元気ですか
天狐。
それは気高く強い妖狐一族最強の者であり、最高に紳士な女妖怪だった。眩しいくらい白い体毛に、優しく緑色に輝いている切れ長な瞳。狐一族最高の端正な美貌の持ち主でもある。長身でしなやかな躰に、藤紫色の布を着物の様に身に纏っていた。
少女座敷童が天狐の美しさに頬を赤らめ戸惑いつつも、マイクを手渡す。天狐が柔らかく微笑んで「有難う」の表情を贈ったのちに、その容姿に見合った凛々しい声で語っていった。
『選手の皆さんに観客の皆さん、今大会へお集まり頂き有難うございます。―――大会が開催される度に私を呼んで貰えて、常に感謝しています。私が皆さんに言える事は、唯ひとつ。―――ストロング・イズ・ビューティフル! 強い事は美しい。また、美しさも強さだ。―――以上!!』
同時に、会場全体が歓喜に沸き立つ。そして少女座敷童へとマイクを返そうとしたときに、その少女は天狐へ催促するように腕を何度も差し出して「アレを云え」の合図。途端に天狐が、驚きに頬を赤らめて「本当に云うの」といった表情をつくる。少女座敷童が更に無言の催促。妖狐一族の美女は、照れくさそうに咳をひとつしたのちに意を決した。
『元気ですかーー!!』
声高らかにあげて、品良く恥ずかし気に拳を振り挙げた。すると、これに呼応した会場全体から「元気でーす!!」と。そして、狐耳を畳んだ天狐が、マイクを丁寧に返して、解説席へと腰を下ろす。その席も、個性的な妖怪達だった。
メイン解説者が脱衣婆ァ《だつえばばぁ》。美女の姿にも変身出来るが、今回はしない。刻まれた数々の皺が勇ましく、一癖二癖も有りそうな浅黒い顔。白く年季の入った長い髪の毛に、くすんだ紅葉模様の着物。今日は放つ気迫が一段と違い、「メイン解説は、儂に任せろ!」と顔が語っていた。そして、脱衣婆ァを含めた皆の紹介が始まっていく。
『それでは、解説者の紹介です』
少女座敷童が振る。
『どうも皆さんこんにちは。地獄を代表して、アタシがメイン解説を行います。だつえ婆ぁです!―――先ほど素晴らしいひと言を頂きました、天狐さんです。続いて、格闘技の専門家としても名高い、夜行さん。次に、お待たせしました。妖術の戦いでの実戦経験は数知れず。多戦の持ち主、き』
『鬼塚!―――です』
焦った顔で、とっさに訂正を入れた少年が。
『ひひひ、そうでした。人間名、鬼塚さんです』