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パンスト破る


 試合開始、その直後。

 早苗が頭を噴き飛ばして来たものだから、雪奈は間抜けにも頭突きを顔面ド真ん中に受けてしまい、青紫の血を鼻から噴き上げて天を仰いでゆく。早苗の躰のみが、踏み込んで拳を胸元に撃ち込んみ、そして更に踏み込み、着物の襟と袖を捕まえて背負い投げを炸裂させた。脳天から爪先まで稲妻が逆昇ってゆき、眼球が揺れる。リングで跳ね上がり背中を打った。女が見た地獄の赤々した空には、早苗の頭が“黒髪を羽ばたかせて”いたのだ。

 早苗の躰のみが次の攻撃にかかろうとしたところ、動けなかった。空から自身の躰を見下げてみると、両脚が凍り付いていたのである。脳震盪からやっとこさ回復して起き上がった雪奈が、すかさず腕を振り払ったときに、白い空気の波が発生して早苗の頭を狙っていく。危険なモノを感じとって寸前で避けたときに、髪の毛の端が欠けた。更に雪奈が相手の下半身をめがけて、再び白い波を撃ち出し、早苗の両脚を吹雪で襲ったと同時にリングを蹴って、その両足を胸元へと叩き込んだ。早苗の躰がロープまで吹き飛んで、ずり落ちていく。しかし早苗は頭だけになっても諦める事なく、雪奈をめがけて突っ込んで行った。身を屈めて逃れると、氷奈が居るコーナーポストへと駆けて行いく。そうする間にも、羽ばたいてきた早苗が歯を剥いていき、その雪奈は頭を庇いながら、手で追い払いながら、相方を目指した。

 氷奈が手を伸ばして、大事な友達を待っていた。

「雪ちゃん雪ちゃん! 早く早く早く!」

「痛たたたっ! イテテテ! うっとうしい頭だべなー!」

「雪ちゃん、伏せてけろ!」

 その言葉に雪奈が頭を庇ってリングに伏せた直後に、氷奈はロープを掴んで飛び出して、両足から氷柱を発射した。早苗は反射的に避けたものの、黒髪の翼が大きく抉り取られてしまい、そして機動力が劣って情けない飛び方となったその矢先に、リングから跳ね上がった氷奈が視界へと入ってきた。

 早苗が目を剥く。

「ち、ちょっと。待っ――――」

「アターーックだで!」

 氷奈から全力投球で振り下ろされた腕が、早苗の頭を叩きつけた。




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