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国王陛下、勇者がまたモンスター食ってます  作者: 結城一
第三章 勇者の思考回路が異様すぎるのだが

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12/16

12 燃えない贈り物とよく燃える物

「ちょっとユーイ、これ、凄い! 凄いよ⁉」

 いきなり興奮し出したオグにびっくりし、手にしていた薬味を落としそうになる。

「見て、見て、見て! これ見てみて!」

 オグは手にしていた白い球体を一粒焚火の中へ放り込む。


ゴォォォオォォオ


 その瞬間、火が球体を中心にぶわっと膨れた。

 だが球体は燃えていない。

 炎はまるで球体を避けるようにゆらゆら揺らぎ、その周りの炎だけ禍々しい黒に染まる。

 見ているだけで背筋が冷える。

「これ何⁉ 黒い炎ってなんか意味あるの⁉ 魔法?」

 俺は手にしていた薬味を地面に落としてしまう。

「……初めて見た」

 隣でカラスの串を焼いていたシアンも目を見開いている。

「マジで……黒じゃねぇか」

 オグの頼みで俺たちはさっきからカラスを焼いている。

 半分は普通の木の棒に、もう半分は冷凍乾燥させた細いスライム棒に刺して。

 結果は悲惨だ。

 乾燥していてもスライムは火に弱い。肉の刺さっていた部分から豪快に燃えて焚火に落ち、炭となった。

 俺たちの横でオグはずっとあのベビーモンスターに貰った白い粒を調べていたのだ。

「でね、これをこうして……」

 オグは枝でその球体を火の端へ転がす。

 そして火から取り出したばかりのそれに、何の躊躇もなく指を伸ばす。

「また火傷してぇのか!?」

「大丈夫、大丈夫。もう試したから。ほら、凄いよ、全然熱くない」


――――いや、だから、勝手に先に試すんじゃねぇ!


 俺の荒れまくった内心とは裏腹に、球体はオグの手のひらの上でころころと転がっている。焼いた直後だというのに白い球体に煤すらついていない。

「……俺の……常識がぁ……」

「ねぇ、今のってさ、火が避けたんだよね? 粉にしたらなんか面白そうじゃない? あ、でも一番は液体にしてみたいな。液体かぁ。どうやったら液体にできるのかな?」

 興奮しているせいでオグの口が止まらない。

 数日一緒に過ごしただけでも、こういう時のオグは止められない生き物だと学んだ。

 あと、どれだけ気をつけていてもオグはやらかす。そこももう学習済みだ。

「液体ねぇ。マジでそれができりゃ最強だな」

 

――――戦争の勝敗が変わるレベルの発明になるよな


「……おめぇ、びびってんのか?」

 視線を上げるとシアンが俺を真っすぐ見ている。その横でオグはまだ危険性が分かっていない顔をしている。

「当たり前だ」

「良かった。オレだけかと思ったぜ」

 その返事にシアンは少し笑いながらオグの手のひらから球体をつまみ上げる。


ギュゥイ! ギュゥィィイイ!

ガタガタガタ ガタガタガタ

 

 少し離れた枝の鳥籠から、激しい抗議の鳴き声と格子を揺らす音がする。

「……ちっ、うっせぇモンスターだな。次はお前を串にして焼くぞ」

 

ギュゥイイ ギュゥゥィィイイイイ!


「ダメ! また面白い物くれるかもしれないし」

「飼うつもりかよ」

「……ユーイが面倒みて」

「なんでだよ」

「だって、怖いし気持ち悪い」

「育児押し付けんな、ママ」

 焚火の肉から立つ煙が一段と濃くなる。

「ああ! 肉!」

 シアンが慌てて串肉を皿に乗せていく。どんどん積み上がっていく量に呆れる。だが余った分は全部冷凍保存される。そう考えれば、一度に大量に焼くのは確かに理にかなっている。どうせ食い意地の張った男が食うし。

 三人で皿を囲む。

 湯気と野性的な肉臭を放つ肉を見て、冷たい汗が背中を伝う。オグは目をキラキラと輝かせながら串肉を一本手に取る。

「あぁ……食欲を誘う匂いだなぁ」


――――そうか? 鼻から脂を流し込まれているほど重い匂いだろ。この匂いだけで胃もたれしそう


「ユーイ、早く試食。食べてみてよ」

 シアンはゴーレムリン以外のモンスターを食べたことがないらしい。なので自然と俺が毒見役をすることになる。焼いてある分、毒見の待機時間も短くて済む。そう言ったためか、いつもよりもうきうきとしたオグが顔を覗き込んでくる。

 俺は溜息をついてそれを一気に頬張る。

 強い獣臭が嗅覚を殴り、遅れて味が味覚を叩き起こす。だが心配していたほど脂は強くない。振りかけた薬味が重い味を上手く切ってくれている。

「どう? 美味しい?」

「……食える。ちょっと味が重いが」

 串を一本食べ終わるころにはその重さにも慣れた。

「もういいぞ。多分毒はない」

 オグはすぐに串肉を頬張り、嬉しそうにシアンと感想を言い合っている。

「味強いね。煮込みの方がいいのかな?」

「野菜多いスープだったらイケんじゃね? オレはこの串焼き結構好きだぜ」

 重いかと思っていたが、気づいたらもうすでに串を数本食べ終わっている。シアンはそんな俺を見て、にやりと口の端を上げる。

「ユーイもモンスター肉が好きみてぇだしよ」

「好きじゃねぇ!」

「今何本目なんだ?」

「……九本目」

「がっつり食ってんじゃねぇかよ!」

 シアンは笑い転げ、オグは妙に嬉しそうだ。

「腹が減っていたんだ!」


ギュゥゥゥゥウウイ


 さっきまでより大人しい、間延びした鳴き声でモンスターが何かを訴えている。三人で鳥籠を見ると、小さな手を合わせて握っている。

「なんか元気ないね。お腹空いたのかな?」

「カラス食うと思うか?」

 シアンはオグに訊く。

 オグに訊いたはずなのに、モンスターは勢いよく立ち上がる。そして目を剥き、必死に格子の隙間から腕を伸ばす。

「……『くれ』って言っているな」

「ああ。言ってやがんな」

 三人とも無言でモンスターを見る。

「……オレたちの言葉、理解してやがんな」

「……ああ。理解している」

「へぇぇえ、頭いいんだね!」

 オグだけが能天気に軽い。

 生まれたばかりの赤ん坊モンスターが人語を理解できている。そんなもの脅威以外の何ものでもない。

「……やっぱり、シアンに殺してもらおう」


ギュゥィィイイ⁉

 

 モンスターは悲鳴を上げ、鳥籠の中で俺たちから一番遠い場所まで転がり退がる。

「ダメ」

 オグが即答している。

 俺は溜息をつき、シアンは苦笑しながら彼に串を一本渡す。

「おら、ちゃんと餌付けしてこいよ、ママ」

「だから俺はママじゃない!」

 オグはぶつぶつと文句を言いながら鳥籠に近付く。

 モンスターは嬉しそうに骨ばった両腕をオグに伸ばし、またニタァと笑っている。

「……これ、食べる?」

 オグがカラス串を持ち上げて見せると、モンスターは『早くくれ』とでも言うように両手をばたばた振り回している。オグは串ごと隙間に差し込み、急いで指を引き抜く。

 モンスターは小さな爪を肉に食い込ませ、小さな口で無心にかじり続ける。

 さっきあれだけ舐めていた殻は餌じゃなかったらしい。

 

――――飯を食っているだけなんだが、なぜか、キモい

 

 あの黒い唾液のせいだろうか。

 それとも一生懸命噛んでいる間、広げたり丸まったりしているあの足の指のせいなのだろうか。

「お腹が空いていたんだねぇ」

「完全にママじゃねぇか」

 俺の突っ込みにシアンが笑う。そのまま彼がモンスターを見てふと呟く。

「よぉ、これって共喰いになんのか?」

「いや、結局カラスじゃないんだから共喰いじゃないだろ」

「カラスがあの虹色を気に入って盗んだのかな」

「光りもんにゃ弱ぇもんな」


パキンッ


 モンスターは中の枝まで食べ始める。

「え、ちょっと! それは食べないよ!」

 オグは慌てて鳥籠に顔を寄せるが、モンスターは気づかずにパキパキと音を立てながら片っ端から胃袋に収納していく。

「ちっこいのに、顎すっごい強いんだね」

「いや、こりゃ歯が鋭いんじゃないのか?」

「どっちでもよくね?」

 

――――いや、よくはない。こんなもん、どこまで食うつもりだ


ゲフッ ゲフッ


 小さな背中が苦しそうに揺れる。喉に枝でも引っ掛かったのか、ゲフゲフと咳込み始める。

「大丈夫⁉」

「喉に詰まってんぞ、もっとちゃんと噛め」

「いや、木は食べんな。肉いっぱいあるから」

 その瞬間。


ゲ…… ゴォォォオオオオ!

 

 影のような真っ黒な炎がその小さな口から噴出する。それはスライム格子を瞬時に溶かす。手のひらにも満たない黒炎だったが、威力は壮絶だ。

 すぐに消えた炎の爪痕を凝視しながら三人とも無言で固まっている。

 小さな咳き込む音だけ聞こえる。

 穴に気づいたモンスターは素早く飛び出し、オグの腹に飛びつく。そして甘えるようにぐりぐりと顔を押し付ける。尻尾が嬉しさを隠しきれず、ぬるんぬるんと揺れている。

 オグは呆然としたまま、小さく漏らす。

「……鳥籠、意味なかったね」


――――こんなもん、飼えるわけないだろ

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