控え室やで。
これに一度は立ち止まった妙子だったが、構う事なく足を己のロッカーまで運んで扉を開けたそばで、先の試合でズタボロにされた愛用のコートを力一杯脱ぎ捨てたほどに、腹立てていた。その行為の後に大きな鞄を引きずり出して、さっきのコートを入れ込んで中をまさぐり、全く同じ形と色の赤茶けたハーフコートを取り出したのである。
すると。
「何だで! そいは!」
ろくろっ首の美香が声荒げて突っ込んだ。早苗も後に続いていく。
「おめえさん、同じの持っとんなら腹立っっ事なかでよ!」
「妙子さん妙子さん。そんなじゃ余りにも、葛さんが可哀想でねぇか」
「やる事にも、限度さもんがあるっぺ? 妙子さん」
雪の妖怪の二人も、寄り添いながら続いた。これは、エラい云われよう。
大ひんしゅくだ。
言葉攻めに曝されていた妙子が、一瞬頬を赤らめたが、すぐさま顔をソッポ向けた。そんな光景の横では、墨江と雫と朋江が押し黙っていながら、いったいあの口裂け女は、同じハーフコートを後何着ほど用意しているのだろうか?―――と、三人ともに同じ疑問を抱いていた。その一方、当の妙子はマスクも予備があったらしく、顔に掛けたのちに、先ほどのコートを黒のトレーナーに羽織って襟を正して準備完了。
それから、リングでは。
気を取り直した少女座敷童が、マイクを握って元気溌剌と声を発してゆく。
『さあ、お待ちかね! 第四回戦!―――まずは東北地方代表ろくろっ首の、早苗選手と美香選手と朋江選手!』
早苗。色白な線が細く、一重瞼で切れ長な瞳の女。黒に近いグレーの上下に、スカートは膝上五センチ。ベージュのストッキング。今大会唯一のストッキング派でもある。黒髪は肩まであり、分け目無し。身長は百六二。
美香。大きな瞳に可愛い顔。茶髪を肩まで伸ばした七三分け。身長は百六五。白シャツとブルーグレーの上下、そのスカートは膝上十センチの素脚。
朋江。厳しい印象を与える細面。濃い茶色の髪の毛を肩まで伸ばした真ん中分け。濃い紺色の上下に、スカートは膝下十センチの素脚。身長は百七七。
『続きまして、北海道地方代表!』