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国王陛下、勇者がまたモンスター食ってます  作者: 結城一
第三章 勇者の思考回路が異様すぎるのだが

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11/16

11 ママへのプレゼント

「そんなの野放しにして寝られねぇって!」

 それは三人とも同様に感じたことだ。

 話している間にも小さなモンスターの毛皮は少しずつ乾いていく。乾いた毛がふわりと広がるせいで、余計に体のバランスのいびつさが目立つ。

 濡れている時には気付かなかったが、頭の左右には不釣り合いなほど大きな垂れ耳まである。

 俺は情けないほど気味悪がっているオグの足から、そのいびつなモンスターを引きはがそうとする。小さいくせに猛烈な執念でオグにしがみつき、しまいには鋭い爪でズボンまで伝線させる始末だ。

 解放されたオグは物凄く素早い。

 冷凍スライムを細切りにし、シアンにそれを何度も伸ばしてもらう。そしてそれを無心で編み合わせる。

 冷凍庫で水分を飛ばして、即席の鳥籠が出来上がる。

 シアンが横を叩くとコンコンと中から反響するいい音。

 

ギュゥウウ!

 

 モンスターは入る事を嫌がりながら暴れる。骨ばった四肢を一所懸命に伸ばし、入り口の枠で踏ん張っている。

「入るんだってば!」

 オグは絶対に素手では触るかと、その親指サイズのモンスターを木の枝でぐいぐい容赦なく押し込んでいる。

「だから、遊んでんじゃねぇって」

 横からシアンがそのモンスターを鷲掴みにすると、そのまま鳥籠の中へ放り込んで扉を閉める。オグはすかさず作っておいた細いスライム紐で扉をぐるぐると縛り上げる。

「なんか手が気持ち悪いな」

 掴んでいた手に、油が異様にまとわりついたような感触が残る。俺はそれを土で拭ってから水で洗い落とす。

 小さな化け物は怒り狂って鳥籠の中で暴れているが、例のスライム素材はまったく動じない。大きな抗議の声を上げ、潤んだ真っ黒な瞳でずっとオグを見つめて鳴く。

「おめぇ、完全にモンスターママだな」

 シアンが笑いながら絶望的な表情のオグの肩を叩く。

「訓練させたら番犬にはできるんじゃねぇのか?」

「やだ、寝ている間になんかされそう」

「それ以前にいきなり喉笛噛み切られそうだ。オグの赤ん坊だろうがモンスターだしな」

「俺はこんなの生んでいない!」

 シアンは笑いながら中断していた解体作業の方へと戻っていく。

 オグはまだ不服そうだったが気を取り直したのか、今度はカラスの料理をどうするか悩み始めている。食が絡むと早い。すでに物凄く至福そうな表情をしている。

 俺は鍋の中に散らばった卵の殻を捨てようと、鍋を持ち上げた。

「あ、ユーイ、待って! それ、ちょっと見せてよ」

 オグは鍋の中の殻の破片を一つ摘まみ上げる。

 オグが卵殻を拾った瞬間、鳥籠の中のモンスターが急に静かになる。相変わらず視線はオグに張り付いている。

 オグはそれに気づかず、殻を指先でこすったりしながら調べている。

「これ、何かに使えないかな?」

「お前……また何かやるつもりか?」

 俺はあきれながら鍋をそのままオグの方へ押しやる。

 正直に言えばスライム素材は優秀すぎる。認めたくはないが、最高の発見だ。

 

――――もうこれだけでいいんじゃないか?

 

 これ以上常識が狂ったら、悲鳴を上げてやる。

「……ねぇ、あれだけ茹でてもモンスターが無事だったのって、なんでだと思う?」

「んー……、やっぱ火か水属性だからだろ」

「他にはどんな属性が存在するの?」

「火、水、土、空」

 シアンがカラスの大きな背中ロースの部分をさばきながら向こうから答える。

「スライムは火か水で合っているの?」

「多分な。ゴーレムゴリンは土だ」

「カラスは空じゃないの?」

 俺とシアンは同時に顔を上げる。

「……空だ」

「あぁ……空だな。なんでさっきは火か水だと思ったんだっけ?」

 俺達はオグを見る。

「……()()が、火か水って聞いたのが始まりだったんだよな?」

「えぇ? 俺、何もしていないよ⁉」


――――……あぁ。こいつは本当に()()()()()()()

 

 オグがただ口を開けただけで、俺の常識が勝手に崩れる。

 冷たい汗が背中を伝う。

「俺、本当に何もしていないのに」

 不服そうにオグは卵の殻を指先でつまみ、光に透かす。

「これ、茹でると少し虹色が強くなるんだね。粉末にしてスライムに混ぜたら、光沢でるかな?」

「染料みたいにか?」

「だってスライム布、透明すぎてちょっと不便じゃん。流れても気づかなかったし」

 地味に痛いことを言いやがる。

「分かった。粉末にしてみるから貸せ」

 彼に向かって手のひらを差し出す。オグが殻を俺に渡そうと腕を伸ばす。

 その瞬間。


ギュゥイ! ギュゥイ! ギュゥイ!


 大人しくしていたモンスターが、鳥籠の格子を掴んで激しく揺らす。


ガタガタガタガタ


「おっわ⁉ 何、今度は何⁉」

「……そいつ、すっげぇ怒ってんな」

 真っ黒な瞳が、今度は真っすぐ俺を射抜いている。

 さっきまであれほどオグに執着していたくせに。

 まるで自分の殻を奪おうとする俺を敵だとでも言うみたいに。

 その反応が不気味すぎて、俺は一歩下がる。

 オグも無意識に手を引き、自分の方へ殻を戻した。

 モンスターはすぐに静かになり、視線をまたオグへ戻す。

「こいつ、やっぱり凄く不気味」

「触んのが怖ぇんなら、オレがどっかで捨ててきてやろうか?」

 シアンが口の端を吊り上げる。完全に人を小馬鹿にした顔だ。

 美人顔なので余計にムカつく。

 

――――さすがに喧嘩を売られたら買わなきゃ騎士じゃねぇ


「うるせえ、俺が行く」

「え、捨てるの? さすがに……ちょっと可哀そうじゃない?」

「じゃあ飼うのか、ママさんよぉ?」

「それは嫌だ。臭いし、たぶん懐かれても嬉しくない」

 楽しそうなシアンの声に、オグが必死に首を横に振る。

「ユーイ、これもお願い」

 さっきの反応なんてもう忘れたみたいに、オグは持っていた殻を俺へ投げる。

 反射で面倒事を俺に押しつけるな。

 その瞬間。

 モンスターが再び甲高い雄叫びを上げ、鳥籠をガタガタガタと揺らす。

 真っ黒な底なし沼みたいな目に、俺の姿が映っている。

「……やっぱ殻だな」

 シアンの呟きに頷く。さっきの疑惑はもう確定だ。

「……殻、返して欲しいのかな?」

「いや、お前以外触るのがダメなんじゃないのか?」

「じゃ、なんで俺はいいの?」

「ママだからだろ」

 シアンが笑う。

「そいつに殻渡してみろ。ちょっとは落ち着くかもな」

 オグは恐る恐るモンスターに近づく。

 そいつは心底嬉しそうに鳴き、手足を鳥籠の隙間から必死に突き出す。触りたいとでもいうようにぶんぶんと振り回す。

「……うげ、やっぱちょっと怖い」

 オグは小さな殻を隙間から差し込み、すぐに指を避難させる。


ギシギシギシギシ

 ピチャ ピチャ


 そいつは全身で抱き込むように殻を掴み、悦に入った表情で無心に殻の内側を舐めている。

 小さな体のどこにそんな力があるのか、ギシギシと嫌な音を立てて殻が軋む。舐めた部分は黒っぽい唾液でべったりと濡れていく。

「きっしょ! 黒い唾だぜ?」

 いつの間にかシアンも隣で鳥籠を覗き込んでいる。

「……ヌルヌルしてそう……」

「なんか毒っぽいよな」


グゥッオ グゥオッ


 突然モンスターが首をぐいと伸ばして吠える。


ビチャビチャ コロ コロコロン


 口から黒い唾でぬめった小さな白い粒を大量に吐き出し始める。

「……な、……な、……何⁉」

 あまりの気持ち悪さにオグが青ざめる。

 そいつは吐き出した粒の中から二つだけ拾い上げる。丸い白粒を、両手に一つずつ。

 そしてそれをオグへ差し出す。

「……受け取れ、だってよ」

 状況に唖然とした俺の呟きに、オグは青ざめたままぶんぶんと頭を振る。あまりの気持ち悪さに声も出ないらしい。

 モンスターは粒を持った手を鳥籠の隙間からにょきっと突き出す。

 それをオグに押しつけようとする。

 その真っ黒な顔に笑みがニタリと浮かぶ。

「む……無理です。無理、うん、無理」

「早く受け取ってやれよ。受け取らないと、ずっとやってそうだぞ」

 オグは絶望の表情を浮かべ、震える手でおたまを鳥籠へ近づける。

 モンスターはニタリ顔のまま、不自然なくらい手首を曲げ、おたまの中に白い球体を二粒置く。

 黒い唾液にまみれた粒がぶつかり合い、カチッと硬い音が小さく鳴る。

「……硬いんだ。え、ゲロじゃないのか」

 オグはそれを顔の近くまで持ち上げ、恐る恐る観察した。

「これ、卵でもないね。何だろ?」

「ママへのプレゼントじゃね?」

 シアンの嫌な一言が、ずっしりと重く響く。

 オグは無言で、おたまをそっと俺に押しつけてきた。

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