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国王陛下、勇者がまたモンスター食ってます  作者: 結城一
第二章 勇者のギャップがひどすぎるのだが

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6/7

6 スライムの正しい使い方

結城一の情報ページを開設しました。

https://note.com/yuuki_hajime

 元山賊は手慣れた手つきで、ゴーレムリンの干し肉を加工する簡易燻製炉をオグに見せている。

 箱からニョキッと真っ直ぐ伸びた筒型の作りだ。自ら短時間で建てたと言っている燻製炉は干草と泥を塗りたくって乾燥させた表面をしている。シンプルな構造で燻製がよくできるらしい。

 オグがあまりにも元山賊、シアン、の干し肉を褒め称えたので彼はすっかり気をよくしてしまったらしい。オグにあのひょろっとしたモンスターをどうやって料理したのかを細かく説明している。

 そして説明だけではなく、実際に俺に遺跡からゴーレムリンを二体持ってこさせた。目の前で捌き、慣れた手つきで食べられない部分を抜き取っていく。そして肉を細切りにしていく。

「シアンって料理好き?」

「あー……どうだろうな。あんまり考えたことねぇな。おめぇは?」

「好きだけど、他人の作った料理の方が美味しい」

「いや、お前はマニアックすぎる食材ばかり使うからじゃないのか?」

 俺は呆れた声で返す。

 二人を見ているとわずかに危機感を感じる。勇者ともあろう者が、元山賊に妙に懐いている。共にモンスターを食べるからか、年齢が近いせいか。

 シアンは窯の中で何列も重ねて青灰色の肉を吊るす。俺の起こした火の強さを調整し、同じ素材で作った小さな扉を閉める。

「あとは半刻待ちゃいい」

「えっと……?」

「半刻は一『ジカン』と言っていたぞ」

 先ほどオグがキレて喚いていたのを思い出す。

 オグはそれに不服そうにむくれる。

「待つのって苦手。なぁシアン、他に何を燻製にできる?」

「ぁあ? 肉や魚は大概燻製にできるぜ。葉っぱや実は腐るから無理。根野菜は上手くできれば美味ぇ」

「へぇ、失敗するとどうなるんだ?」

 モンスター食以外ならば会話に嫌悪感は抱かない。簡単な料理しかできない俺にとって、燻製はハイレベルな料理だ。興味が湧く。

「パサついていたり、酸っぱかったり、苦ぇ。すげぇ不味い。あと、酸っぱいのはたまに腹下す」

 シアンは味を思い出しているのか、顔を顰める。

「失敗は温度のせい?」

 今度はオグが聞く。

「それか水分が多いと腐りやすいな。生焼けで味がつかねぇ時もある」

「じゃあスライムの燻製は無理か」

 オグの呟きに、俺とシアンが固まる。先に俺が回復する。

「あんなの、燻製にしようとするな!」

「だって、スライムってなんか他にもできそうじゃんか。もったいなくない?」

「ちょっと頭使えば、スライムは水分多すぎるって分かるだろが」

 呆れたシアンが鼻で笑う。容赦なくオグを見下す顔は、なおさらプライドの高い美形な踊り子にしか見えない。

 少しずつ燻製用に使った木屑のいい香りが漂ってくる。シアンがどんな木を使ったかは知らないが、食欲をそそる匂い。燻製しているのがモンスターでなければ、だが。

「……あ? ……おぉ! 先に水分を飛ばせばいいんだよね!?」

 オグが突然立ち上がり、興奮したようにその場をぐるぐると歩く。

「飛ばせないだろ。確かスライムって八十五から九十五%水分だったと思うぞ。水分抜いたら、何も残らなくなる」

「へぇ、よく知っているじゃねぇか、ユーイ」

 シアンの言葉に、俺は頭をガシガシと掻く。

「前に若い騎士を訓練した時に調べたんだよ」

「おめぇ、昔からずっと優等生だったろ」

 今度は俺をバカにするような言い方だ。俺はそれに余裕のある笑顔で返す。

「当たり前だろ。伊達にこの国一番の騎士じゃねえ」

「一番だったから、モンスター食う勇者の護衛騎士になれたのか」

 ニヤつくシアンの言葉に、今度は渋い顔になる。

「頼むから……それは言うな。脳が全力でその事実を拒否している」

「えぇぇぇ、ユーイ、俺の護衛が嫌なの?」

 オグがショックを受けたような声を絞り出す。ただ甲高い声のままなので妙に癇に障る。俺はその問いが聞こえなかったふりをする。

「おい、どうやって水分を飛ばすつもりだ?」

 シアンは好奇心を隠しきれていない様子だ。

 俺も気になる。スライム被害の多い村で、あいつらを一気に乾燥させる方法があればぜひ知りたい。

 活用したい。

 皆を救いたい。

「へへ、聞いて驚け。これを使う!」

 オグは空中でハンドルを回す。四角い入り口が現れ、異空間の凍えるような冷気が流れ出てくる。向こう側は白い霜が降りていて、本当に冷たそうだ。

 彼は朝方スライスしたスライムの残りを取り出す。綺麗に半分に切られているスライムは、見るのは三度目だが異様だ。

 今までの、あのどろりと形を持たないスライムが固体になっている。

 やはり異様すぎる。

 オグに関わること全て、異様すぎる。

 相当冷たいようで、スライムを持っているオグの両手が赤くなってぷるぷると細かく震えている。

「おぉお、すっげぇな! マジで冷たい空間じゃねぇか! 向こう側の壁が見えねぇ! いいなぁ。確かにこんだけ詰め込んで持ち運べりゃ、食いもんにゃ困らねぇだろうなぁ」

 初めて見る空間を覗き込み、シアンは心底羨ましそうに呟く。

「冷えてもいいもんならここに入れて荷物軽くできるしよぉ」

 彼は軽く手を突っ込んで中を探りまわる。

「オレもこれ欲しいな。……なぁ……おめぇを殺したら、このスキル、オレに移るかな?」

 その瞬間、空気がピンッと張り詰める。

 

ザッ

 

 俺は剣の柄を掴みながら跳ね起きる。

 オグを掴み、自分の背後へ引っ張る。

 無言だ。

 三人とも、誰かが動くのを待っている。

 シアンは突然吹き出し、笑い転げる。

「あははははは! 騎士よ、確かに腕はいいな! 安心しろ。そいつを殺してもオレにスキルが移るわけねぇって知ってるさ」

 元山賊は口角を釣り上げ、俺に両手を広げて見せる。「敵意はない」と全身で示している。

 だが危険人物には変わりない。

「おめぇの反射神経を試しただけだ。別にそいつを殺したいわけじゃねぇよ。こいつが死にゃ、世が滅びることくらい知ってらぁ」

 俺は一度軽く頷く。

 だが、柄から手は放さない。

 目も逸らさない。

「なんだ。俺の冷凍庫が使いたいんだったら、シアンも一緒に来ればいいじゃん」

 能天気な声がする。

 俺も元山賊も口を開け、相変わらず凍ったスライムを持っている男を振り返る。

「一緒だったら、美味しくって面白いものがいっぱい食べられそうじゃない?」

「てめぇはそればっかか! 分かってんのか⁉ 山賊だぞ!」

「『元』だっつってんだろ!」

 オグに俺が、俺にシアンが青筋立てて叫ぶ。

「そうだよ、ユーイ。シアンは『元』山賊、今は違うんだってば。それよりさ、手伝ってよ、ユーイ」


――――『それよりさ』じゃねぇだろが!


 俺は無音の雄叫びを上げて髪を掻き乱す。

「ユーイ、遊んでいないで手伝ってってば」

 そして無情にも追撃の一言を投げつけてくる。


――――もうこんな奴の護衛やりたくねぇぇぇぇえええ!

 

 だがやはり、俺には拒否権はない。

 俺は目の前にいる男の首を絞めたいのを我慢し、彼から薄くスライスしたスライムを一枚受け取る。

「できるだけ薄く引き伸ばしてよ。物凄く薄く、ね」

 何も考えないようにする。

 無心で、近くの棒をスライムの上でゴロゴロと転がす。少しずつその半透明の物体を引き伸ばしていく。弾力のあるそれは溶けてくると端の方から戻ろうと縮む。それを無理矢理力任せに引き伸ばす。

「おら、オレがこっちを持ってやるから、そっちを伸ばせ」

 いつの間にか近くに来ていたシアンがスライムの端を掴み、ぐいぐいと引っ張る。


――――こんちくしょぉぉぉ


 オグにもシアンにも当たるわけにいかず、その苛立ちをムニュッとするスライムにぶつける。解凍したスライムは相変わらずスライムらしい触感をしている。だが一度薄くスライスしたためか、確かに少しずつ薄く伸びていっている。


ムニョ

バンバンッ

ムニュン


 引き伸ばし、下の平石に叩きつける。また引き伸ばす。

 スライムの薄切りはやがて広がり、その面積も大きくなっていく。半透明だったそれは、わずかな凹凸を残す以外はほぼ透明になる。足ほどの大きさだったものが、人間半分ほどの直径にまで広がったのだ。

 シアンは面白そうにそれを突っつく。

「……これ、どうやって水分飛ばすんだ?」

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