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トゲトゲな貴女


『さて続きまして、第三回戦にまいります!―――中部地方代表の口裂け女、妙子選手!』

 岐阜県岐阜市の有名人。

 その美しい顔を隠すかのように、高い鼻筋の半ばまで覆う完全マスク。つり上がった短い眉毛と、意志が強そうな瞳。髪の毛は腰までに達して、栗色の毛先は黒。夏場も黒のタートルネックの薄手トレーナーに赤茶けて汚れたハーフコートと、骨盤ラインのジーパン。身長は百七〇で細身だが、胸が少し大きめ。武器は愛用のナイフ一本のみ。

『そして、四国地方代表の針女。つづら選手!』

 細面の浅黒い女。瞳は切れ長で、穏やかな印象。やや痩せた躰に、小振りな胸。唇は薄く上品。腰までの髪の毛は鈍色にびいろで、その毛先は釣り針のようになっていた。着物は薄汚れた灰色。身長は、百六五。

 二人の選手がリング中央に構えた。

 妙子がナイフを逆手に構えて、葛は半身に構えた。

 口裂け女が頸動脈を狙ったナイフで弧を描いてきたときに、葛は己の髪で瞬時にその腕へと巻きつけて投げ飛ばした。妙子はこれを解こうとしたのだが、衣服に引っ掛かり食い込んではずれない。髪の毛で強引に立ち上がされたうえに腰にも巻かれて、顔面に浅黒い拳が入れられた。踏み込んで、もう一撃顔面に拳。続いて胸板と腹に喰らわせると、その顔に鉤爪の髪を巻き付かせて一気に引き剥がした。妙子の顔に、沢山の横傷が刻まれたとき、マスクを剥がされた姿を晒されてしまった。意外というか、やはりというか、美人だったようで。しかし、その麗しい唇の端から耳元までミミズ腫れのような奇妙な盛り上がりが走っていたのだ。女は己の顔を見られた事よりも、赤茶けた愛用のコートをズタボロにされた行為に腹が立ったらしく、ナイフを腰に直すなりに、指の関節を鳴らしてから半身に構えた。

 葛が放った鈍色の髪の毛を両手で捕まえ、間合い充分と見るやいなや躊躇無しに爪先を全力で女の腹に刺し込んだ。続いてそのままの姿勢で脚を引き、下がってきた頭に踵を叩き込んだ。葛は、その信じ難い一撃一撃の重さに驚愕した。




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