控え室ばい。
八組の代表選手達が、控え室にいた。
墨江と妙子がソファーに腰掛けて、あとの六組が立ったまま各々が歓談で賑わっていた―――な分けがなく。異様な緊張感が室内に張り詰めており、それは凍てつく空気だった。しかしそんな中で、雪奈と氷奈が寄り添いながら墨江のもとへと寄ってくる。
二人は、少し照れくさそうに笑って挨拶をしたのちに、氷奈から口を開いた。
「墨江さん。なして、黒い衣装さ着とるべか?」
「―――え?」
戸惑った。墨江は、己の身なりは特に意識した事は無かったのだ。そう、上は黒いブラウスに黒のベストを羽織り、下は黒いデニムスカート。しかも、丈は膝上十センチ以上といった、太ももが半分ほど露出。極めつけは、素脚。
「こらー、氷奈ちゃん。んただ事聞くでね、失礼だろ」
雪奈が注意した。だが氷奈は、大きな垂れ目を輝かせて興味津々。こそこそ話し開始。
「だって、雪奈ちゃん。都会の人さ、電気街でGOTHのカッコさするて云うでねぇか」
「氷奈ちゃん氷奈ちゃん。都会さ云うても、GOTH決まりはねぇべ。だいいち、墨江さん佐賀の人さ違うでねぇか」
その墨江が、二人に柔らかく訂正。
「誰がGOTHて。ウチは、こん色が好いとうけん着とるだけとよ」
雪の国の二人が、これに照れ笑い。すると突然、誰かが吹き出した。墨江がその方に首を向けると、浪花の猫又こと白祢がロッカーに背を預けていた。空色のカッターシャツに、白いデニムミニスカート型のハーフパンツ。膝までの白いブーツだった。猫又娘は、悪そうにニヤリと歯を見せた。
「エラい別嬪さんかと思ったんやけど、やっぱアンタも田舎モンやなぁ」
「何てか、あ? 道頓堀出身のそいが、どげんしたて」
「何や、佐賀の田舎モンが。あ?」
ここで雉子が相棒の肩をつかんだ。
「白ちゃん。そこらで止めときーや」
突然、ねねこ河童の雫が舌打ちをするなりに、三人を睨み付けて吐き捨てていく。
「にゃあにゃあにゃあ、五月蝿いのお。おどれら」
「お水の売女が、水差すな!」
「なっ、何じゃと!? おどれらこそ鳴く時ゃ、男と布団の中で鳴きゃええんじゃ!!」
怒りに顔を歪ませて、白祢を指差した。まさに一触即発だったそのとき、妙子が拳槌でロッカーを叩きつけて、扉をへこませた。それは瞳孔が小さくなり、怒りを堪えている様子。
すると。
『選手の皆さんの、入場です!』