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控え室ぞなもし。


 これに堪えられなくなった氷奈が顔中を涙で濡らしたまま、ロープを飛び越えて駆け出して、妙子の躰に全体重を乗せた肩の当て身をして、雪奈から離した。千切られた傷口から、おびただしく青紫の体液が流れ出てゆく。邪魔された口裂け女は、腹を立てながら身を起こしたのちに力強く歩み始めたとき。

「もう、止めてけろ!」

 氷奈は涙を溢れさせた顔のまま一喝した途端、歩みを止めた妙子が少女座敷童を睨みつけた。慌てて駆け寄ってくるなりに、尋ねていく。

「氷奈選手……、試合放棄して良いんですか」

 その答えに、氷奈が妙子を力強く表情と声とを投げつけた。

「あたしたつ、ギブアップさするだ!―――お願いだから、早いとこ担架で運んでくんろ!」

 血を吐き続ける雪奈へと抱きついた。少女座敷童は解説席へと腕を大きく交差させたのちに、急いで担架を呼び出して重傷選手を運ばせた。

 雪奈選手、戦闘不能。

 氷奈選手、試合放棄。

 勝者、中部地方代表・口裂け女の妙子選手。


 解説席では、流石に夜行さんも鬼塚少年も、脱衣婆ァに葬頭河婆ァ。そして、天狐も引いてしまっていた。



 控え室に戻って来た口裂け女へと、白祢が怪訝な顔で訊く。

「おい、妙さん。アンタ何やらかしたンや。氷奈ちゃんエッライ泣いとったで」

 口の周りに付着した青紫の液体に気付いた途端に青ざめて、胸倉を掴み上げてロッカーへと叩きつけた。

「白ちゃん、放しーや! アカン、アカン! こないな所でアカンよ!」

 雉子が腕を間に入れて、妙子から引き剥がしにかかるも、当の白祢は怒りが鶏冠にきており、放す気配すらない。胸倉掴まれても涼しい顔で見ていた妙子は、白祢の肩を捕まえると、再び“あの”口を開きはじめた。白祢と雉子とが揃って目を剥き、捕まれた肩を外そうとしていく。

「うわわっ!? なんやねん、アンタ!―――ススストップや、ストップ!」

「妙子さん、お口閉じてや! 頼むから閉じてや! タンマやで、タンマや!―――白ちゃん、頑張ってや!」

「痛い痛い痛い! 放しぃや! お願いだから放してぇな!―――ええい、放さんかい! ボケ! 阿呆んだら!」

 そのとき、大きな音を立てて扉が閉められたので、口を閉じた妙子は白祢の肩から手を放したのちにその方へと首を回した。するとそこには、黒衣の女、墨江が怒りの形相で立っていたのだ。




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