パンスト派
『雪女の雪奈選手。氷柱女の氷奈選手』
雪奈は正統派美人。目元が優しい黒い瞳。肌は、透明感のある白。艶やかな黒髪は腰よりも下の、七三分け。着物は純白の小袖に襟が濃紺、帯は白銀色。身長は百六五。
氷奈は、大きな垂れ目が印象的で愛らしいほうか。唇は薄い。肌は同じく、透明感のある白。白銀の髪の毛が腰まであり、真ん中分け。前髪で右目を隠している。着物は純白の小袖に襟が銀鼠色、帯は白灰色。身長は百六五。
「雪ちゃん雪ちゃん。勝ち進んだら“見境の無いキス魔”だなんて、オラたち云われなくなるっぺ」
「んだな! 頑張るべか」
「ほどほどにな」
「氷奈ちゃんも、ほどほどにな」
氷奈とそう交わしていきつつ、雪奈が片腕をグルグルと回しながらリング中央に立つ。女の目の前には、早苗が立っていた。雪奈は、早苗のストッキングに目がいってしまったので、ごく自然に尋ねてしまった。
「早苗さん早苗さん。リングにパンストは、滑るでねぇか」
「アタシは構う事ねぇど」
「都会の人さ素脚が流行っとるて、云うとるべ。ひょっとして早苗さん、パンスト派だか」
「ンな事、意識した覚えねぇど」
「またまたぁ〜。ひょっとしてー、早苗さんの彼氏さパンスト派だで、だから履いとると違うでねぇか。パンスト破りナンかしてさ、楽しんでいるでねぇのー。―――ああっ。おれっ、考えただけで恥ずかしくなっちまっただよ〜」
「やっ、止めてくんろ! 恥ずかしいでねぇかっ!」
中央の二人が、かたや勝手に想像されて、かたや勝手に想像して、お互いに恥ずかしがっていった。
『あのぉー、雪奈選手と早苗選手。とっとと、試合始めていただけませんかね……』
少女座敷童が眉間にシワ寄せて、少々イライラして突っ込んだ。観客席が大爆笑を起こして、二人が慌てて構えを取る。
解説席。
脱衣婆ァが細い垂れ目を歪ませて、一つ目の夜行さんに話題を振る。
『うひひ。今大会唯一のパンストですね、夜行さん』
そう問われた一本角は、ひとつ目が血走っていた。
『はい! 是非パンスト破りを拝見致したいですな』
『オヤジですなぁー』
『いやあー。お恥ずかしい』
そう云って白髪頭を掻く夜行さん。