16最初の遠征
ヨハンが最初に指示した目的地は、王都から一日程という比較的近いところにあるベッカー村だった。
前の日、騎士団とニナ達は、近くの街で宿をとり、翌朝二時間程馬車で進んだ。
ベッカー村は、果物が名産で、王都や近くの街に卸しているらしい。一日半という距離で新鮮で質のいい果物を届けることができるので、ベッカー村の果物は王都の生活を支えているのだそうだ。
前の日、騎士団とニナ達は、近くの街で宿をとり、翌朝二時間程馬車で進み、目的地に到着した。
村が近づくと、広く大きく枝を広げ、黄金色の果実をぶら下げた木々が迎えてくれる。
馬車は村の中央広場に止まった。ニナが騎士に手を借りて馬車を下りると、三十人程の村人が馬車を取り囲んでいるのが分かった。
中央広場といっても、開けた土地にベンチがいくつか置かれているだけの何もない空間だった。建物は広場を中心に密集していて庁舎らしきものはなく、宿や店舗も見当たらなかった。この村の主な機能は、ニナ達が発った街に集約されているのだろう。
農業に従事する人達だけが、この村に残っているのかもしれない。
「力を貸していただけるとのこと感謝いたします」
騎士達を出迎えたのは、ベッカー村の村長だった。頭に白いものが目立つが、体を動かす仕事をしているからか、体つきはよく、日焼けした肌には健康的な艶があった。
「力を尽くします。私はこの部隊の副官、フリッツと申す」
応対したのは、フリッツだった。
初老の男は、フリッツの立派な体格を惚れ惚れと見上げていた。
「そしてこちらが、この部隊の長──」
「ジークハルトです。よろしく」
淡い笑みを浮かべたまま挨拶をするジークハルトに、男は明らかに落胆していた。
彼の思うこともわかる。ジークハルトとフリッツを比べると、明らかにフリッツの方が騎士らしく見える。
「早速ですが、拠点にできる場所を貸していただけますか?」
「え、えぇ……。集会場がありますので、ひとまずそこに──」
男の案内に従い、騎士達は歩き出す。囲まれるようにしてニナも足を踏み出した。
「あの方……」
「どういう方なの?」
「さぁ……」
密やかな声がニナの耳に届く。
どれもこれも、ニナがどういう立場で騎士達と同行しているのか無責任に推測する声だった。
居心地が悪くて、ニナは顔を伏せた。
──聖女様? あれが?──
──ただの子ども──
──嘘じゃないの?──
──騎士を侍らせて、聖女だからって──
国が荒れれば人の心も荒む。
ニナが聖女として活動し始めた頃、聖モントローズ王国では被害が出始めてすでに三年近く経過しいた。
人々はニナに感謝するどころか、遠巻きにするばかりで、その力を疑ったり、挙句騎士を侍らせて身持ちが悪い娘だとまで言われた。
成果をあげればと思ったけれど、討伐が終わればすぐに次の討伐へと追い立てられるように働いて、人々がどんな感情をニナに向けたのか、わからず仕舞だった。
(やっぱり、引き受けない方がよかったのかも)
ここでも同じなのかもしれないと思うと、気持ちが沈んでいく。
ニナは前を歩くジークハルトの踵を見つめて歩いた。この人を、信じてみたいと思ったのに。
「お姫様……」
どこからかそんな声が聞こえた。
ニナは薄く口元だけで笑った。
裕福そうな服を着て、箱馬車に乗って、騎士に守られていればお姫様に見えるかもしれない。
でも、実際は聖女になりたくもなかった聖女で、お姫様どころか女給や修道女だったのだ。
今のニナとはあまりにかけ離れた言葉だった。




