仏恥義理!!
間一髪で第二の唇を防御したが、全体重を撃ち込んだ蹴りに吹き飛ばされてロープ際まで転がった。雫が受け身を取り着地をし、白い大舞台を蹴って全力疾走。緑色の閃光が走り、桔梗の躰をめがけて飛んで来た。軽い脳震盪を起こしつつも、ロープに腕をかけて頭を振りながら立ち上がってリングに目を向けたときはすでに遅く、緑色のブチカマシが桔梗の腹を容赦なく貫いた。
有り得ない激痛に躰を折り、胃液と唾液を吐き出した桔梗。さらには胸倉を掴まれてロープへと躰と顎を押し付けられた女に、歯を剥き出した雫が邪悪な笑顔を見せてひと言。
「お返しじゃけ、桔梗さん」
薄いヨモギ色の躰が一瞬に光を発したのちに、構えた腕が緑色に輝いた途端、張り手を桔梗の端正な美貌に撃ち込んだ。顎を突き上げて、天を仰ぎ見る。ロープが背中に食い込み、肉と骨が軋む。
一撃では、済まさない。
今度は真正面からの突っ張り。
ここで止めない。
もう一発の突っ張り。
脳味噌が頭蓋骨でのたうちまわる。
突っ張り、もう一発。
眼球から横波振動と稲光広がる。
まだまだ、突っ張り。
頸椎が引き吊った。
もうひと突っ張り。
視界に霞がかかってきた。
再び突っ張り。
またまた突っ張り。
まだまだ突っ張り。
もう一撃突っ張り。
オマケの突っ張り。
駄目押しの突っ張りを喰らわせようとしたとき、掌を止めて着物の襟から掴んだ水掻きの手を放した。すると、桔梗が前のめりにゆっくりと倒れ込んだ。少女座敷童が慌てて駆け寄り、だらしなく虚ろな表情の桔梗を見て、瞳に小型ライトを照らしたけっか、瞳に反応も生気も無く、口がだらしない隙間を開け、意識が飛んでいた。
素早く解説席へと腕を大きく交差させた途端に、会場がどよめき湧き上がった。
桔梗選手、戦闘不能。
勝者、中国地方代表ねねこ河童の雫選手。
解説席。
夜行さんが感嘆しながら唸った。
『ううむ。素晴らしい!』
脱衣婆ァが割って入る。
『夜行さん。ああいうビンタは、如何です』
『是非! 私にも雫選手に、一発お願いしたいですな!』