やり過ぎ女王
葛の髪の毛を捕まえたまま、更に、妙子は次々と怒りの攻撃を女に刻んでいく。
顔面に足刀。
頭に衝撃波が突き抜ける。
胸板へ踵を突き刺した。。
息が詰まり胸骨にヒビが入った。
腹に爪先を土踏まずまで刺し込む。
胃液と体液が逆流して吐き出す。
踵で顎を蹴り上げた。
脳味噌と神経系を稲妻が貫く。
引き寄せて頭突き。
前頭葉から稲妻が走り頸椎が軋む。
妙子が葛の髪の毛から手を外して半身に構えたとき、力一杯に踏み込んで、喉仏の下に親指を根元まで一旦刺し込んで引き抜くなりに、怒りで満たされた渾身の拳を胸板に撃ち込んだ。乾いた音を鳴らして、葛が仰向けに倒れてしまった。浅黒い女は舌を長く出して、泡を噴いていく。
それから、少女座敷童が恐る恐る葛のもとに近寄るなりに、その瞳の反応を見るまでもなく顔を見ただけで、解説席へと腕を交差させた。
『た、担架をお願いします!』
鈴を鳴らすような声で応急処置の指示を出したのだが、妖怪は基本的には死なないから大丈夫。
葛選手、戦闘不能。
勝者、中部地方代表の口裂け女・妙選手。
解説席。
脱衣婆ァが興奮気味に、夜行さんに訊いてみた。
『いやあー、あれは流石にやり過ぎでしょう。夜行さん』
『いえいえ! 逆にアレだけ、やられてみたいものですなぁー!』
夜行さんの一つ目が血走って、ギンギンであった。太く逞しい腕を組んで、こう自信たっぷりに断言した。
『妙子選手は女王様ですな!―――はい。やり過ぎ女王様と云っても過言ではありますまい! 天晴れです、キましたよ!』
興奮状態の夜行さんを余所に、葬頭河婆ァが鬼塚少年に尋ねてゆく。
『鬼塚さんは、ああいう女の子をどう思いますかね。 やっぱり脚が重要ですか』
『まさか。いくら何でもあれは度が過ぎますよ。脚、関係ないし』
『おや。やり過ぎ女王は、ストライクゾーンではないんだね』
『好み以前の問題じゃないですか』
鬼塚少年の口を尖らかせて云っているこの口振りからして、どうやら本当に苦手な女妖怪らしい。
そうして。
控え室に妙子が戻って入った途端。
「妙子さん、やり過ぎだで」
雪奈と氷奈から同時に突っ込まれた。