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僕の就職先は戦士、それも悪の。  作者: 伊邪耶ゼロ
城塞都市編
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世界にひとつの指輪を求めて その1

 朝を迎え、『みやび食堂』で一緒に朝食を摂るべくロビーに向かった僕たちに宿のコンシェルジュが朗報を届けてくれた。

「『アングラデスの迷宮』第六層の調査が完了したようですよ。明日解禁になるとのお話です」

「アラ、もっとかかるかと思っていたけど意外と早かったわネ。それで詳しい情報は何か分かったのかしら?」

 アンナがしなだれかかるように身を乗り出すとコンシェルジュは一歩だけ下がったものの、それでも顔色は変えずに自分の仕事を遂行する。

「構造は五層ほど広くなく、モンスターはデュラハンとアイスドラゴンの姿が確認されたとか」

 その言葉に僕たち全員は息を飲んだ。

 デュラハンとは全身甲冑に身を包んだ首無し騎士のモンスターだ。

 死んだ冒険者を蘇らせた不死生物なのか、ゴーレムのような魔法生物なのか、それともそういう悪魔なのかその素性ははっきりしないが、弱点らしい弱点もなく魔法もクリティカルヒットも通用しないデタラメな強さのモンスターだと伝えられている。

 そしてアイスドラゴン。

 大昔の『冒険者名言集』にこんな有名な言葉がある。

 『ヴァンパイアとは戦うな。ジャイアントを見たら逃げろ。ドラゴンに遭遇したら諦めろ』

 ヴァンパイアは冒険者の生命力と経験値を吸収するエナジードレインという最悪の力を持つ、非常に強力な不死生物。

 エナジードレインは僕も一度食らったことがあるから分かるけど、あれは本当に恐ろしくレベルダウンは心が折れる。

 上位のヴァンパイアの中には冒険者に対して好戦的でない者も多く、こちらの出方次第ではうまく戦闘を回避してやり過ごせることもあるらしい。

 ジャイアントはその文字通りの巨体から繰り出す一撃をまともに食らおうものなら冒険者は確実に即死、極めて恐ろしい相手だ。

 だが歩行速度は案外遅く、間合いさえ十分なら逃げ遅れる心配はない。

 僕が戦ったオークジャイアントのノブくんはオークとジャイアントのハーフだったけど、今思えばあれも分厚い皮膚で刃が通らずかなり強かった。

 ドラゴンはモンスターの中でも別格の、強力無比な種族だ。

 硬い鱗に覆われた体は半端な攻撃は通用せず、辺り一面に吐き散らす様々な効果のブレスから生き残るのは容易ではない。

 個体によっては下手な魔王よりも強く、また獰猛かつ残忍な性格をしており一度見た獲物は何があろうとも逃さない執拗さを持つと聞く。

 迷宮調査員もその姿を見てよく生きて帰ってこれたものだ。

 アイスドラゴンというからには当然冷気系のブレスを吐いてくるんだろうな。

 アンナは冷気を軽減する雪豹のストールを装備してるからまた役に立ちそうだが……。

「ここに来て出現モンスターのレベルが急激に上がったみたいね。私たちの攻撃、通用するのかな」

 不安そうな顔をするサラに僕は胸を張って答えた。

「大丈夫だよ。ヒョウマもすごい武器を手に入れたし、僕たちのレベルだってかなり上がってる。それにいざとなったら逃げればいいよ。大ボスのアークデーモンさえ見つけて倒してしまえば、長かったアングラデスも終わりだ」

「ウフフ……さすがリーダー、とっても頼もしいわね」

 エマが僕にいつものように豊満な胸を密着させて腕を絡めてきたけど、サラはそれを黙ったまま余裕の表情で見ている。

「オーララ、ワタクシの知らない間に……そういうことね」

 サラのその態度に気付いたエルフの美女は、残念そうな口ぶりでそう呟き僕からパッと手を離した。

 この感じだとエマはもう僕に積極的なアピールはしてこないかな?

 でも『二匹のボーパルバニーを追うものは首を掻っ切られて身を滅ぼす』というから、残念だけどこれでいいんだ。

「ウシャシャシャ! 迸った青春という名の刀も収まるべき鞘にちゃんと収まったようね。安心するよエマ。ヤンさんのココ、空いているアルよ?」

 丸眼鏡を光らせてドヤ顔で自らの腕をアピールするヤンに、エマは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「そうね。それもいいんだけど……ヒョウマ、あなたのすごい武器というのにワタクシ今とても興味がありましてよ。後でじっくりと聞かせてくださるかしら?」

 エマに言い寄られたヒョウマは鼻の下を伸ばし、ヤンはガックリとその肩を落とした。


 『みやび食堂』で朝食を済ませると僕たちはそれぞれ自由行動を取ることとなった。

 サラはフリチョフと約束の待ち合わせ時間に『マルホーンの迷宮』へ、ヒョウマは師匠の持つ日本刀のコレクションを見てみたいというエマたっての希望で一緒に國原館に、エマを取られて落ち込むヤンは部屋で二度寝、アンナはショッピングに向かった。

 僕もアンナに誘われていたけど丁重にお断りした。

 女の子とのショッピングは、あちこち連れ回されて高いブランド物を買わされた挙句に、荷物持ちまでさせられるものだからね。

 まあアンナは正確には、というか明らかに女の子ではないけれど。

 それに僕には密かに計画していることがあった。

 サラから貰ったこの黒い皮手袋のお返しに、何か買ってプレゼントしようと考えているのだ。

 きっと彼女も大喜びするに違いない。

 『ありがとうアキラ! 私、こんなに素敵なお返しを貰ったのなんて生まれて初めて! でもこんな素敵な物に手袋じゃ、とても釣り合っていないわ』

 『フッ……それじゃかわりに別の物を頂くとしようか』

 『別の物? でもそんなに価値のある物、私持っていないわ。教えてアキラ、一体それは何なの……?』

 『それはこれさ』

 そう言ってサラに僕が唇を重ね合わせるシーンを想像してみたが、そもそも彼女がそこまで喜びそうな肝心の物が思い付かなかった。

 うーん、とりあえず『堀田商店』にでも行ってみるかなあ。


 『堀田商店』に向かうその道すがら、見知った顔に僕は声をかけられた。

「おっ、いつものお兄ちゃんじゃねえか。おはようさん。今日も歌舞伎を観に行くのかい?」

 『ザ・カブキ』の常連のお爺さんだ。

 あれ以来友達みたいな間柄になってるんだよね、僕たち。

「おはようございます、今日はちょっと同じパーティの女の子に貰ったプレゼントのお返しを買おうと思って、『堀田商店』にでも見に行こうとしてたんです」

「おっ? 若い男女の色恋沙汰とくりゃあ、歌舞伎の上方世話物の定番じゃねえか。よし、そこの茶店でちょいとおいらに聞かせてくれよ。なあに、そんなに時間は取らせねえ。あ、暫く暫くゥ~」

 この間お爺さんと一緒に観た歌舞伎の演目、『(しばらく)』に出てくる鎌倉権五郎の名ゼリフを聞かされながら僕は喫茶店へと入った。

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