キャット・ファイト 2
黒い物体から躰ごとロープへと持っていかれたときに、猫又娘の息が詰まる。ロープが限界まで伸びて張り、元に戻って白祢がずり落ちたのちに黒い物体が身を起こしていったそれは、墨江だった。黒衣の長身の女は、小柄な白祢の腹を狙い、全力で肩を当てて貫いたのだ。墨江が、うなだれる浪花の猫又娘を見下げていた。その白祢は、打撃によるショック状態からロープに両腕を掛けた姿でずり落ちており、反応が全く無い。慌てて駆け寄った雉子が、相棒の手にタッチした。
「せっ、選手交代やで」
『は……!―――こ、交代を認めます』
あまりの一瞬に、少女座敷童も驚いていたようだ。白祢をリング外に寝かせて、雉子が入った。
解説席も湧き上がっている。先ずは、脱衣婆ァから。
『夜行さん。今のは、何だったのでしょうか』
単眼一角の格闘家が顎を撫でながら。
『あれは、タックルですな。墨江選手は、尋常でない瞬発力で当て身をしたのです』
『なるほど。で、鬼塚さんは、いかが思われます』
瞬殺劇に圧倒されていた少年は、その振りにそのままで返してしまった。
『いえ……、あの脚は素晴らしいですね』
『やっぱり素脚ですかね』
『―――はっ!? いやそのっ、ばばバネが、瞬発力が、すす素晴らしいなと!』
鬼塚少年よ、フォローは居ない。だが、めげずに頑張る。
『ほらほら、試合再開してますよ!』
リングに戻って。
再び黒衣の女は、背中を丸めて構えていた。対して浪花の猫又女は、腰を落とした猫足。
すると、墨江が唐突に構えを解いたものだから、雉子は驚きを見せるもすぐさまその美貌を渋く変えて吐き捨てた直後、リングを蹴った。
「この阿呆が」
間合いに飛び込んで、鞭のような蹴りを放ったが、そくざに防御された。そして、腕を振り上げていた墨江が踏み込んで、拳槌を叩き降ろす。腕を交差させてガードしたのも虚しく、リング上へと叩き付けられた。息がむせ返る。雉子はメゲる事無く、相手の腕を捕ると、その長い脚で鋏み込んで極めの引きを入れるとしたが、動かせなかった。そうして対戦相手の顔が目に入った時には、躰ごと持ち上げられていたのである。
観客席が視界に入る。
―反則やろ、これ……。――
そう思った刹那に視界が回転して、墨江の肩に担ぎ上げられたお次は、景色が急降下して白いマットが迫ってきた。そして、背中を全面叩きつけられたのだ。