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力戦奮闘

戦車戦します。

 皇国軍央州派遣隊の三台のロ号軽戦車とトラックは、シグのヴォルフの先導で、森の中を進んでいた。

闇夜に包まれていた森はいつの間にか明るくなり、戦車隊はヘッドライトの明かりを消す。

「ふむ。テテスの街まで後どれぐらいだ?」

「事前にシグさんと打ち合わせた話だと、もうすぐだと思います」

「よし。なら、今日中に追いつけそうだな」

 すると、ほどなくして、森の間からレンガ造りの建物群が見えてきた。

 戦車隊は街道から、街中へと入って行く。

 この辺は戦火が少ないのか、町並みは美しいままで、央州らしいレンガ造りの建物が綺麗に立ち並んでいた。

そして、ヴォルフはそんな街の中央の広場らしい場所で停止。

後をついて来たロ号軽戦車三台とトラックも、同じ様に停止していた。

 アオイが操縦席のハッチを開けて体を出すと、街の人々が不安そうに戦車を見上げているのに気がつく。

「あ、大丈夫ですから! 僕達は皆さんに危害を加えるつもりはありませんので」

 そんな事を言っているうちにも、隊長であるツカサはロ号を降りて、ヴォルフの車体をよじ登っていた。

「ここがテテスだな」

 そして、彼女はハッチから上半身を出していたシグへと声をかけていた。

「そうだ。で、ここからどうするんだ隊長さん?」

「川へ行ってくれ」

 彼女がそう言うと、シグが咽頭マイクで操縦士に命令する。すると、すぐにヴォルフは再び走り出していた。

 アオイはヴォルフの砲塔に掴まったままの小さなツカサが振り落とされないかと冷や冷やしたが、おいてかれる訳にも行かないので、再びツカサ不在のロ号軽戦車の操縦レバーを握り、後を追う。

 そして、街を奥へと進み、目の前に現れたのは、巨大な川―――ローレル川だった。

「ふむ。やっぱりな」

「何かお目当てのものが見つかったみたいだな」

「ああ」

 ヴォルフが川の前で停車すると、ツカサは降りて、その広大な流れの川を眺めていた。

 そこへ、遅れてロ号を降りてきたアオイが下から声をかける。

「で、どうするつもりなんですか?」

「敵の戦車隊を追う一番の近道は川を下る事だ」

「それは分かってますけど、ここには戦車を乗せる用な船はないみたいですよ」

 そう言って、アオイはそこから見える川の様子を眺めて言う。

 川の桟橋に係留されてるのはどれも小型の船ばかりで、とてもではないが戦車は積めそうにない。それどころか、そこにある船は荷物を運ぶ様な船でもなく、ただの操縦席とエンジンがついただけのような簡単な船だった。

 そしてその事に、逆にアオイは首をかしげる。

「どう言う事だ? 運搬用でもないあんな船がなんでこんなに?」

 ここは観光地なのだろうか。だとしたら、運搬用ではないモーターボートが会ってもおかしくはない。しかし、そこにあった船は無骨な上にくたびれていて、とても観光用とも見えなかった。

 すると、それにはツカサが応えていた。

「ああ、あれは乗せて運ぶためのものじゃない。押して運ぶものなんだよ」

「押して運ぶ?」

「そうだ。そこでだ、アオイ。船がなければどうすればいいと思う?」

 その言葉に、アオイは首をかしげた。

「さ、さあ・・・・・・?」

 すると、ツカサは川の脇に作られた貯水池の様なものを指差して行った。

「―――作ればいいのだ!」

 そこには大量の木材が浮かんでいたのだった。


「と、言う訳で、街の人間に筏を四つ作ってもらえるように交渉してきた」

 そのツカサの報告に、朝食のサンドイッチを咥えていたシグは目を丸くしていた。

「なるほどな・・・・・・。確かに、木材の運搬は川に流して行うって聞いた事がある。しかし、ついでに戦車を乗せて運ぶとは思いつかなかったな」

「いや、我々の軽いロリだからこそできる事だ。ヴォルフじゃ乗せても沈んでしまうだろう」

「確かにな。いや、しかしまさかあんたらの戦車の薄い装甲って言う弱点を逆手に取って、軽いという所を活かしてくるとは」

 そう言って、シグは素直に感心した様に頷いていた。

「これなら、確かに敵戦車隊に追いつけそうだ」

「そうだろうそうだろう」

 そう言って、ツカサは得意げにしていた。

アオイはその様子に苦笑しつつ、サンドイッチを渡す。それは町のパン屋で買ったもので、軍の配給品などとは違って新鮮な野菜が挟まれていた。

「うむ。―――美味いな」

 ツカサがそれに齧り付いて満足している隣で、シグがヴォルフの車体を机代わりに広げた地図へと、アオイが指を差していた。

「隊長の作戦だと、敵の進んでる方向のこの辺に展開できますね」

「これで、敵の頭を叩けるって訳か。上手く待ち伏せすれば被害も最小限ですむな」

「はい。完璧な作戦です」

 すると、シグはサンドイッチを咀嚼しながら、思いついた様に言っていた。

「じゃあ、こういうのはどうだ? 先に敵の後ろからうちのヴォルフが攻撃を仕掛け、注意を引かせる。そこを、さらにあんたらが前から叩くってのは」

「え・・・・・・?」

「その方が騙し打ちになるからこっちの被害はもっと少ないだろう。ヴォルフも一台でも、敵は追撃部隊が来たと思って牽制ぐらいはするから、あんたらの方に隙が出来るはずだ」

 シグの作戦は待ち伏せに比べても確かに確実な作戦だった。

 しかし、それを聞いたアオイは、いかにも不機嫌そうに声を上げる。

「―――それは、卑怯ではありませんか?」

「え?」

 それには、シグも思わず訊き返していた。

 しかし、アオイはむしろ怒った様に言葉を続ける。

「卑怯ですよ。敵を背後から騙し打ちするなんて! 正義に反します!」

「え? いや、しかし、その方がもっと安全だし。あんたらの装甲の薄い戦車には良い作戦なんじゃないかと・・・・・・」

「確かに安全ですが、それでは本当に敵に勝ったと言えません。正々堂々、ルールを守ってちゃんと戦わなければいけないのではありませんか?」

「え、ええ・・・・・・?」

 ぐっと顔を迫って言い張るアオイに、シグは圧倒される。

 しかし、その隣でツカサがきっぱりと言っていた。

「―――いや、シグの作戦で行こう」

 それに、アオイは驚いて振り返っていた。

「ど、どう言うつもりですかッ!」

 アオイは思わずツカサに歩み寄る。

 しかし、ツカサは涼しい顔で、サンドイッチを食べ終えた指を舐めていた。

「これは命令だ。大人しく従えアオイ」

 しかし彼女がそう短く告げると、アオイは悔しそうに顔を歪める。

「くっ! 小さくても、あなたは誇り高き皇国軍人だと思っていたのに! 失望しました!」

 そう言うと、アオイは肩をいからせて、自分のロ号軽戦車へと戻って行ってしまった。

「おい・・・・・・、良いのか?」

 シグがそんな彼の後ろ姿を見ながら心配そうに訊くも、ツカサは特に表情を変える事もなく、改めて地図を見て言っていた。

「良いのだ。それより、タイミングはどうする?」

「じゃあ、そっちの無線の周波数を教えてくれ。そしたらこっちから合図しよう」

「無線?」

 その言葉に、ツカサは首をかしげていた。

「言っておくが、我々の乗っているのは指揮車じゃないんだぞ?」

「え? そりゃあ知ってるけど・・・・・・」

「じゃあ、無線など搭載してないのぐらい知ってるだろう?」

「な、なんだってっ? あんたらの戦車って無線積んでないのかッ?」

「なにを言うか。無線って高価なんだぞ? あれは指揮車両が司令部と連絡するためにしか積んでないだろう普通」

「いやいや、普通は車両間で連携をとるために積んであると思うんだが・・・・・・」

 それを聞いて、思わずシグは頭痛がするかの如く頭を押さえていた。

「しかし、じゃあ皇国ではどうやって車両間で連絡し合うんだ?」

「戦車の上に旗を出すのだ」

「し、信号旗か・・・・・・」

 時代から言ったら、戦車が登場してすぐ発案された方法である。

「・・・・・・そうだな、後で無線機はどっかから調達しよう」

「しかし、そうなると合図はどうするのだ?」

「じゃあ、一応俺の戦車にも信号弾はあるし、それで合図する」

「ふむ良いだろう。―――それより、ここまで決めたのだ。確実に敵の注意を引けるのだな?」

 そう言ってツカサがシグを振り返ると、彼は応えるよりも先に、親指でコインを弾いていた。

 そして、右手でキャッチして、左腕へと押し付ける。

「大丈夫だって、俺は運だけはいいんだ。―――きっと表が出るよ」

 そう言って彼が手をどけて見せると、彼の左腕に乗っていたコインは製造年月日の書かれた面をきらりと見せていた。


 帝国軍中戦車T‐16。

 対歩兵用の75ミリの強力な榴弾砲を中央の大きな砲塔に持ち、37ミリの対戦車砲を前方の左側の予備砲塔に持つ帝国軍の一般的な多砲塔戦車だ。帝国軍の誇る強力なエンジンを搭載しているため、重武装だと言うのに機動力まであるという、貧弱な武装の皇国軍からすれば悪夢の様な戦車だった。

「この様子だと、公国軍は追ってきてないようだな」

 森の中を進む三台のうち、ふと、最後尾を進むT‐16のハッチから上半身を出していた車長が、背後を双眼鏡で覗きながらそう呟いていた。

「このままであれば、なんとか帰れそうですね」

 中から装填手がそう応じるので、車長も砲塔に戻って思わずため息を漏らしていた。

「そうだな。情報はすでに司令部に伝えてあるとはいえ、無事に戻れることにこしたことはない」

 しかし次の瞬間、森の中に爆発音が響き渡る。

「なんだっ?」

 車長が慌ててハッチから身を乗り出して辺りを見回すと、はるか後方で派手に煙が上がっていた。

そして、その煙を乗り越える様にして姿を現したのは、公国軍の中戦車ヴォルフであった。

「高速なヴォルフにしては、ずいぶんと遅い追撃だが、やはり追って来ていたようだな」

 しかし、車長が再び双眼鏡で後方を確認して見ると、追ってくる車両はそのヴォルフ一両のみの様だった。

「まさか一台か? ずいぶんと舐められたものだ」

 車長は一度砲塔へ戻って、通信士へと命じる。

「敵の車両は見える範囲で一両だ。ここで迎え撃って撃破しておいた方が良い、と隊長に伝えてくれ」

「了解」

 しばらくして応答が来たのか、通信士が再び口を開く。

「ここで迎え撃つそうです。反転して応戦しろと」

「了解。―――反転しろ!」

 車長がそう命じると、操縦手がブレーキを踏みこみ、T‐16はスピードを落とす。

 そして、すぐさま片履帯だけがストップすると、T‐16は動いている片履帯で180度方向転換を行っていた。

「75ミリで足を止めて、37ミリでとどめを刺す。―――75ミリは榴弾、37ミリは徹甲弾装填!」

 彼が命じると、隣の装填手が大きな砲弾を砲尾へと押し込む。尾栓が自動で閉じられた事を確認すると、装填手は声を張り上げていた。

「装填完了!」

「よし、75ミリの目標は向かってくるヴォルフだ。足元を狙え!」

 彼が命じると、75ミリ砲塔が真っ直ぐこちらへ向かってくるヴォルフへと、ゆっくり回頭する。

「よーく引きつけろ!」

 彼も双眼鏡で、真っ直ぐ向かってくるヴォルフを確認した。

 そして―――。

 彼が号令を賭けようとしたその瞬間、双眼鏡で覗くヴォルフの手前へと、先に派手な砂埃が上がっていた。

車長が驚いて自らのT‐16の横を見ると、少し離れた所にいる僚車のT‐16の砲身から、煙が上がっている。

「馬鹿! 早いぞ四号車!」

 彼が再び双眼鏡で確認すると、すでにヴォルフはこちらの攻撃に警戒したのか、側面を向けて回避行動に入っていた。

「撃てッ!」

 彼がすぐさま命じるも、75ミリ砲より放たれた砲弾は、右から左へと駆け抜けるヴォルフの後方へ逸れ、砂埃を舞いあげただけだった。

「ちっ、あとで四号車の奴には説教をくれてやらんとな。後退する!」

 そう忌々し気に言いながら、車長はヴォルフが発砲する前に陣地転換を指示する。

 しかし、彼が再び双眼鏡を覗いてみると、攻撃をしてくると思っていた敵のヴォルフは、停止することなく、こちらに正面を向けたままゆっくり後退をしはじめていた。しかも、助けを求めるかの如く、信号弾を打ち上げる。

「・・・・・・どう言う事だ?」

 もしや、敵はこちらの数の多さに慌てて逃げ出したのだろうか。しかし、だとしたら、こちらに背中を見せて逃げ出した方が速いだろうに。

 車長は眉をひそめたが、すぐに通信士へと声をかける。

「敵が逃げ出した。しかし、簡単に追いつけそうだ。追撃すると隊長には伝えてくれ。アホな四号車と三号車にはついて来るように言っておけ。―――前進しろ!」

 車長が命じると、すぐにT‐16は前進を開始した。

 目の前では、ヴォルフがこちらに牽制程度の砲撃をしながらノロノロと後退をしている。

 三台のT‐16は一台が正面、後の二台が両側から挟みこむように展開していった。

 そして、双眼鏡を使わずとも、充分にヴォルフが見えるようになり、車長は声をかけていた。

「停止しろ!」

 履帯を軋ませT‐16は停止する。

「75ミリ、榴弾装填!」

「・・・・・・装填完了!」

「目標、目の前のヴォルフ!」

「照準―――よし!」

 そして―――。

 車長が怒鳴ろうとしたその瞬間、ガキンッと言う衝撃が車体に走る。

「な、何があったッ?」

 彼が慌てて衝撃の走った車体後方を振り返ると、森の木々の奥から見た事もない小さな戦車がこちらへと向かって来ていた。

「なんだ? あのおもちゃの様な戦車は・・・・・・?」


「あ、弾かれたっ!」

 砲塔内で大きな声を上げるツカサに、操縦席のアオイは慌てた。

「な、何やってるんですか! 停止してからじゃないと、戦車ってまともに狙えないんですよ!」

「そうなのか? 映画では走って撃ってるイメージがあったのだがな」

 次弾装填しながら、ツカサが首をかしげる。

「あんなの見栄えが良いからそうやってるだけですよ! 停止しないと普通は当てるのすら難しいんですから!」

「では、当てただけマシということか」

「弾かれてちゃ意味ないでしょう!」

 そうこうしているうちに、ツカサが再び照準を覗きこんでみると、その向こう側でT‐16は慌ててこちらへ方向転換しようとしていた。

 砲塔などは、すぐにこちらの方へピタリと向いていた。

「あ、こっち見た!」

「て、停止しますッ!」

 アオイの判断で、ロ号は急停止。

 すると、次の瞬間、砂埃が目の前に上がり、ロ号は砂埃をもろにかぶっていた。

「う、うむ。い、良い判断だぞアオイ・・・・・・」

 ハッチから噴きこんだ砂にまみれながら、ツカサがぎこちなく言った。

「ははっ、ちょっとチビりそうだった・・・・・・」

「もう、車長なんですからビビってないで次はちゃんと当ててくださいよぉ!」

「わ、わかってる。次は任せておけ!」

 ツカサはそう言って、即座に照準を砂埃へと合わせる。

 そして、砂埃が消えた次の瞬間、そこに現れたT‐16へと肩当て式の砲塔を素早く向けた。

「てぇッ!」

 彼女の号令と共に引かれた引き金により、撃発が点火。

 ロ号の砲身より放たれた砲弾は真っ直ぐ飛翔し、見事にT‐16の砲塔を射抜いていた。

 しかし、次に車体の37ミリ砲がこちらを向いていた。

「また来る!」

「前進します!」

 言うが早いか、アオイは素早くアクセルを踏み込んでいた。

 即座にロ号は前進し、37ミリ砲の砲弾はその後ろを掠めていた。

「上手いじゃないかアオイ!」

「僕は卑怯な戦いは嫌いなんです! 直接対決でもあの程度の戦車なら勝つ自信がありますから」

「ほう、言うじゃないか。―――なら、このままあいつの横に回り込むように駆け抜けろ」

 そう言いながら次弾を装填するツカサに、アオイは思わず振り返って首をかしげていた。

「けど、撃ちながらは―――」

「―――出来るのだ。さっきは失敗したがこの戦車ならば」

 そう言って、ツカサは再び体ごと素早く砲塔を旋回させる。

 そして、まっすぐT‐16を照準の真ん中に収めていた。

 そこで、アオイは車内に置かれた特注の台の上に立つ小さな彼女の体が、車体の揺れに合わせて動いているのに気がついた。

「もしかして、車体の揺れを体で吸収しているのか?」

 皇国の戦車は、輸送を第一に考えられているため、他国に比べて装甲が薄く、小さい。

 それ故に軽量で、砲塔なども機械で動かす必要がない。そのため、砲塔の旋回も肩当て式と言う小銃の様に肩を当てて動かすタイプの手動であり、素早く砲手の意のままに動かす事が出来る。

 そして、走りながら発砲するのに、もっとも厄介なのは地面の起伏で生じる上下への揺れだろう。

 もし、この揺れを体の関節を利用して上手く相殺できれば、肩当て式の戦車ならば確かに走りながらの発砲も無理ではない。

 しかし、それにはそれなりの技術を要するはずだ。

「よし」

 だが、アオイの目の前にいる少女は、いとも簡単に揺動を体で吸収し、砲身をピタリと止めていた。

 そして、次の瞬間、砲声と共に放たれた砲弾は、真っ直ぐにT‐16のエンジンを射抜く。

 燃料にでも引火したのか、T‐16は派手に火災を起こしていた。

「見たか? 今度は上手くいったぞ!」

 そう言って背後の砲塔で喜ぶ様子は確かに見た目相応の少女の様だった。しかし、アオイにはそんな彼女は、なにか別の生き物の様にも見えた。


「ショウジロウ! こっちに気づかれないうちに一気に間合いを詰めろ!」

「へい旦那!」

 サカキの乗るロ号軽戦車は一気に加速すると、背中を見せてヴォルフ一直線に向かうT‐16へと一気に突っ込んでいく。

「初弾装填!」

 サカキはそう言いながら、47ミリ砲弾を砲尾へと押し込む。

 そして、閉鎖器がしまった事を確認すると、即座に照準を覗きこんでいた。

 T‐16はすでに目と鼻の先だ。

「よし、停止! 上がってこいショウジロウ!」

「へい」

 勢い良くロ号が停車すると、即座にサカキは引き金を引く。

 砲声と共に放たれた砲弾は、即座にT‐16の砲塔に後ろから突き刺さったが、砲弾が小さいためか、大して大きな損害にはなっていないようだった。

 T‐16はすぐに砲塔を後ろに旋回させようとしていた。

「だったら、黙らせてやるよ! ―――装填!」

 すると、身軽に砲塔に上って来たショウジロウが、即座に砲弾を砲尾へ押し込む。それに間髪いれずにサカキが引き金を引いていた。

 そして、その砲弾が排莢されると同時に、再びサカキが叫ぶ。

「―――装填!」

 と、同時にショウジロウが装填し、サカキが引き金を引く。二人はそれを、恐ろしい程のスピードで繰り返した。

「―――装填! ―――装填! ―――装填! ―――装填! ―――装填! ―――装填!」

 連続で速射砲の如くロ号より放たれた砲弾は、あっという間にT‐16を穴だらけにしていた。彼らは宣言通り、完全に砲塔が完全にこちらに向く前に、敵戦車を弾丸の雨で黙らせていた。

「いやー、相変わらず良い腕ですなぁ」

「ヨイショはいい。お前も良くそれだけ砲弾を軽々扱えるもんだ」

「まあ、47ミリは砲弾が軽いですから。建材に比べたらこんなもんはまだまだですぜ」

 そう言いつつ、ショウジロウは操縦席へと戻って行った。

 すると、遠くで砲声が轟く。

 サカキがハッチより上半身を乗り出して辺りを確認して見ると、少し離れた所に撃破されたT‐16と無傷のロ号軽戦車の姿があった。砲塔の上には、『集合』を示す旗が上がっている。

「あれは小娘のか。じゃあ、まだ戦ってんのはあの女か?」

 サカキはとりあえずロ号を、ツカサのロ号の隣で止めていた。

「そっちは終わったか?」

「ああ、完璧だ」

 ツカサはそう言うが、操縦席ではアオイが唇を尖らせていた。

「初弾を外した時は死ぬかと思いましたけどね・・・・・・」

「むぅ。そう言うなって。―――それより、サユリの奴はどうした?」

「あの女なら後方に残ってた車両を任せてきたが。まだ砲声がしてるって事は戦ってんだろ?」

「よし、加勢に行こう。―――アオイ、北へ向けて方向変換!」

 二台のロ号軽戦車が北へ向けて旋回すると、即座にツカサの目の前から迫る戦車の姿があった。

「あ、戻ってきたじゃないか。おーい!」

「待て! 様子が変だッ!」

 その瞬間、目の前から走ってきたロ号軽戦車の後方へ、派手に榴弾が炸裂。

 そのロ号軽戦車は爆風の勢いで横転すると、外れた履帯をまき散らしながら、転がる様にして停止していた。

「なっ!」

 そして、その後方からやってきたのは、見た事のない傾斜した装甲をもつ戦車だった。


「撃てッ!」

 シグが声を張り上げると、主砲から放たれた砲弾が、目の前のT‐16を貫いた。

 それは弾薬庫に命中したのか、爆発したT‐16の砲塔が勢い良く空に舞っていた。

「さすがだな。フィリップ軍曹」

「まあな。ざっとこんなもんだぜ」

 そう言って、フィリップは砲を挟んで反対側のバルトとハイタッチしていた。

「さーて、そろそろ皇国軍の奴らも他の車両を仕留めたかな?」

 しかし、彼がそう言うと、突如として爆音が聞こえてきた。

「おいおい、まだ手こずってんのかよ」

 そう言って、フィリップは砲塔側面のハッチを開けて外を見渡していた。

 しかし、続けて二発の砲声と共に聞こえてきたのは、二回鉄をハンマーで叩いたかのような鈍い音だった。

「こいつは・・・・・・、弾かれた時の音だ」

 砲手であるフィリップが即座に聞き分けると、すぐに砲塔内に戻る。

「様子がおかしいぜ? 皇国の奴らは対戦車用の47ミリ砲を搭載してんだろう? 装甲が30ミリ程度のT‐16が連続して弾くなんてあり得ねえ」

「どう言う事だ?」

 シグが首をかしげていると、装填手席でバルトが考え込む。

「そう言えば、歩哨から上がっていた報告は中戦車が四台でしたね」

「ああ。俺もそう聞いたけど」

「・・・・・・歩哨は、なぜT‐16が四台とは報告してないのでしょうか。それは、全ては中戦車だったけれど、その全てはT‐16ではなかったという事では?」

 その言葉に、シグは言葉を失った。

「まさかT‐20がいたって事か・・・・・・?」

「ええ。そのまさかではないかと」

 その言葉に、シグは言葉を失った。

 T‐20は帝国軍の最新鋭戦車だ。

公国軍のヴォルフでさえブリキ缶の様に蹂躙されるほどの戦車である。旧式の皇国軍戦車が相手に出来る様な戦車ではない。

「バルト曹長。硬芯徹甲弾装填!」

 シグは迷わず重装甲な戦車に対応する為に搭載してある特殊な弾頭の装填を指示していた。


「てぇッ!」

 号令と共にツカサが引き金を引く。

 放たれた砲弾は真っ直ぐ敵の戦車のど真ん中へと吸い込まれていった。

 しかし、カキンッという音と共に、その砲弾はその装甲へと受け止められていた。

「ちっ! これだけ撃ちこんでも貫通なしかッ!」

「移動します!」

 即座にアオイがアクセルを踏み込む。

 ロ号が走りだすと、即座にその後方へと砂埃が上がっていた。

「ふむ。相手の砲手はそこまで上手くないらしいな・・・・・・」

「しかし、こっちが貫通出来ないんじゃ埒が明きませんよ!」

「大丈夫だ。後ろ側にはサカキが回りこんでる」

 ツカサがハッチから頭を出すと、丁度、敵の戦車の後方へサカキのロ号が回り込んでいた。

 そして、次の瞬間、その後ろへと砲弾を叩き込む。

 しかし、再びハンマーで叩く様な音が響いていた。

「ちっ、後ろからでもダメなのかッ?」

「もう抜ける所がありませんよ!」

 ツカサが無言で睨むその戦車は、まるでピラミッドの様な形状の戦車だった。

 どの方向の装甲も全て傾斜しており、その装甲全ての砲弾を滑らせ、または受け止めてしまう。

 だというのに、その戦車はT‐16並みの機動力で二台のロ号を追い回していた。

「まるで化け物だ。あんなものが大陸で使用されたら、あっという間に皇国軍は駆逐されるぞ!」

「シグさんを待ちますか?」

「そうするしかないだろうな。それまでは逃げ回る」

 二台のロ号軽戦車は、その敵戦車の周りを周回する。

 その戦車はすぐに目の前をかけるツカサのロ号に照準を合わせて砲声を轟かせるが、砲弾はその背後へと着弾し、派手な爆発を起こしていた。

 ロ号は爆風の勢いで前のめりになるが、なんとか元に戻る。

「ちっ。奴は主砲までも長砲身の癖に75ミリクラスの榴弾が撃てるのか?」

「火力、防御力、機動力があり得ないレベルでまとまってますね・・・・・・」

「欧州じゃあんな奴を相手にせねばならんのか!」

 ハッチから上半身を乗り出したツカサが苦虫を噛みしめるかの如く敵戦車を睨むと、そこへ救世主の如くヴォルフが森を駆け抜けてきた。

「遅いぞシグ!」

「待たせたな!」

 そして、すぐさまヴォルフは停止すると、その主砲をピタリとロ号を追う事に夢中になっている敵戦車の砲塔側面へと向けていた。

「撃てッ!」

 シグの号令と共に、ヴォルフの5センチ砲は硬質のタングステンが入った特殊砲弾を撃ち出す。それは着弾と同時に、見事に敵戦車の砲塔に大きな穴を開けていた。

「よし! T‐20を仕留めた!」

 ハッチから身を乗り出したシグはガッツポーズを決めるが、すぐさまその敵戦車―――T‐20は砲塔をヴォルフへと向けて来ていた。

「なっ! まだ生きてるのか!」

「回避運動を!」

 バルトが慌てて叫ぶも、もう遅い。

 T‐20が火を噴くと、その砲弾は見事に停止していたヴォルフの砲塔へと着弾していた。刹那、派手な爆発がヴォルフを襲う。

「―――車長ッ!」

 バルトが慌ててハッチを振り返る。

しかし、そこにはなんとか五体満足のシグの姿があった。

「・・・・・・無事だったんですか?」

「それはこっちのセリフだよバルト曹長。被害状況は?」

「特にねえみたいだぜ」

 そう報告したのは、砲手席のフィリップだった。

「今の爆発だと、たぶん敵が使ってたのは榴弾だな。貫通しなかったんで衝撃だけで済んだんだ」

恐らく豆タンクにしか見えないロ号だったので、榴弾で充分だと思っていたのだろう。それを思わず現れた装甲の厚いヴォルフに発砲したため、ヴォルフほとんど無傷で済んだのだ。

「ま、まさに幸運だな」

 そう言ってシグはおどけて見せるが、バルトはやれやれと言ってみせる。

「咄嗟に頭を下げたおかげで、爆風に頭を持ってかれなかった自分の反射神経に感謝して下さい」

「は、はい・・・・・・。それより、次弾が来る前に回避運動を! ブラウナーっ!」

「はいはい。分かってますよ!」

 すぐさまヴォルフはエンジンを唸らせると、T‐20に側面を向ける様にして駆け抜け出していた。

「硬芯徹甲弾は?」

「あと二発です」

「まずいな・・・・・・」

 すると、そんな間にもT‐20は最初に転倒したロ号に気が付いていた。

 そこには、這い出して来ていた二人の女性の姿がある。

 T‐20は狙いを定める様に、ゆっくりと砲塔をそちらへと向けていた。


 なんとか車体から這い出した操縦手のカナコは、突如、痛みが走った膝を押さえる。

 どうやら車体が転倒した時にぶつけたらしい。

 しかし、早く逃げなければと、顔を上げた瞬間だった。

 ピタリと向けられたT‐20の砲口に、カナコは真っ直ぐに目があう。

「あ・・・・・・」

 その瞬間、恐怖で体がすくんで動けなくなった。

 そして、全身に一瞬でびっしょりと汗が噴き出るのを感じる。

「カナコ逃げなさいッ!」

 すると、そこへ立ちはだかる様にサユリがカナコを庇っていた。

 戦車砲に対して、人の壁など意味のないことなど分かっている。

 しかし、サユリはそんなことに頭が回らないほど必死だった。

 そして、次の瞬間、T‐20は主砲ではなく、対人用なら充分だと思ったのか、同軸機銃を放つ。

 咄嗟にサユリがカナコを庇う様に抱きしめていたが、その銃弾は飛んでくる事はなかった。

 二人が振り返ってみれば、そんな二人の前に立ちはだかっていたのは、ロ号軽戦車だった。

「てぇッ!」

 銃弾を受け止めたロ号軽戦車は、すぐさま主砲を発砲する。T‐20はいとも簡単に弾いていたが、気を引きつけるには充分だった。

 T‐20は逃げ出すロ号へと即座に砲塔を旋回させると、すぐさま砲弾を撃ち込む。しかし、ロ号は爆風の衝撃でふらつきながらも、なんとか回避していた。

「助けられたわね・・・・・・」

 やれやれと言った具合で、サユリはその場にへたり込んでいた。


「良い判断だアオイ!」

 ツカサは照準から目を離して操縦席を覗きこんでいた。

 しかし、二本のレバーを握るアオイは前かがみで呻いていた。

「うぅ・・・・・・」

「どうした?」

「さっきの銃弾が装甲を貫通したみたいで・・・・・・。肩をやられました」

「だ、大丈夫か!」

 慌てて、ツカサはアオイの操縦席へと降りてくる。

 そして、穴のあいた服の下から真っ赤に染まっていく肩を見て、彼女は戦慄していた。

「し、止血っ! 止血しなきゃ!」

「だ、大丈夫です! 今は敵を止めないと・・・・・・」

「し、しかしこのままじゃ―――」

「僕が操縦を離れて止血してたらロ号は的です! 治療はいつでも出来ますから。今は敵戦車を仕留めるのが先です・・・・・・」

「・・・・・・そ、そうか」

 そう言って、ツカサは再びハッチから頭を出していた。

「くっ、このままではアオイが死んでしまう・・・・・・。もう、構っている場合じゃないな!」

 すると、ツカサはキッとT‐20を睨んでいた。


「撃てッ!」

 シグの号令と共に放たれた二発目の硬芯徹甲弾は、下に逸れてT‐20の転輪を砕いただけだった。履帯を外して行動不能にしたものの、まだ砲塔は生きている。

「あと一発か・・・・・・」

 言っている間にも、T‐20の砲塔はヴォルフへと向けられる。

「前進!」

 シグはすぐさまヴォルフを走らせる。

しかし、その間にも、停止したT‐20の後ろから勢いよく突っ込むロ号軽戦車の姿があった。

「な、何するつもりだッ?」


「行けぇ!」

 勢い良くT‐20の後ろから突っ込んだツカサのロ号は、そのまま傾斜したT‐20の背面へと駆け上がる。しかし、途中で履帯は装甲で滑り、火花が飛び散るだけで、上まで上る事は出来なかった。

「ちっ。ダメか!」

 ツカサは舌打ちするが、次の瞬間、後ろから衝撃が走る。

 ツカサが振り返ると、彼女のロ号を押す様にサカキのロ号の姿があった。

「行け小娘!」

 すると、ツカサのロ号はサカキの車両に後押しされるように、T‐20の上へと乗り上げていた。

 そして、ロ号はそのままT‐20の砲塔へと密着する。

 しかし、T‐20とて黙っていない。

すぐさま砲塔を旋回させて、ロ号へと向けようとしていた。

だが、それは密着したロ号の車体にぶつかってしまい、途中で停止する。

「よし、これで撃てはしまい!」

 勝ち誇った様に、ツカサはそう宣言した。

 そして、ツカサはそのままロ号の47ミリを密着したT‐20へと向けようとする。

しかし、今度はT‐20の背の低い砲塔を狙うには、小さいとはいえロ号の車高は高すぎた。

幾ら下を向けても、照準器にはT‐20の砲塔は入らなかった。

「・・・・・・こ、こっちも撃てないじゃないか!」

「な、何やってるんです!」

 すると次の瞬間、T‐20がロ号の側面に密着した状態で砲を放っていた。

 ロ号の車体を凄まじいまでの衝撃波が襲う。

「ひゃっ」

 衝撃に驚いて、ツカサはその場にへたり込んでしまった。

「ま、まずい・・・・・・。衝撃で振り落とされる」

 アオイは衝撃でずれたロ号を慌てて履帯を動かしバランスをとる。

 しかし、T‐20の砲塔がぐいぐいと動くと、滑りやすい車体の上であったロ号は少しずつ横へと押し出されていく。このまま次弾を撃たれれば、衝撃で落ちてしまうかもしれない。

「まずい・・・・・・」

 アオイが冷や汗を全身に浮かべた瞬間だった。

 突如、響いた砲声と共に、T‐20の上部ハッチが派手な爆発で吹き飛ぶ。

「なんだ・・・・・・?」

 アオイは驚いて唖然とするが、降ってきたハッチがT‐20の車体に当たって派手な金属音を立てる。T‐20は、それっきり完全に沈黙したようだった。

アオイが呆然としながらも操縦席のハッチを開けて辺りを見回すと、少し離れた所で横転してたロ号の砲身から煙が上がっている。

 その横になったハッチからは、サユリがはい出て来て、アオイに投げキッスをしていた。


 T‐20の上からロ号を降ろすと、アオイはすぐにツカサにより肩に包帯をぐるぐると巻かれていた。

「うーむ。これで大丈夫か?」

「弾は抜けてるみたいですし、大丈夫ですよ」

すると、アオイはハッチよりはい出て、すぐに倒れたロ号の元へと駆け寄っていた。

 その隣にはサユリがいて、アオイに気が付いてやれやれと肩をすくめる。

「借りは返したわよ隊長補佐」

「はい。ありがとうございました」

 礼を言いながら、アオイは同時に問いかける。

「けど、どうやってあの戦車にとどめを刺したんですか? ロ号には貫通は出来ないんじゃ」

「あれよ、あれ」

 そう言ってサユリが指差したのは、T‐20の砲塔横に空いた穴だった。

「あれって、シグさんが開けた穴?」

「そうよ。丁度、倒れたロ号でもあれが狙えたから、一か八か榴弾を撃ち込んでやったの」

「なるほど。それで内側から砲塔が吹き飛んだんですか・・・・・・」

 アオイが感心していると、その間にも横転したロ号はサカキのロ号と繋げられたロープにより牽引され、起こされていた。

 破壊された履帯を、後から合流したカツヤとカナコが眺めていた。

「履帯は無事そうだが、後輪の軸が曲がってんなこりゃ」

「ん・・・・・・」

「修理は時間かかりそうなのか?」

 そんな二人にアオイが声をかけると、カツヤは頭を掻いていた。

「こりゃ修理不可能だ」

「ええっ?」

「ああ、ここではって意味だけどな。こいつのパーツを船から運んでもらった野営地に戻れば直せる」

「野営地って・・・・・・、それまではどうやって運ぶんだよ!」

「それなら俺様のトラックがあるだろ」

「トラックって・・・・・・、どうやって載せるんだよクレーンもないのに」

「それなら大丈夫だ」

 そう言うと、カツヤは近くにとまっていた自らのトラックへと向かう。

 そして、車内へと入って何やら操作すると、トラックの前方の油圧ジャッキが稼働する。それはトラックの前方を持ち上げると、荷台の後ろを地面へと付けていた。

確かにこれなら、荷台自体がスロープの様になっていて、ロ号をクレーンなしでも乗せる事が出来そうだった。

「なんだ、これ・・・・・・?」

 アオイが呆然としていると、トラックのドアを開けて、カツヤが自慢げに言う。

「こいつはただのトラックじゃないんだよ。本当はロリ専用の運搬車なんだ」

「運搬車? って、トランスポーターのことか?」

「そうだ。こいつは公国とかで利用されてるトランスポーターを参考に作られた、ロリを遠距離に負担をかけずに運搬する為に作られた専用の運搬車両なんだよ」

「何でそんな便利なものがこんな部隊に?」

「ははっ、凄くなんてないんだなそれが。こいつはロリが主力だと考えられていた一昔前に計画された車両なんだよ。けど、ロリってのは力不足が露呈して、もう一線を退いてるだろ? こいつはロリの大きさに作られてるから、新型のニ号中戦車は乗せられない。それで、一両作ってみたはいいが大陸では無用の長物になったんで、こっちに回されたのさ」

「なんだ。結局は旧式ってことか・・・・・・」

「まあ、設計が古いだけで新車だけどな。けど、役には立っただろ? ―――そんじゃ、荷物を他の戦車に括りつけて、その故障したロ号を乗せようぜ」

 カツヤがそう声をかけると、カナコやサユリ、サカキなどが、トラックからロ号の予備パーツや食料、燃料を入れたドラム缶などを下ろし始めていた。

 その間にも、アオイは撃破したT‐20を調べていたシグたちを見つける。

「何か見つけましたシグさん?」

 すると、そんな声に気がついたシグが、振り返っていた。

「ああ。榴弾が炸裂したT‐20の砲塔内は酷い事になってたけど、車体にいた操縦手は無事だったらしくてさ。捕虜に出来たよ」

 そう言ってシグが指差した方向を見ると、そこには砲手のフィリップに短機関銃を突きつけられ、ロープで縛られた帝国兵の姿があった。

「何か情報を知ってるかもしれないからってバルト曹長が色々問い詰めたんだが」

「何か得られたんですか?」

「いや、本人はなにも知らないの一点張りさ。まあ、操縦手じゃただの兵士だろうしな。何も知らなくて当然なんだけど」

「じゃあ、このまま引き渡しですか?」

「そうだな。一度、大隊の野営地に戻って、そのまま引き渡しって感じになるだろうな」

 そうこうしている間に、ガリガリガリと鉄を鉄でひっかく様な音が響き渡る。

 アオイが振り返ると、履帯の壊れたロ号がショウジロウの操るロ号に押されて、無理やりトラックに乗りあげられている所だった。

 サユリのロ号を乗せたトラックは油圧を抜いて車体を水平に戻すと、見事にロ号はトラックに乗っていた。

「けど、あの隊長さんの言う通りになったな」

「え?」

 唐突に口を開いたシグの言葉に、アオイは思わず訊き返す。

「ほら、誰も死なないって言ってただろ? 車両は損傷したし、アオイも怪我はしたが、それはT‐20っていう不確定だった要素が絡んできたからだ。もしそれがなかったら、あの隊長さんの言う通り、俺達はこんなに苦労せずに敵部隊を叩けてたんだ」

「けど、・・・・・・それってシグさんの卑怯な作戦が成功したからですよね」

 ちょっと不満そうなアオイのもの言いに、さすがのシグも苦笑した。

「まだこだわってるのかよ・・・・・・。けどさ、確かに陽動作戦を提案したのは俺だが、あんたらに全く被害がないとは思わなかっただろ。あの隊長さんは、何だかんだで見る目があるんじゃないか?」

「・・・・・・見る目、ですか? 経験不足の当てずっぽうが当たっただけの様な気がしますけど」

「そうでもないよ。幾ら立てた作戦が優秀なものだったとしても、それに参加するのが寄せ集めの兵隊と敵に劣る旧式の豆タンクだけだと言われたら、普通経験のない奴は少なからず被害が出るだろうと答えるよ。むしろ、あの隊長さんは兵隊の実力と豆タンクの力量を見極めてたんじゃないかな」

 言われてみれば、確かにツカサは初めてこの部隊に来た時に、『個人の技量を見極める事で部隊としてやれる事とやれない事がはっきりしてくる』と言って兵達に挨拶をして回っていたが、まさか本当にあれで全員の力量を見極めたとでも言うのか。

「あんな小さな女の子がですか? そんな馬鹿な・・・・・・」

「いやいや。結構、人には特別な力ってものが備わってるものなんだよ」

 そう言って、シグは持っていたコイン親指で弾いて宙に放っていた。

 そして、キャッチして覗きこむと、本人は肩をすくめる。

「俺で言うと、必ずコインの裏表を当てられたりとか、さ」

「それはそれで凄いですけど。・・・・・・何の役に立つんですか?」

「いや、俺って生まれつき強運体質だから。何かあってもギリギリで助かるとか良くあるんだ」

「それって、むしろ不運なんじゃないですか? 本当に幸運ならギリギリにならないのでは?」

「そ、そんなことないだろ。アオイはひねくれてるな!」

「ひ、ひねくれてませんよ。僕は真っ直ぐです。疑問も真っ直ぐです」

「そうかぁ?」

 頑ななアオイの様子に、シグはやれやれといった具合で苦笑していた。

 しかし、シグはふと気がつく。

「そう言えば、その隊長さんは?」

「あれ? てっきり僕と一緒に降りてきたと思ってたんですけど・・・・・・」

 アオイはT‐20から降りて止まっていたロ号へと声をかける。

「隊長? まだ乗ってらっしゃるんですか?」

「うむ」

 すると、案の定、鉄の装甲の中から、隊長であるツカサの返事が聞こえてきた。

「・・・・・・なんで、乗ったままなんです?」

「別に良いだろう」

 どこかそっけないツカサの様子に、アオイはシグと顔を見合わせた。

「どうしたんですかね?」

「さあ? 何か出られない理由があるとか?」

「出られない理由?」

 そこで、アオイはふと頭を巡らせる。

 そして、戦闘中にツカサが言っていた事を思い出して、もしやと問う。

「まさか、チビったんですか・・・・・・?」

 その言葉に、ツカサは無言だった。

 その様子に、アオイは驚愕する。

「ほ、本当にチビったんですか! そう言えば、砲身を密着されて撃たれた時に腰を抜かしてましたけど! まさかあの時に!」

「ち、違う! ち、チビってなんかないッ!」

「じゃあなんで出てこないんですかっ!」

「そ、それには・・・・・・、いろいろと事情があってだな・・・・・・」

「やっぱチビったんじゃないですか!」

「違う! 本当に違う!」

 結局、そう言うツカサが出てきたのは、だいぶ経ってからだった。

なお、私の妄想だけで書いております。そのため、内容には多くの嘘が含まれているので鵜呑みにはしないでください。実際の戦車戦とも大きく異なります。決して真似しないでください。


ついでに、T-16のモデルはT-28です。と言ってもT-28は副砲塔が二門で、搭載してるのは機銃なので対戦車砲を搭載してるT-16とはだいぶ違うかもしれません。

T-20のモデルはT-34です。

上手く文章で表現出来てるか心配です・・・。

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