キャット・ファイト 3
投げっぱなしのボディスラムに受け身が取れず、背中と後ろ頭を強打。白き舞台で、雉子の躰が跳ね上がってバウンドした。脳内と眼に稲妻が駆け巡り、腕が小さく痙攣を起こす。無情にも、墨江の全体重を乗せた肘鉄が、腹に突き刺さる。腹を押さえて激痛にのた打ちまわり、視界が溶けて醜く歪み曇っていった。何とか必死にロープへとしがみついて、一時的に回避。たまらずに、胃液混じりの血を吐く。
―な、何やの。あの女……。――
気を振り絞って立ち上がって構えたとき、目の前に佐賀の怪猫、墨江が来ていたのだ。突き出した拳をとられてしまい、胸倉を掴まれたうえにロープへと押さえ付けられる。そして、百八〇の身の丈から全力で振り下ろされた、墨江のビンタが雉子の横っ面を殴りつけた。
脳味噌が、頭蓋骨の中でのた打ちまわってゆく。さらに赤いコーナーポストへと胸を叩きつけられたのちに、髪を掴まれて後ろに引かれた。無表情の墨江が、雉子を強引に仰がせる。浪花の猫又女の白く曇った視界には、墨江の頭から突き出している二本の角―――いや、黒い猫の耳を目撃。
墨江が発達した犬歯を剥いて、意識朦朧の雉子に囁いていく。
「馬鹿が。相手に全力出さすっか」
その言葉に青筋を立てた雉子は、猫耳を生み、右手を猫の拳に変えて、墨江の頭を狙って振り上げた。刹那、黒い拳槌が胸板をめがけて叩き降ろされて、白いリングに頭を強打して、意識が吹き飛んでゆく。だらしなく口が開き、涎が流れ落ちる。百八〇の怪猫女は、浪花の猫又女を静かに見詰めているだけ。
少女座敷童が慌てて駆け寄り、雉子の瞳に小型ライトを当てるも反応は無し。解説席へ向けて、腕を大きく交差した。
続行不可能。
勝者、九州地方代表の化け猫・墨江選手。
会場が荒れて湧き上がっていく。意外にも早い決着に、どちらも猫化する事無く終わった試合に荒れだした。
解説席も動揺を隠せないでいた。深刻な顔付きで、脱衣婆ァが切り出す。
『や夜行さん。これは、もう!!』
『うむ。キャット・ファイトどころでは、ありませんな!』
一つ目を深刻に変えて、云い放った。すかさずそこへと、鬼塚少年が突っ込む。
『まだ、こだわってたんですか!?』