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封印

 改札を出て、百貨店の入り口に繋がっている、牛沼駅の西口側のプチ広場の前で脚を停めた。

 PM6:00。

 時刻をスマホで確認する、約束までちょい早いが、ケイスケと飯を軽く済ませる約束だから、丁度良い。

 視界の端にかつてのもう一つあったらしい百貨店の建造物が目に入る。

 ケイスケが言うには、割と活気があったらしい、とはいえ、20年以上昔のことらしい、

いずれにしても俺が生まれる前の話だ、どうでもいい。

 スマホを弄っていると、チャリで来たらしいケイスケが階段が上って来るのが見えた。

 相変わらずの健脚ぶりを感心したように眺めていると、挨拶代わりに軽く手を挙げ、近づいてくる。

「お疲れ、何食うか?」

「そこしかないだろ」

 のんびりと声をかけると、ケイスケが親指で百貨店を指差した。

 もっともだ、東口にあった軽い中華も扱うドーナツチェーンも昨年、潰れたし、コンビニ飯よりは少しはマシだ。

「じゃあ、カフェテリアかフードコートか、どっちにする?」

 二階のとこには、前に海老原先輩と行ったな、最も女子の方が多い状態での付き合いは少しキツかった、男だけで行くのもちょっとキツい場所だ。

「下にしよう」

「ああ」

 俺は賛成、とばかりに頷くと、この前、立ち寄った場所へとケイスケと向かった。



「……ああ、先生には飯食ってるってメールしといた」

「ん」

 ケイスケはざるそば、俺はラーメンを頼んで、席に腰掛ける。

 到着の連絡は早く来た俺が送っておいた。

「あと、何度あるんだろうな?」

「さあな、最も来年以降は付き合えるか、分からないけどな」

 一応、進学高にいる身としては、付属の大学に行くか、受験するんだろうな。

 大学がこの辺りなら構わないが、正直、受かる気がしない。

「そういや、青雅先生ってどうやって画家になったんだろうな」

「元々、高校はバスケの特待生だったらしい、でも、いろいろあって画家になったらしいな、副業でスポーツジムのインストラクターもやってるみたいだぞ」

「大変だな」

 他人事のようなことしか口に出来ない。

「と、できたみたいだ」

 呼び出しが聞こえたのか、ケイスケが席を立ち、料理を受け取りに行く。

「……そういえばテストは来月だっけか」

 水を飲んで益体ないことを考える。

「ラーメンのお待ちのお客様」 

「おっと」

 呼び出しが聞こえると、俺も取りに向かった。



 その後、食い終わったところで、青雅先生から東口に着いたという連絡が入ったので、俺達はそっちに向かった。

 東口はバスターミナルになっているが、そう本数も多くないので、先生は待ち合わせの際にはここに停める。

「おつかれ」

 俺達が近づくと、ウインドウを開けた先生が声をかけてくる。

「お疲れ様です」

 声を返し、ナビ役として、ケイスケが助手席、俺は後部席に回る。

「じゃあ、行こうかな」

 先生が車を出し、唸るような発信音と共にスタートした。

 俺達が通う駅から歩いて大体30分程の高校の前を通り過ぎていく。

 もうちょっと行くと県立の高校があるが、目的地はもうちょっと遠いらしく、明かりが殆どなくなった道路を先生の車が軽快に進む。

「俺とケイスケだけじゃ、現地に来るのも厳しいですね」

「まあ、君らなら自転車だからね、バイク駄目だよね、君たちの高校?」

「駄目ですね、バれたら、間違いなく停学です」

 肩を竦めて 周囲を見回す、うん、見事に山ん中、夜にチャリはキツいわ。

 やがて、先生は車を停めた。

「じゃあ、準備をしてね、そしたら行こうか」 

「大体、アタリついてるんですか?」

 ケイスケが竹刀袋に入れていた木刀を取り出す、黒光りした樫材製の直刀型の木刀。

 前に持たせて貰ったことがあったけど、凄い重かった。

 ケイスケは150センチと小柄で華奢に見えるか、全然、そんなことはない。

 前に腕相撲でレスリング部の奴にも圧勝してのけたこともある。

「……うん、大体、見当はついてるよ、まあ、僕一人でも何とかなるけど、封じ込めは無理だからね」 

「……俺も一人じゃ無理です、それに人は個じゃかくて集団で真価を発揮するんでしょ」

 前に先生がいった言葉を返し、俺はスマホの電源を切る、圏内だか、事の処理中に電話なんてかかってきたら、集中なんてできやしない。

「其の通りだね、じゃあいいかな」

 ドアを開き、皆、車を出ると、三人とも懐中電灯をつけ、先生の誘導に従って、歩みだす。

 先生は指貫のグローブをつけていた。

 俺は用意してきた水晶片を手に握る。

「そういえば、さっき、ケイスケと話してたんですけど」

「ん、何だい?」

「俺とケイスケが卒業して都内とかに住んだら、狩りの時、どうします?」

「そうだねぇ……」 

 意外な問いかけだったのか、先生は軽く唸って、すぐに返答は返ってこなかった。

「……一応、支部に連絡して協力者を探してもらうことになるかな、まあ、いるかは微妙だけど」

「……ですよね」

 軽くため息をつく、化物も多数とはいえないが、対抗する術者も多いとは言えない。

 とはいえ、あまりおおっぴらにできる話でもない。

「オサ、狩りの前にそんな話は止めろよ」

「……悪い、そうだな、少し慣れて集中が欠けてかもしんないな」

 俺は素直に謝る、確かに今、すべき話じゃなかった。

「まあまあ、ケイスケ君、オサ君みたいに考えなきゃ行けないことだよ、っと、この辺りだよ」

 先生が宥めるように口にし、脚を止めると、俺に視線を向ける。

「判りました」

 俺は軽く頷くと、化物の居所を感知するための術を発動させた。

 《気配感知》と俺は名づけている。

 昨年の文化祭の後に使えるようになった超常の術の一つだ。

 化物の存在を約1kmの半径で知覚することができる。

 やがて、術はそれを認識した。

「いました」

「どっちかな?」

 俺の言葉にケイスケは息を軽く呑み、先生が問いただす。

「……あっちです、気配は一つだけですね」

「判った、じゃあ、狩ろうか」

 先生は事も無げに頷くと、ゆっくりと歩みだす。

 それにケイスケ、俺はその後に続く。

 前衛は先生とケイスケ、俺が後衛のフォーメーション。

 暗い舗装されていない夜道を大体、500メートルも歩いたろうか、やがて、姿を現した化物は俺らをねめつけてきた。

 今回の化物は四足獣だった。

 形状は大型のドーベルマンといえばいいかもしれない、但し、頭が二つ、眼は真っ赤だ。

 いくら相手をしても慣れない、慣れないから、俺は始まる前まで触れないようにしていた。

 正直、俺が先生やケイスケのように直接、殴りあう立場だったら、逃げ出したい。

「行こうか、ケイスケ君」

「オスっ」 

 気合を入れる声をケイスケはあげた。 

 木刀を八相というか、薩摩示現流でいうところの蜻蛉の構えを取り、歩み寄る。

 先生は右手を握り締めた。

 何時の間にか、ケイスケの木刀、先生の両手両足には淡い虹色の光が纏わりついている。

 ケイスケが言うには《気》らしい。

 先生とケイスケは一足跳びで踏み込める位置で足を止めた。

 俺も準備を整える。

 二人が化物を削りきれば、後は俺が封じればいい、駄目なら俺も少し手伝う必要がある。

 突如、化物が跳躍した、牙を剥き出しにし、先生を噛み裂かんとする。

 しかし、先生も予測していたようだ、一挙動で右脚を振りぬく、いわゆる回し蹴りで迎え撃ち、化物の右の首筋を蹴り飛ばす。

 分厚い金属がガンっと鳴るような音があがり、化け物が地面に転がった。

 そこをすかさず、ケイスケが倒れた化物の所へと駆け寄り、木刀を振るい、化物の身体を激しく打ち据える。

 再び、鈍い音があがった。

 先生の蹴撃とケイスケの撲撃、それなりにダメージがあったようだが、まだ、存在している。

 丁度良い、俺は水晶欠を掲げて、《封印》の為に意識を集中する

「ギャグアア!!!!!!!」

 化物の悲鳴があがり、水晶片へと吸い込まれた。

 倒すことは幾つかの方法でしかできないらしく、先生やケイスケが攻撃し、化物を破壊しても、霧散し、いつか元に戻ってしまうらしい。

 だが、封じれば少なくても俺達が生きている間は復活することはないと先生は言っていた。

「……ひとまず、今日は終わりだね」

 先生が声をかけてくる。

「ええ、電車が動いている内に帰れそうですね」

 化物を封じた水晶片を先生に渡して同意する。

 大したことはしてないのに、化物狩りは疲れる。 

「ケイスケ、終わりだ、帰るぞ」

「ああ」

 ぜぇぜぇと喘鳴しつつ、ケイスケは頷く。

 俺には判らないが、《気》を込めた上で化物を直接、殴るのは気力を消耗するらしい

 先生はやっぱり凄いんだな、全然、疲れてるように見えないし。

「まあ、慣れないと厳しいよね、はい、ケイスケ君」

 先生がケイスケにお茶の入ったペットボトルを渡す。

「ありがとうございます」

 受け取ったケイスケはごくごくと飲み干す。

 そんな光景を見ながら、俺は明日の休みをどうしようかと考えた。

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