時人くんとクラスの林さん
「はぁ…」
大きくため息をついた。
僕にとって修学旅行はただのホームシックを発動させるだけの行事でつまらないの一言だった。
それに、雪ちゃんがいない。
毎日一回雪ちゃんを見なきゃいつか死ぬのでは無いだろうか。
そんなことすら思えてきた。
やっと最終日。
LINEをしまくって雪ちゃんにはキモいと言われる始末だが、それくらい辛い。
雪ちゃんが夜にいたならと考える毎日だ。
…うへへ。
「…何笑ってんの。」
その声に顔が青ざめすぐに起きた。
…誰だ。
いや、林さんだ。
同じ班の林さん。
「林さん、見てたの。」
「見てたもなにも待ち合わせ時間になっても動かずに机に突っ伏してるあなたが悪いわ。」
おや、そんなに時間が経っていたのか。
「えっと待ち合わせ場所は何処だっけ…」
「外よ」
「ちかっ!」
叩き起こさず我慢して自然に起きるのを待ってくれた林さんには感謝をしなくては。
「起こしてくれてありがとう、林さん。」
「いえ、いいの。それより何を考えていたの?」
「待ち合わせは…」
「今は鍵を取りに行き忘れた班リーダーを待ってるの。それじゃなきゃあなたを放置しないわ。」
なるほど。
「で、何考えてたの?彼女の事?」
「か、彼女じゃないれす!」
かみまみた。
まずい、この人は何がなんでも引かないタイプだ。
適当に理由をつけよう。
「美味しそうなご飯を食べる夢を…」
「彼女さんの名前を言ってらしたけど?」
「嘘!?口にでてた!?」
ドキッ、とする。
まさか口にだして!?
「嘘よ。」
「やられたーっ!!!!」
このままじゃ雪ちゃんを食べた夢を見ていたことになる。
…やばい、彼女さんで反応してた。
「彼女じゃない!」
「はいはい。本当に好きなのね。」
「ううっ…」
否定はしたくない。
林さんは見た目によらずグイグイくる人らしい。
林さんが雪ちゃんになってくれたらな…
「顔にでてるわよ。」
「はっ!」
まずい、本当にこの話題から逃れなければ。
「林さんは彼氏とかいないの?」
「いると思うわけ?」
正直に言うといないと思う。
「案外影で付き合ってそう。」
「いないわよ。」
「…でも、好きな人はいるわ。」
おお、まさか林さんの口から恋バナとは。
しかも男に!
「へぇ〜告らないの?」
「好きな人がいるわ。」
林さんは、僕の事が好きなのではないかと思ってる。
だとしたら、はやめに諦めさせたい。
…僕と関わって幸せになる人はあまりいないから。
「他校?」
「いいえ、同じ学年よ。」
「応援してるよ、がんばって。」
「…告白なんてしないわ、迷惑がかかるだけだもん。」
女子の頭の中は複雑だなあ。
勘違いだったら恥ずかしいから聞かないでおこう。
「私、いつかちゃんと好きでいられる人ができるかしら。」
林さんは少し俯きぎみにつぶやいた。
「できるよ、きっと。林さんが告白する勇気を持てば。」
「あなたに言われたくないわ。」
本当にそうだな、と思った。
今日は自主研修で自由行動だった。
帰り際林さんにとめられた。
「何?」
「私、あなたが好きなの。気づいてたでしょう?」
「うん。」
なんだ、そんなことか。
「弄んで楽しかった?」
「別に弄んでるつもりはなかったよ。僕は君のこと友達としか思えないから。」
「友達…」
ショックを受けた表情はなく、林さんは笑顔だった。
「友達って思っててくれたのね、よかった。」
意外だ。
そんなに僕は素っ気なかっただろうか?
「で、告白はしないの?」
「変な人ね、いいわよ。…好きです、付き合ってください。」
「ごめんなさい。」
そりゃ僕だってこれを言うのは辛い。
「いいえ、ありがとう。そんなに彼女の事が好きなのね。」
「…べ、別に。」
めちゃくちゃ好きだ。
雪ちゃんが好きだから断ったなんて言うのは恥ずかしいし、雪ちゃんには内緒にしておこう。
…そう、思った。
こいつは雪ちゃん以外ありえないらしい。




