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前編

 私立彩星学園。

 第2学年の始業式に合わせ、私―――央川櫻は、その学園に編入する事になった。

 

 何故入学ではなく編入学かといえば、元々それなりの規模でしかなかった我が家の家業がここ数年で急成長し、海外に本格的な拠点を作る事になった為、中学3年という非常に微妙な時期に私が、というか家族全員で、日本を離れ(だっしゅつせ)ざるを得なくなってしまっていたからだ。

 他所だと、祖父である現会長が「後よろしく★」とばかりに、ほとんど引退に近い状況に追い込まれた『形』で山梨の奥に引っ込んだり(絶対面倒だから逃げたんだと思う)後継者レース何それ美味しいの?状態だった叔父が、副社長に急きょ抜擢されたり(日本を離れる父のあからさまな代理要員であり、実質社長業務兼任だった。ついでに胃痛も感染(うつ)った)と――――――その年の人事は、今でも可哀そうになる位かなり混乱(こんとんと)していた様だった。

 『央川商事』の元専務で現中略社長の我が父も、ご多分に漏れず海外に飛ばされ……いや立ち上げの現場だから決してそんな悪い意味じゃ……あれ?


 まあともかく。

 そんな理由で海外に飛び、向こうへ行って2年で重要な案件については目処が付いたので、無事日本に戻って来れた。

 編入先に選んだ彩星学園は、中高一貫教育のエスカレーター制で、特殊クラスこそ無い普通科のみの学園だけれど、その立地と経営者の理念とか方針からセレブの子息が通う学園としても名高い。

 セキュリティもしっかりしているし、卒業後の進学、あるいはその先の就職率も鑑みた結果、親と相談して帰国後の進路をここに決めた。


 だから決して、狙ってやった訳では無いのだ。

 


 編入学初日は4月の始業式。

 早々に自分がオタ趣味だとばらした結果(私の経験上、こういうのは早めにカムアウトしておくに限る)貴腐神含む友人達にも恵まれ、そこそこ安定した楽しい学園生活が始まった。


「ねえねえ、今日どうするー?」

「あ、ごっめーん、あたしパス!……腐腐腐腐腐(フフフフフ)、今日は“兎×虎”の新刊出る日なんですよッッ!!それに“コイはまな板の上で踊る”の奇跡の続編とかねっっ!!もうねっ!!」

「ああー、ハイハイー、新刊なら仕方ないね」(温度差)

「いってらー」

「りっちゃんが帰るなら私も大人しく帰るわ」

「そうなん?じゃあ皆で帰るか」

「あっ、ちょっと待ってー、わたしカバン取って来る!」

「あいよー」


 そんな日常風景の中、ひと際目立つ集団がいた。


「ねえねえちょっとー、まーたやってるよ『あいつら』!」


 一足先に廊下に出てたりっちゃんが、わざわざ教室に引き返して来て手招きする。

「わぁお」

「相変わらずだねえ」

 ひょい、と教室から覗いた視線の先には、眉目秀麗な男子生徒“達”に囲まれた、ふんわりした優しい印象の女の子が1人。


「うわーwww見れば見るほど、ホント、お前らどこの乙女ゲーだよ、って感じ」

「…………」

 友人達には言えない。

 この“世界”が、“私”が“前世”でプレイした経験のある、とある『乙女ゲーム』に酷似した世界だという事は。



 元々私は、幼い頃から『生まれる前に生きていた』記憶を持っていた。

 自社の業績が周囲も驚くほど上がったのだって、私が父に無茶振り……違う、アドバイスしたおかげだと、今なら胸張って言える。

 まだ時期的に名の知れていなかったリンゴと窓に渡りを付けたのだって、私の言があったからこそだ。

 だけど、それを誰か話した事は一度だって無い。さすがに病院送りはご免だし。

 精々成績に悪用……げふん流用……あれ?

 

 ―――とにかく、そうして私はあの日出会った。

 始業式の日、編入生である私をわざわざ見に来た野次馬の中に、驚く様な人物がいたのだ。


 一般的にも、当然私の感覚からしても、カッコイイと太鼓判押せる程の美少年達(先輩方含む)を引き連れた可愛らしい女の子が「わたし、篠原友美!よろしくね!」と挨拶して来て、その時に私は、この世界が『夢恋☆ガーデンティーパーティー』という乙女ゲームの世界だと、唐突に理解した。

 ……電波というでない。

 仕方無いじゃないか。ヒロインの顔も、攻略対象の顔も、2次と3次の違いはあれど、どういう訳か一致しちゃったんだから。


 とかいいつつその直後に、『ゲーム』がエンディングを迎えていた事も知ったんだけど。

 ――――――まさかの(逆)ハーレムエンドという形で。


 まあ、周囲に攻略対象が全員集合してりゃ、ああそうかな、って思うわ。

 「仲よくしてね」と言った割に、彼女とのその後の接触は一切無しで。

 何だろう、ライバルにでもなるとか思われたのかな?むしろ牽制?

 彼女自身の出自は一般家庭で、私は一応社長の娘。

 攻略対象に(主に家柄という意味で)近いのは、どちらかと言えば私の方だから。

 でも、私はもう、今更関わろうとは思わないんだけどな。

 だって手出ししたくても、『ゲーム』も『シナリオ』も全部終わっちゃった後じゃ、手の出しようが無いじゃない?

 だから自分は、彼らが群れできゃっきゃうふふしているのを、友人達と遠目から見てるだけだった。


 今日も今日とて彼らは衆目を集めているが、他人の視線なぞ突き刺さった所でどうという事は無いらしい。

 それもその筈。彼らは常に人目を引いて当たり前、有名所の人間ばかりが揃っていたのだから。


 ……ちなみにメンバーは次の通り。

 日本でも一二を争う資産家の御曹司であり、また現生徒会長の『空条明日葉(くうじょうあすは)』を筆頭に、友人でありお菓子づくりの天才で、将来はパティシエ志望の『観月輝夜(みつきかぐや)』と、空条生徒会長の護衛を務める程の武術の達人『椿三十郎(つばきさんじゅうろう)

 この三人が先輩枠で、ゲームでもメイン所のキャラクター。

 同学年だと、明るく爽やかに見える人気者だがお腹の中は人間不信の塊『白樹去夜(しろききょうや)』に、見た目と言動を武器に人心を上手く利用する天才、甘い物中毒患者の『東雲愉快(しののめゆかい)』と、ヒロインの幼馴染枠で少々オタ趣味、別クラスじゃなかったら多分仲良くなってたであろう、この中では少々気弱な少年『木森浩太(きもりこうた)

 そして性犯罪(セクハラ)……げふん、先生枠からは、イケメン古文教師『大寺林国良(だいじりんくによし)』先生。


 他に『隠し』として『天上岬(てんじょうみさき)』がいるけれど、今回の『コレ』には関係無いので省略。

 ただ、その空いた隠し枠に入り込んだのか、何故か知らない人間―――1年生の『東条貴臣(とうじょうたかおみ)』という人物が時たま混ざる事もあった。

 他の人達とは違って、毎日一緒にいるって訳じゃないみたいだけど『原作には出て来てなかった』から、どんな人物なのかイマイチ掴めないんだよねー。

 どうも様子を見る限りだと、キザっぽい男の子みたいなんだけど。


 取り囲む内の誰かが“彼女”に何事か囁きかけ、そうすると“彼女”がそちらを向いて嬉しそうに微笑みながら何か返す。

 そんな事を何度か繰り返した末に、ようやっと“彼ら”は動き出した。

 ざわめきと共に、見守っていた野次馬や男性陣のファン……それら含め結構な数で構成された外野の人垣が割れる。

「うゎ、私リアルモーセとか初めて見た」

「むしろ何処の大奥だYO!ってカンジ?www」

「はい皆さーん、ここ、“共学(驚愕)”ですよー?驚く所ですよー」


 ただ、―――本当にただ、“彼女(ヒロイン)”が、あの友人達含む周囲の女生徒から、あまり良くは思われていないらしい事が気になった。

 『ゲームの頃』は、そんな感じしなかったのにな。


 ……ゲームと現実は別物だって、ちゃんと分かってる。

 それにきっと、ゲームの中心にいた―――今もそこにいる“彼女(ヒロイン)”と、それを外側から見てる私では、物の見え方もきっと違って当たり前なのだろうとも思う。

 ……だけど……。


 何となく、原因は分かる気がするんだ。

 話を聞けば、見えて来る“攻略対象(かれら)”のイメージ。

 周りを囲む野郎どもが、一にも二にも彼女優先らしい、というのが……。

 今のところ、ちゃんと仕事や勉強はしてるみたいだけど……。

 男女問わず引きつけて一大勢力築いてる“アレ”とか、ちょっくら(・・・・・)カゲキな親衛隊が現在も活発に活動中な“アレ”とか、一癖も二癖もある奴らだからなあ……。何処まで分かっててやってるのか……。


 これから『ゲーム』でいう例会なのだろう彼らが、まるで自分たちは特別な人間なのだと主張するかの様に、華やかな雰囲気を周囲に撒き散らしながら階段を上がって行く様を見ながら、私は、

「……まるで」

 そう、それはまるで、

 浮かれ帽子屋(マッドハッター)と三日月ウサギの狂ったお茶会(ティーパーティ)の様で。



 ―――そんな、ある日の事だった。

「いい加減にしなさいって言ってんのよ!!」

「……その、……ごめんなさい?でも……」

「謝って済むとでも思ってんの!?どうせ心の中では馬鹿にしてるくせに!」

「ちが、……違い、ます、そんなんじゃ」

「ちやほやされてるからって、いい気にならないでよね。どうせ今の内だけよ!」

「……っ」

 彼女(ヒロイン)が、人気の無い特教棟とくべつきょうしつとうの廊下で複数人の女子生徒に囲まれているのを見かけたのは。

『この流れだと“白樹”か“東雲”がらみか』

 原因の攻略対象に心当たりを付けつつ、きょろきょろとあたりを見回してみたけど、どういう訳だか助けが来る気配が無い。まさにひと気(ゼロ)

 ……つーかさ、何やってんだよ攻略対象(ヒーロー)ども!!

 こういう時、普通助けに来るもんなんじゃないの!?それでこそ乙女ゲー攻略対象者だろ!?

 ……それを一人きりにするとか、ああもうバカなの!?本気でバカなの!?


 もう少しだけ信じて待って、でもやっぱり誰も通りすがる気配も無く、いよいよ本気でヤバそうなので、ついに間に入った。……色んな意味で不本意だけど!!

「あの!」

「「っ!?」」

「……その辺に、しておいた方が良いと思いますよ」

「……何よ、急に。あんたには関係ないでしょ、とっととどっか行きなさいよ」

「そうよ!急に出てきて、びっくりするじゃない」

「でも、あまり良い雰囲気には見えなかったので」

「知らないわよそんなの!あんたに関係無いって言ったでしょ!?」

「この子がどんな子か知らない訳じゃないでしょ!?わたしたちは、彼女に立場ってものをちゃんと教えて(・・・)あげてただけなの!だから、変な空気とか無いんだから!」

「いいからとっとと行けば!?」

「そういう訳にも」

「いい加減にしてよ!!」

 正直こっちも先生のお使い帰りで1人なので内心gkblってるけど、そう見えないように必死で制する。


「ウザいわねえ、ホントムカツク」

「こっちはイライラしてんの!見て分かんないの!?」

「っ」

 やば。

 こっちにまで被害が及びそうな雰囲気になったので、ちょっと策を弄する事にした。

 今、自社の絡みで持ち歩いている試作のタッチ型ケイタイをかざし、画面に指を滑らせると、録音された音声が流れ出る。

 先程までのヒロインに対する罵詈雑言が聞こえたと同時に、彼女たちの顔色が真っ青になった。

「……信じらんない。盗聴とかマジキモイ!!」

「その変な機械(レコーダー)、こっち寄こしなさいよ!」

「断わります。一応まだ機密扱いなので。でも良いんですか?皆さん。さっき念の為守衛さん呼んだんですけど、そろそろ来ると思うんですよね」

 その言葉に、青かった顔色がさらに真っ白になった気がした。

「ハァ!?信じらんない!!」

「この程度でフツー守衛呼ぶ!?ありえない!!」

「行こうっ」

「……言って置くけどね、誰かにチクったら許さないわよ!!」


 バタバタと彼女たちが去り、私は改めて“彼女”に視線を向けた。

「あの、……ありがとう」

「……今回はこれで済んだけど、もっと酷い事になってたかもしれないんだから、自覚があるなら誰かと一緒にいるとかした方がいいよ」

「……っ、う、ん」

 おずおずと頷く彼女に、おや、とも思う。

 ……これは、思ったより厚顔な子じゃ無いんじゃないか?

「あの、わたし……っ」

 きっと、誰かに話を聞いて貰いたかったんだろう彼女は、促すまでも無く自ら状況を話し始めた。

 ちょっとだけ、泣きそうな顔して。


 よくよく話を聞くと、この“逆ハーレム”という状況は、彼女にとっても不本意なものらしい。

 皆がすごく優しく良くしてくれて、いつも周囲の何もかもから守ってくれる。

 それ自体は、嬉しいのだと。

 ただ、どうしてそうなったのかは自分でも良く分からないらしい。

 “気付いたら”そうなっていた、と彼女は言った。

 そこまで話を聞いて……うっかり元攻略プレイヤーの血が騒いだのが不味かったのか、気付けば私は微に入り際に入り細かく入念に話を聞き出し、その鍵となる状況の洗い出しをし始めていた……。


 聞き取り調査の結果、どうも彼女は根っからのお人好しで、かつ、修造レベルの熱血精神もお持ちらしく、攻略対象の困った状況を見ては、その都度その全てに必ず助けに入り、真剣に取り組んでいたらしい……というのが分かって頭を抱えたくなった。

 現実でのその行為自体は全然悪い事じゃなくて、むしろ良い事なんだろうけど……ゲームからすれば、そりゃ好感度不足にもなるわ。

 でも逆にいえば、そのおかげで全員満遍なくある程度の好感度までは上がったし(友達として仲良くなりたかったという、彼女の意図した以上に)、それなりにイベントも順調に消化したものの、やはり攻略本無し、かつ不確定要素アリのこの状況で、EDに必須の個人イベント発生はさすがに無理があった様子。

 抜けが多すぎて、文化祭では何一つルート入り決定イベントが発生しなかった、というのが今回の失策まず第1の理由。

 そしてもう1つは……勉強不足。つまりゲームでいうところのパラメ不足だ。

 聞いたところ成績は中の上で、何か突出したものがある訳でもない、ごくごく普通の平均的なもの。

 原因?野郎どもと四六時中どっかほっつき歩いてんなら、当然勉強時間も削られるってもんでしょうよ。

 そしてそこまで状況が分かっているなら、結果行き着くED(こたえ)も自ずと決まって来るってもんです。

 ちなみに救済EDの一つである『モデル採用ED』については、案の定キーキャラに出会えていなかったらしく、こちらもボツ、と。


 ―――嫌な訳ではないのだそうだ。決して。

 だけど、嫌がってる訳じゃなくとも、望んだ立ち位置じゃない。

 ……だから逆ハーレムEDは大団円でもハッピーでもトゥルーでも無く、あくまでノーマルエンド扱いなのか、と、話を聞いていてそう理解し(おもっ)た。


 良い顔してるつもりはなくて、助けになりたいとあれこれ手を出した揚句のハーレム。

 前はちゃんといた筈の友達も、ハーレムEDを迎えてからはいつの間にか離れて行ってしまい、今や彼女の支えは彼らのみ。

 でもその空気は、何処か歪で。

「気持ちはとっても嬉しいの。でもね、自分にばっかり何でもしてくれるんじゃなくて、元の、キラキラと輝いていて、みんな自身や大切な人、大事な物の為に一生懸命頑張っていた、あの頃のみんなに戻って欲しいな、って。欲張りで、我がままだって分かってる。だけど、どうしても変だ、おかしいって思う自分がいて……。どうにかしたくて、でも、それじゃあその為にどうしよう、って考えた時に、どうすれば良いのかが分からなくて……。わたしが自分から離れれば良いのかな、って考えたこともあるんだけど、そのせいで自分の立場や居場所がなくなるかと思うと……怖くて、勇気が出ないんだ。ははっ、わたし、きれいとか、かわいいとか、なぜかみんなにいつもいっぱい言われるんだけど、本当はとっても―――ずるくて卑怯で、とても心がみにくいんだね、きっと」

 ……自責するヒロインとか、正直見たくなかったし、見てらんないし……ッ。


 ああもう、本当に男ども、なにやってんの!!

 攻略対象の男子達の不甲斐なさに、呆れるやら幻滅するやら怒りまで覚えた後、私はおもむろに手を差し伸べた。――――――彼女に向って。

「今独りになるのは、いじめて下さいって言ってるようなものだし、現場が混乱するだけだと思うからお勧めしない。だけど、新規で友達作るのはアリだと思うんだ。だから――――――仕方ないから、私が友達になってあげる」

 

 こうして、私は関わる気の無かった“ゲームのヒロイン、こと、篠原友美”と友達になる事にした。

 私自身の友人(むしろ神!)達とも、きちんと顔合わせの上で事情を説明し、皆で彼女の事を守ると決めたのだ。



 それからまた、しばらくし経って。

「櫻ちゃんっ!一緒にかえろ?」

 わざわざ私の教室まで、一緒に帰ろうと誘いに来たヒロイン―――ことトモ(・・)

 彼女は、初めて会った頃や、あの心が弱りかけてた頃に比べて、とても明るい表情で私を呼んだ。

 それはまさに、私が記憶していたヒロインの表情そのもので。

 逆ハー男子達から少しずつ、すこーーーしずつ距離を置いて来たのが良い方向に作用したみたいだね。よしよし。

「いいよ―――」

「友美ちゃんっ!!」

「篠原っ、どこに行ったかと思った」

 諾の返事をしかけたそこへ、男女問わずぞろぞろと“お仲間”を引き連れた『白樹去夜』と『東雲愉快』が乱入して来た。

「……」

「あのねっ、僕ら、これから一緒に遊びに行こうって話してたんだ!友美ちゃんも一緒に行くでしょ?」

 ……聞いてるフリしてるけど、その実断定してんな、この言い方。

「ここにいる皆でカラオケに行こうぜ、って話になってさ。篠原の歌、俺、また聞きたいな――――――好きだから」

 ぞわ。

 うわ、これ言われてるの自分じゃ無いのに、ぞわって!!ぞわって!!

 声優と同じ声で甘ったるく囁くだけなのに、ここまで威力があるもんなのか……!!

 これに耐えて自分を保ったトモ(あんた)はエライっ!!ほめたげる!!尊敬しちゃう!!

「あっ、君、もしかしてウワサの央川さん?良かったら君も一緒に行くよね?」

 って、だから何で会ってすぐに断定か。

 しかも、私がいるって気付いたの今で、それまでトモの事しか眼中になかっただろ。

 いたからついでに誘ってみた、みたいな空気、読めないとでも思ってんの?

 それと、ウワサって何。オタ趣味の事?

「4月に会ったきりで、ろくに話も“出来なかった”もんな。俺、“キミ”とも是非話がしたしたいなって、ずっと(・・・)思ってたんだ!」

 丁度良いし、一緒に行こう。そう白樹君は言うけれど。

 あー、トモが“変な空気”って言うの、分かった気がする。

 ちなみに“ずっと”“出来なかった”じゃなくて、そっちから来なかったからこっちも放置してたに過ぎないんですけどね?そこら辺どうなの?


 お誘いは―――引っ掛かる部分が多々あるにしても、それ自体は別に良い。内容自体に不自然な点は―――表面的には無いから。

 だが待って欲しい。“お仲間”の大多数を占める女子達の目は厳しいぞ?

 そして、ここで素直に頷けば、恐らくは元の木阿弥(もくあみ)になってしまうだろう。

 すなわち、逆ハーレムの再来だ。

 だが。

「……どうすんの?」

「えっと、櫻ちゃんは、どうする?」

 挙動不審なヒロイン様。

 最近ようやく少し空気を読む術を覚えたのか、この敵意の中に突っ込んで行くのは気が進まない様子。

「私が聞いてるんだけどね?」

「……えっと、出来れば一緒に行きたいかな、と」

 スパルタ教育の一環で少し怖めに問い返せば、消極的なヒロイン(トモ)のお誘いが返って来て、それを私は、

「……むしろ気が進まないなら、行く事無いよ」

 ばっさりと、切り捨てた。












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