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国王陛下、勇者がまたモンスター食ってます  作者: 結城一
第二章 勇者のギャップがひどすぎるのだが

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7/8

7 実験にはご注意を

結城一の情報ページを開設しました。

https://note.com/yuuki_hajime

 風になびくシーツのようなスライムを見ていると、本気で現実逃避したくなってくる。

 薄くなった透明スライムはオグの指示で二枚作った。一枚は木の枝に括りつけて干し、もう一枚はオグの冷凍庫に平らにして入れた。これからどういう変化があるのか試したいらしい。

 干している方のスライムはふわふわと高級布のような肌触りをしている。冷凍庫に入れた方もどうなったのか少し気になる。

 面白いと言えば、面白い。

 だが。


――――この行動のどこが勇者なんだ……?


 シアンの方はオグが面白いらしく、自分から絡みにいっている。

 燻製の時間の半刻はあっという間に過ぎ、その後少し寝かせている。

 そして仕上がったらしい。


カタ カタン


 涎が垂れそうなオグを真横に、シアンがゴーレムリンの肉を燻製炉から取り出す。扉を開ける前から香ばしい香りが漂っていたが、扉を開けた瞬間その匂いはさらに濃厚になる。

 分厚い手袋をしたシアンが吊り下げた肉を取り出すと、青灰色だったそれは毒々しい青色へと変化している。

 山積みにされていく肉を見て、思わず顔を顰める。このままの流れでいくなら次は絶対に食うことになる。

 シアンは少し大きめの干し肉をオグに、小さなサイズのものを俺に渡す。

「おぉぉぉ、まだ温かい! できたてってすっごい綺麗な色! なぁなぁ、ユーイも食うだろ⁉」

 『もちろん食うよな⁉』というプレッシャーを感じる。

 シアンは、心底嫌そうな俺の表情を見て楽しそうに見ている。

「諦めな。干したカタツムリだとでも思って食え」

「干したカタツムリも食いたくねぇよ!」

 俺はシアンの言葉に唸り、手中の肉を睨みつける。

 視覚的に毒々しいその色合いは、完全に食欲を削ぐ。


――――くそっ。どうせもうこの体はスライム刺しで穢れているんだ。今回は生じゃないだけマシ


 俺は目をきつく瞑り、その干し肉を丸ごと口内に押し込む。

 豊かな燻製の風味が口いっぱいに広がって鼻へと抜けていく。あの硬い外殻が必要な進化だったのだと頷けるほど肉は柔らかい。燻製で少し固くなったはずなのに、軽く噛んだだけで肉がほろりと綻ぶ。

 スライム同様、味も悪くない。確かにかなり淡白だ。燻製でなければあまり味がしないのかもしれない。だが面白いのは軽いのに妙に腹に溜まる感じがすることだ。


――――……悪くないな。この肉で食糧問題が……、……っ⁉ 俺は何を考えているんだ! これってモンスターだぞ⁉


 つい思考が流れそうになり、自分を戒める。

 俺の真横ではオグが嬉しそうに大きく歓声を上げている。

「なぁなぁ、ユーイ! これ、すんごく美味くない!? サラダとかにして燻製ナッツドレッシングなんかも作ってさ。あっ、アグアの実も一緒にスライスして。もうこれ、王様にも出せるレベルだよね!?」

「国王陛下にモンスター肉出すんじゃねぇ!」

 つい本気で怒鳴る。

 俺に怒鳴られ、心外だというようにオグが不満そうに唇を突き出す。

 シアンは隣で笑い転げながら、俺に瓶を差し出す。

「オレの作った果実酒だ。これでも飲んで少しは肩の力を抜け。なぁ、()()

 意地悪そうな表情で俺を突っついてくる。

 口内に残っていた燻製の味が甘口の強い酒で流されていく。オグと同じ意見なのはかなり癪だが、この元山賊は確かに料理が上手い。多分強い。味方にするには最高だ。信用はできないが。

「あぁぁぁああ! ねぇ、ユーイ! 触って! これ、触ってみてよ! すっごいよ!」

「うるせぇぇぇぇ!」

 アルコールで少し本音が出やすくなった俺は、スライムシーツで騒ぐオグの方へ嫌々歩いていく。怒鳴られたことなどまったく気にしていない様子で、スライムの端を俺の方へぐいぐいと引っ張り寄せてくる。

 

するん


 触ってみて、最初にその柔らかさに驚愕する。

 透明な布を左右に引っ張ると収縮性が高く、ある程度まで伸ばすと凄まじい反発力で元に戻る。そして軽い。透明。とても薄い。


――――なんだ? こんな素材、見たことねぇ!


 オグは端を口に入れて噛んでみている。

「これ、一度乾燥するともう水分を吸わなくなるのかな? 濡れないね。食べものじゃなくなっちゃうみたい。味もしないし」

「ぁあ? ちょっと貸してみろ」

 俺はスライム布を枝から下ろすと手に取り、もっと近くで調べる。確かに異質な素材へと変化したようだ。

 それを持ってすぐ横を流れる小川へ行き、ゆっくりと端を水に浸してみる。

 冷たい水が靴に入り込む。小石まで混じって足指の間に挟まる。地味にちくちくして痛い。

「どうだ? それ、濡れたか?」

 シアンも肩越しに覗き込み、興味深そうに俺の手元を凝視している。

「……いや、マジで濡れねぇ。すげぇな、これ……」

「なぁなぁ、俺にもやらせてよ!」

 オグは小川の水に浸かっている俺の手元から、無理矢理そのスライム布をひったくる。

 つるんとした感触が手のひらを撫で、何かを握っていた感覚がふっと消える。

「なぁ、俺もやってみたいって!」

 オグはまた俺の手元へ手を伸ばす。

「え? 今、お前が持っていっただろ?」

「……え? 俺、持っていないよ?」

「おまっ、バカ! あれ、どっかに流れちゃってるぞ⁉」

 シアンの叫び声に、三人とも慌てて水の中に入り、付近を手探りで探す。水しぶきが跳ね上がる。必死に水の中をかき回すが、どこを探してもあのスライム布には触れない。あれだけ軽量だったのだ。多分すぐに流されてしまったのだ。

 やがて三人とも諦め、小川の縁や浅瀬に座り込む。

 無言が落ちる。

「……あー……、すまん……」

 肩を落として下を向いているオグに、俺はそっと声を掛ける。

 表情が見えず、少し慌てる。

「……俺たちの……新発明がぁ」

 彼の悲痛な声に、俺はさらに縮こまる。

「まぁ、なんだ。オレも水を食い止めとくべきだったよ」

 シアンまでもがオグに気を使っている。

 彼は唇を横一文字に引き結び、勢いよく顔を上げた。

「いい! また君たちに作ってもらうから」

「オレらかよ⁉」

 シアンが即座に怒鳴り返す。そのどこか平和的なキレ方につい笑ってしまう。

「ユーイ、笑ってねぇでおめぇもこいつになんとか言えよ⁉」


――――あー……ダメだ。なんなんだ、このちぐはぐな寄せ集めは


 笑いが収まると、三人とも水を滴らせながら先ほどいた場所へ戻る。

 自分のせいで偉大な新発見を失った気分だ。だがオグの言った通り、俺たちがまたあのスライム布を作ればいいだけのこと。そう何度も自分に言い聞かせる。

 ……だがこうなると少し気になってくる。

「なぁ、もう一つのスライムってどうなったんだ?」

 オグは俺の問いに首をひねり、冷凍庫を開ける。

「あんなに薄かったから、水分はもう飛んでるはずだよ」

 以前見た冷凍庫の入り口より、横長の口が空中に現れる。オグの意を酌んで自然と形を変える便利な機能付きらしい。

 彼はそこへ手を差し込み、ゆっくりと薄くて透明な板を引っ張り出す。

「なんか、こっちは結構硬くなったね」

 三人とも先ほどの経験で痛い目を見たので、自分たちの前にある端だけを調べる。揉んだり、折ろうとしたりする。

 最初は冷たかったスライム板も、徐々に常温に戻っていく。だが硬さは変わらない。

 オグが軽く中央を拳で叩く。


コンッ

 コンコン コン コン……


 音が綺麗に反響して響く。握っている端にもその振動はほとんど伝わってこない。

「これも……食べられなさそうだよね」

 オグが残念そうにしている横で、シアンは何度もその板を爪で弾いて音で遊んでいる。


ピンッ

 ピピン ピン……


「面白ぇな……これ」

「結構強いよね? ユーイ、ちょっと真ん中を強く叩いてみてよ」

 俺はその透明な板の中央に拳を少し強めに叩き込む。


ゴンッ

 ゴゴン ゴン……


 音が反響する以外、まったく動きはない。

「おい……これは……すげぇ。物凄く、すげぇ」

 俺は湧き上がる興奮を抑え込みながら二人の顔を見る。

「少し強めに叩くぞ。しっかり持てよ」

「うん、好きにしていいよ」

 オグの許可も下り、俺は中央を狙う。

 一度深呼吸する。

 拳を叩き込む。


ガンッ

……ボォォォオオオンッ!


 叩き込んだ時よりも大きな音が響いた、その瞬間。

 ふわっと体が宙に浮く。

 地面に叩きつけられる。

 吹っ飛ばされたらしい。


――――な……なん……だ⁉


 地面に叩きつけられた尻がびりびりと痺れるように痛む。大きく息を吸い込み、突き出された息を肺に戻していく。

「お、おい⁉ 大丈夫か⁉」

「ユーイ、ケツ、大丈夫⁉」

 二人は板を地面に置き、慌てて駆け寄ってくる。

「……おい、……今のは……なんだったんだ?」


――――もし……これを……

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