撃の音が響く。

 手刀の攻撃が届くその前に、僕は左手一本でムラサマを忍者の体に高速で振るっていたのだ。

 攻撃を空振りして着地したマツガゼの体に一瞬遅れて、その胸にまるで薔薇が咲いたかのように真っ赤な血が舞う。

 この技は一体何だ……?

 今まで僕が使ってきた技とは明らかに性質の違う、超高速の華麗な連続攻撃技だ。

 自分で使っておきながらこれには僕もかなり驚いた。

「み、見事……」

 血を吐いてマツカゼがリングに倒れると、すぐに場内に試合終了を知らせるゴングの音と大歓声が飛び交う。

 僕の下に駆け寄ったお爺さんが、きつく布を傷口に巻いて右手の止血をする。

「しっかりしなお兄ちゃん。よし、これで失血死の心配はねぇ。教会はちっとばかし離れてるがちゃんと連れてってやるぜ。そこまで頑張んな!」

 確かに先日ヒョウマたちの蘇生で訪れたあの場所はここからは離れすぎている。

 この激しい痛みをそこまで我慢できるかなあ……。

 いや、戦闘終了でアドレナリンも完全に切れたし無理無理!

 ちょっとでも歩くとズキズキと傷に痛みが響く。

 こうなった以上、もう頼みはあの男しかいない。

「あの、ここを出たすぐ近くの<トーキョーイン>に宿泊しているヤンという男を呼んできてもらえますか? なるべく急ぎで」


 すぐにお爺さんが若い衆に声をかけて、ヤンが闇闘技場へと連れてこられた。

「ヤンさんせっかく宿でグースカ寝てたのに何事ね。ありゃまアキラ、一体どうしたよその手は? ギャンブルのイカサマでもバレてチョン切られたアルか? ご愁傷様よ~」

 闇闘技場の控え室に現れたヤンは開口一番僕にこう言ってきた。

「ちょっと賭け試合で忍者にやられちゃって。あ、試合には勝ったんだけどね。それよりくっつくよね、これ?」

 不安げに僕が尋ねると、ヤンは切断面を見て感心している。

「こりゃまたかなり綺麗にスッパリやられたね。これなら何の後遺症も残らず余裕でくっつくよ。地上で大っぴらに呪文を使うのがバレるとまた色々うるさいが、ここは厳密には『地下』だからその問題もないアルね。大いなる神よ我が祈りの声を聞き届け癒やしの力と恵みの祝福を授け給え<真慈癒>」

 ヤンが雑な感じで切られた腕を傷口にあてがって呪文を唱えると、たちまち僕の腕は元通りにくっついた。

 血管とか神経とか別のとこにくっつけられてないか心配したけど、指もちゃんと動くし多分大丈夫だろう。

「ありがとうヤン、おかげで助かった。みんなが心配するといけないからこのことは内密に頼むよ。あ、ついでだけどもう一人いいかな?」

 僕は控え室の片隅に運ばれていたマツカゼの側にヤンを連れて行き、同じように回復してもらった。

「……かたじけない。それにしても片手を失くしたあの状況から逆転するとは見事の一言だったぞ。拙者の<天空双手斬>を破ったのは同胞のライゾウに続きおまえが二人目だ。強さはレベルや職業が全てではないのだと良い勉強になった。アキラと言ったな……その名、覚えておこう。では御免」

 頭を下げたか思うとマツカゼはいきなり煙幕を張り、その場からドロンと姿を消した。

 あの黒づくめの格好だけでなく去り際も何だかカッコイイな、忍法ってやつだろうか?

「ごほごほっ……助けてやったお礼がスモークとはやってられないアルよ。これこそ骨折り損のくたびれスモークよ。それよりアキラ、闇の賭け試合で何をゲットしたね?」

「お兄ちゃんが体を張って手に入れたのはこいつだぜ。とくと拝みな!」

 丸眼鏡を光らせて僕へと迫るヤンに、控え室に戻ってきたお爺さんはまるで将軍家の葵の紋が描かれた印籠でも出すかのように、大きな石を見せた。

「は? 爺さんこの石コロは一体何よ? 老人相手の取引だと舐められて騙されたんじゃないアルか?」

 ヤンの言う通り、僕の目にも単にでかいだけの石の塊にしか見えない。

「かーっ、これだから素人は困らぁ。こいつこそが極上のヴァンパイアルビーの原石よ。この大きさでおいらが指輪を作りゃあ、末端価格で15万Gはくだるめぇよ」

「えーっ? 15万Gもするの!?」

 まさかのヒョウマのグレートカネヒラと同額、そんな高額な物だとは思ってなかったから僕は心底びっくりした。

 でもそういやお爺さんはかわりにナワバリを賭けるとか言って、観客のみんなも驚いていたもんな……。

「でかしたねアキラ! さっそく売っ払ってオールナイトでお祭り騒ぎに繰り出すよ! 全種族のお姉ちゃんをはべらかすアルね、ウシャシャシャ!」

「駄目だよ、これはサラにあげるって決めてるんだから。石も手に入ったし、これでもう後は作って貰うだけですよね?」

 僕がお爺さんにそう尋ねるとブンブンと首を振った。

「おいらがやるのは輪っかの制作と台座の加工まで。石の加工は近くに住んでる辰吉つぁんの仕事だ。しばらく会ってねえが、滅法腕のいい宝石加工職人なんだぜ」

 お爺さんに連れられて、僕と暇だったから付いて来たヤンはその『辰吉つぁん』の家を訪ねた。

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