冒険者
この国、日本では中学校を卒業した子供たちに進路として二通りの選択肢が用意されている。
ひとつは、一般人として普通に暮らすという選択。
もうひとつは、『冒険者訓練学校』へ入学するという選択だ。
アメリカのワシントンD.C.にあるホワイトハウスに『はじまりの迷宮』が突如出現したのは、今からもう55年も前のこと。
そこからは『魔王イブリース』と名乗る超存在が率いる無数のモンスターが湧き出て来た。
時のアメリカ大統領はすぐさま軍隊を出動させ近代兵器による軍事攻撃を強行したが、ダメージを一切与えられず逆にモンスターの攻撃で軍隊は壊滅。
軍部からも猛反対を受けた最後の頼みの核攻撃ですら魔王は無傷。
自国を衰退させただけという最悪の結果になりワシントンD.C.は陥落、モンスターが跋扈する『デビルシティ』と呼ばれる地獄の地と化した。
そしてアメリカだけでなく世界各地でも『はじまりの迷宮』と同様の現象が起き始め、いよいよ世界は混沌の渦へと巻き込まれる。
そんな中、迷宮にモンスター討伐に赴く勇気ある者たちが徐々に現れ始めた。
彼らの無謀とも思える挑戦により、銃器や火薬を使用した近代兵器の類はモンスターには一切効果が無いことや、日本刀を始めとする古い刀剣での攻撃が意外にも有効なことが次第に分かり始める。
この後に、『国際冒険者連合』が発足。
個人が思い思いに迷宮に挑んでは返り討ちに合っていた状況を考慮し、迷宮に潜る意志を表明した者を『冒険者』と名付け一定のルールを『国際冒険者法』として厳しく定めると、彼らの挑戦を支援した。
やがて、日本人の侍が率いるとある冒険者のパーティがついに『魔王イブリース』の討伐に成功する。
だがそれ以降、世界各地に次々と新たな迷宮は現在も出現し続けている。
迷宮のモンスターはこの世界とは違うどこか別の次元からやって来る。
大抵は冒険者にとっては脅威にならない小型の弱いモンスターばかりだが、まれに力のあるモンスターが現れてそれはさらに自分よりも格上の強いモンスターを迷宮に呼び寄せる。
その繰り返しでいずれは巨大なジャイアント、恐ろしく凶悪なドラゴン、さらにはイブリースのような魔王といった規格外の強さのモンスターがやがて迷宮に現れるのだ。
それら強大なモンスターは迷宮の外にも平然と出て来ては破壊の限りを尽くす。
アメリカやロシアはそうして事実上この世界から滅びた。
そうならないためにも冒険者が常に迷宮に挑み、モンスターを倒し続ける必要がある。
『冒険者訓練学校』は中学を卒業した15歳以上の者なら誰でも入学できる。
そこで3年間みっちり学ぶことで、生まれつき才能に恵まれない者でも冒険者に必要な最低限の資質を得られるのだ。
僕、葉山旭はようやく訓練学校での3年間のカリキュラムを終えて卒業し、念願の冒険者になるための第一歩を踏み出したのだった。