ワイルド・キャット
少女座敷童が元気に声を張り上げる。
『さあ、お待ちかねの準決勝。第一回戦!―――九州地方代表、化け猫の墨江選手!』
黒衣の怪猫、墨江が黒のヒールを脱いでリングに立つ。今大会で一番の長身の百八〇。
『続きましては、中国地方代表、ねねこ河童の雫選手!』
雫はしっとりと濡れた黒髪で、薄いヨモギ色の肌は透明感がある。再びミニスカート状の腰蓑を着用してリングに立つ。
突然と墨江が腰を突き出したと思ったら、やや色っぽい苦悶の表情をしつつ、太股半分の黒デニムスカートを突き破って尾てい骨から黒く長い二股の尻尾を生やし、さらには、耳は上に移動して角のように突き出すと、頭から黒い猫耳を生やした。全開で行く気満々だ。
これを見た雫が、実に嬉しそうな笑顔を浮かべて口を開く。
「嬉しかのおー、墨江さん。儂も全開で行くけぇの」
それに答えるかのごとく、黒衣の女が笑顔で返したのちに両腕を上げて構えてゆき、「力較べをしろ」と、云わんばかりの挑発的な誘い。これに乗ってやった雫は、水掻きの両腕を上げて、相手の指の先と己のとを合わせた。次に、色白の細い指とヨモギ色の細い指とが、巻き付く様に噛み合った直後に、二人は渾身の力込めて押しやってゆく。暫く続くかと思われた力較べだったが、墨江が雫を下に押しやってきた。雫は歯を剥いて食いしばっているのに対して、墨江に至っては涼し気な顔のまま見下げてくる。脂汗が顔じゅうに噴き出しはじめたときのこと、墨江が見せた微笑みに、雫は一瞬気を取られてしまった。
「え?」
力も表情も抜けたその目には、墨江が頭を振り上がっていた。そして、額と額が激しく打ち合う。墨江の全体重を乗せた頭突きを喰らった雫の頭から水掻きの爪先までに、強大な落雷が貫いていき、視界にプラズマが駆け巡ってゆく。体勢が崩されたところを、腕を掴まれるなりに支えてもらったから、雫は思わず墨江へと礼を云ってしまった。
「お。おお、すまんの」
その墨江が再び笑みを見せたものだから、雫はまた、これに魅せられてしまう。そして、二撃目の頭突きを喰らった。