手形を切る
北海道文化放送が、大アカバンを受けた。
アカバンとは、引き受けなければならない罰である。
大泉洋は、確かに夢を見た。
(ミサイル・・・かな・・・)
何かが急降下していく。
らせんを描きながら・・・。
「大泉くん」と言う、ディレクターの藤村の声は、いつものごとく上ずっていた。
昨日、淡路島経由で四国に入った。
「けして、泊まらぬように」と言う、テレビ局の言いつけを守って、淡路島を通過した。
四国とは、別名死の国、幾重にも絡み合った恩讐があちこちに渦巻く。
大泉洋は、番組の収録のためとはいえ、踏み入ってはならないものに触れることとなった。
「お達者で」と、番組のトップの鈴井貴之は言った。
藤村ディレクターがのりのりなことに、物議を醸し出した鈴井は、はなっから辞退していた。
人気番組!水曜どうでしょうは、暗礁に乗っていたにも関わらず、ある目的のために続いていた。
民法ディスクは、「必ず戻って来い」と言った。
大泉洋は、祇園にいる高級娼婦を呼ぶために、いまだ独身をつらぬいていた。
八十八か所とは、聞こえのいいタブーである。
みの傘を被り、大泉洋は、阿波の国を出発した。
何度も何度も頭がくらくらした。
そして、ついに、大泉洋は、幻を見た。
「とにかく走れ」と、現れた女は、若く大そう美人であった。
藤村ディレクターの姿がなくなってから、大泉洋は、一人杖を突きながら歩いていた。
「ここは、どこじゃ?!!」
大声で叫んでみたが、その声は、ここはどこじゃ・・・どこじゃ・・・どこじゃ・・・とこだまするばかリ。
「時間内に、四国を一周する。これが出来たのは、我が主、空海様だけじゃけ」
「大泉くん、テープが・・・」
藤村ディレクターの声は、かすんでいる。
(意識を保て!大泉洋!)
大泉は、そう心で叫んだ。
だがしかし、八十八か所の道はけわしい。
「はい、やり直し」
女から受け取った手形は、ふくれにふくれあがり、大泉洋は、自分の傲慢さを思わずにはいられなかった。
と、突然、「な~にしとんの?ゴールだ、ダッシュだ、早~く!!」と、村の人らしきおじいさんが腕を回しているのが見えた。
(おーし!!)
大泉洋は、自分の腕に付いているロレックスを見た。
まだ、時間は十五分ほどある。
ゴールは目の前、何も走らなくても余裕だろう。
「大泉くん、こっち」
藤村ディレクターの声に、大泉洋は、立ち止まった。
「質は七屋で」
看板が見えた。
「まずはだ、金を調達しないと」
ロレックスの文字盤は、ダイヤモンドだ。
大泉洋が、いっしゅんひるんだすきに、周りのものが全部見えなくなった。
「さおや~さおだけ・・・」
遠くから確かに、そう聞こえていた。
新たに乗り込んだ車は、リムジンだった。
運転は、楠木の雇った大阪の老舗のあきんどの息子である。
「田中と申します。お見知りおきを」と、車に乗り込むと男は言った。
助手席に楠木が乗った。
花が、窓から見ると、黒澤が皆伐と谷田と何やら話ているのが見えた。
祇園の店は、三日間の営業処分、舞妓たちが、思わぬ休みに浮き足だち、まかないたちは、給金に文句を言ってきた。
静香は、最初こそおとなしく「あと、もう少し待ってくんろ」と言っていたが、まかないに、「舞妓こそ、一人や二人首切ったらよろし」と言われ、「首切るならおまえらだろ!!つまみ食いばかりしやがって!!」と、静香が切れた。
他のまかないが間に入り、「まぁ、まぁ、ここは穏便に」と言ったあと、「高利貸しがおるだろ?最近、いそいそと通っているとか?」と言うので、そのまかないは、バツが悪そうに、「嫁には内緒で」と言って出て行った。
楠木が後ろを向いて、「花」と呼んだ。
花が見ると、「これ」と、アーモンド入りの粒の大きいチョコを、花の手に渡した。
「一個しかないじゃけ、早くお食べ」と、楠木が黒澤の方を見ながら言った。
「おおきに」と、花は、チョコレートの包まれている銀紙をひらいた。
「うまいじゃけ」と、花が言うと、黒澤が車に乗り込んできた。
リムジンとタクシーで、淡路島に向かった。
「北海道のテレビ局が、オフレコで四国くんだりまで、ディレクター付きで行ったもんだから、地元のひでぇブーイングを買ったんやが・・・」と、楠木が口をモグモグさせている。
田中が、信号待ちに、ペットボトルのサイダーのフタを開け、花に差し出した。
花が受け取ると、黒澤が先に口を付けた。
サイダーを一口飲んで、後ろを振り向くと、皆伐と谷田、蛍が乗ったタクシーが見えた。
助手席の、蛍が手を振っている。
「まさか、行方不明ではあるまいなと」と、黒澤が言うと、楠木が花からサイダーを受け取り、一口飲んだ。
「ディレクターとカメラマンが、宿で待っていると、タレントが、夜中にようやく着いたじゃけ」
楠木は、わりと真顔だ。
「バケモンが出るとか?」
黒澤が言った。
「漁師の町じゃけ?」
花が聞くと、「そうじゃな、魚にはレモンじゃな」と、田中が答えた。
その頃、大泉洋は、「俺は、刺し身に新生姜じゃな」と言う自分の声で目が覚めた。
太陽が、さんさんと光り輝いていた。
「んん・・・?」
まぶしい目をこすりながら、ふと自分の腕を見た。
「おやおやおや??!」
ロレックスがないではないか?
遠くから、「大泉くーん」という、藤村ディレクターの声が響いていた。




