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国王陛下、勇者がまたモンスター食ってます  作者: 結城一
第二章 勇者のギャップがひどすぎるのだが

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9/15

9 勇者、カラスの巣を荒らす

結城一の情報ページを開設しました。

https://note.com/yuuki_hajime

「お前、それはカラスの巣だ! ヤバいから今すぐ下りて来い!」

 俺は崖を見上げながら左へ、右へと、うろうろする。オグは確かに身体能力はある。だが崖上の平地では、体のバネを使って跳ねるために必要な立体がない。あいつの動きが生きない。


――――今から追い掛けるか⁉


 だが俺は登るのが本当に得意ではない。頂上に辿り着く頃にはカラスが戻ってくる可能性も高い。

 シアンはもう少しで崖の上に辿り着く。彼の常識でオグを引っ張り戻してくれることを願うしかない。

 頭上から小石がパラパラと落ちてくる。

「オグ! 大丈夫か?」

 静かになった頂上。

 警戒音が頭の中でうるさく鳴り響く。

 シアンの姿が崖の向こう側へと消える。


カァァアアアア


 カラスは近い。巣があれば、特に危険だ。今すぐ離れたいが、オグとシアンはまだ戻ってこない。

「……ユーイ、ヤバい!」


――――何⁉ 何がヤバいんだ⁉


 俺は意を決して崖に両手をつく。

「今から降りるから離れていて!」

 オグの声が上から降ってくる。そして小石や砂が大量に落ちてくる。

 俺はさらに後ろへ下がる。上方で二人の姿が小さく見える。オグは登った時と同じように、物凄いスピードで手だけを使って下りてくる。

 いや、これは降りてくるというより……。

 落ちてきている。

 身長ほどの距離を、手を放して落ちている。そして両手で次の穴に体を引っ掛けて、またすぐに両手を放して真下へ落ちる。その繰り返しでスピードを調整しながら落下してきているのだ。

「おめぇの降り方エグいな、オグ!」

 シアンはシアンで、元山賊の意地なのか、結構早い降り方をしている。だが普通の降り方だ。手足を使って慎重に降りている。

 オグは最後の方はスピード調整すらせずに、そのまま地面へと飛び降りる。


ザッ


 彼の足が地面を踏みしめ、片手を地面についてバランスを取る。

「どう? かっこいいだろ!」

「俺の視界から消えるな、バカ野郎! 護衛できないだろうがぁ!」

「だからなんでいつも俺に怒るんだよ⁉」

 この勇者がもし世界を救うことがあれば、すべて終わった後に俺が奴の首を絞めたい。

「あ、ちょっと待って! シアン、そこら辺から真っすぐ降りられるはずだよ! 両手を壁に引っ掛ける感じで準備して。そのまま垂直に放して、引っ掛ける。放す。引っ掛ける。体の重心はブレないように真っすぐ。腰が引けると崖から離れすぎるから気をつけて。多分二秒ずつくらいでいい位置に穴がくる感じになるよ!」

 オグがシアンにパルクールの動きを伝授している。そしてシアンもその説明をしっかりと理解したのか、同じような動きで崖の下半分を落下する。

「どう?」

「すっげぇ速ぇ。金持ちの家に押し入る時に使えそう」

「強盗すんな! つうか騎士の前でそんな話すんな。あとやっぱりお前が一番悪い!」

 俺がオグを睨むと、彼は物凄く不服そうに口をひん曲げる。だがそれも数秒で切り替えられてしまう。

「それよりさ、これ見てよユーイ!」

 彼が背後から取り出したのは、両手で抱えるほどの巨大な卵だ。片方が尖り、下の方が少し大きくなっている。虹色に光る卵の殻には墨を垂らしたような黒い斑が浮いている。シアンの小柄な顔と、ほぼ同じくらいのサイズだ。

「カラスの卵を持って来ちゃったのか⁉」

「これで卵焼き作ったら美味しそうじゃない?」

「てめぇは食うことから離れろぉぉぉぉ!」


カァァァアアアアアアアアアア!

バサッ バサッ バサッ


 耳を貫くほど鋭い鳴き声と重そうな羽音。俺は反射的に空を見上げる。

 真っ黒で巨大なカラスが力強く羽ばたきながらこちらへ突進してきている。

 瞬時に興奮した脳が反射神経を研ぎ澄ます。

「オグ、気を付けろ!」

 俺は剣を抜き、衝撃に耐えやすいようにスタンスを広げる。

 凄まじい怒りを撒き散らしながら、モンスターはスピードを緩めずに真っすぐ突っ込んでくる。

 剣の柄をきつく握る。

 自ら飛び込みながら腕を振り上げる。


カァァァアアアアアアア!


 刃をくちばしに引っ掛ける。

「うぉぉぉおおおおっ」

 力任せに刃を真横へ引き抜く。くちばしの先端から奥へ滑り込んだ剣が、カラスを切り裂く。

 剣を抜くのと同時に、反対側にいたシアンが短剣でカラスの喉元を斬る。衝撃に逆らわず、軽く舞うように体を回して圧を逃がす。

 そして勇者。

 あの超人的なバネでカラスの背へ跳び、走り、拳でその目を打ち抜く。


ドォォォォォン

 ザザザザ……ザァァ……


 小さな家ほどもある巨大なカラスが痙攣し、地面へ衝突する。

 そして動かなくなる。

 爆風と振動で跳ね上がった小石がパラパラと落ちてくる。雨のような音を立てながら。

「ふぅぅぅ……」

 耳の奥でキィィィーンと甲高い音が鳴っている。その奥で自分の鼓動が徐々にうるさく鳴り始める。

 俺はカラスの上にいるオグへと視線を向ける。

 勇者は倒れたカラスの頭の上に立ち、その巨大な体を見下ろしながら頭を掻いている。

「……どうしよ。煮込み系? 焼肉?」

 俺はがっくりと肩を落とす。脱力した瞬間、尻の痛みが両足を駆け下りる。

「……尻痛ぇ……」

 シアンはその呟きに笑いながら、俺の横へやってくる。一緒に地面へ落ちた一枚の羽根を見る。オグの身長とほぼ同じくらいの長さだ。

「カラスの突進を止めやがった。バカ力だな、ユーイ」

「お前の衝撃の逃がし方は器用だった」

「本当。マジで綺麗に踊ってるみたいだったよ! 女の子じゃないのが残念」

「オレを『踊り子』扱いするんじゃねぇぇぇ!」

 トラウマなのだろうか、シアンは怒りに燃える視線をオグへ向ける。俺もオグと同じことを思っていたのは、永遠に黙っていよう。

「カラスって、こっちの世界でも光るものが好きなんだね。卵までキンキラキンじゃん」

「なんだ。地球でも光るものが好きな習性なのか?」

「そうだけど……あっちは、卵は、多分光らないかな。カラスの卵なんて見たことないけど」

 オグはカラスの頭から飛び降りると、俺を見上げて満開の笑みを浮かべ、両手をモンスターの遺体へ広げる。

「じゃ、どうぞ」

「……なんだ?」

「さばいてよ。俺、内臓ムリだもん」

「はぁ? なんで俺がさばかなきゃいけないんだ? 防具が血だらけになっちまうだろ」

「ぇぇええ? ……ムリ。俺、さばくのはムリ」

「俺だってモンスターの血は臭いから嫌だ」

「お願いだからぁ!」

「……おめぇら、情けねぇなぁ。オレがさばいてやる」

 オグと解体を押し付け合っていると、横からシアンの呆れた声が飛んでくる。


――――シアン、余計なことするなぁ!


 上手くいけばオグはこのモンスターを食べるのを諦めてくれるかと思っていたのだが。

 シアンは荷物を置き、手際よく羽根をむしり始める。

 そしてあっと言う間に巨鳥の解体が始まる。

「……おい、オグ」

 突然、シアンが手を止める。

「何? 手伝いならユーイに頼んで」

「ちっげぇよ! おめぇのこのスライム布、最高だ」

 オグと共にシアンの左右から彼の手元を覗き込む。

 先日、スライム布は何をしても濡れなかった。

 つまり()()()()ということだ。

 シアンは感心したようにスライム布を持ち上げ、近くで見る。

「こいつぁ、すげぇな。優秀すぎるエプロンじゃねぇか。全く血がつかねぇよ」

「へぇ、そういう使い方もできるんだね」

「ほぉ、解体の時は確かに助かるな」

「あ、ってことは……袋にもできるね」

「袋にしてどうするんだ?」

「食べ物をそれで包んでおけばもっと長持ちするだろうし、服を入れておけば雨が降っても濡れない」

「あぁ……なるほど。確かにそれがあれば便利だな」

「確かに。そんなのありゃ最高じゃねぇかよ。試すんだったら、オレは喜んで手ぇ貸すぜ」

 会話をしている間、オグはさりげなくシアンの手元から視線を外している。内臓系が苦手だというのは本当らしい。

 オグは何かを考え出したようで、シアンと裸になったカラスから離れた場所で焚火の準備を始める。彼に頼まれて火を起こすと、オグはすぐに湯を沸かし始める。

「卵焼きは面倒になったからゆで卵にしよう」

 俺たちの返事も待たずに優しく虹色の卵を鍋へ入れている。水面を通してみるとあの黒い斑模様がやけに目立つ。

「どうしよう。とりあえず八分くらい茹でるか」

 オグが呟き、すぐに小さく「1、2、3、4……」と数え始める。

 彼のいた世界では正確に時間を測る道具でもあったのだろうか。それが少し気になる。

 しばらくして彼は嬉しそうに鍋を覗き込む。

「よし。そろそろいいかな」

 白い湯気が虹色の卵から立ちのぼり、オグは嬉しそうにおたまを手にする。

 だが。


カリ カリカリ

 

 殻の内側から音が聞こえる。

 ……俺は無言のまま、そっと蓋を閉めた。

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