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国王陛下、勇者がまたモンスター食ってます  作者: 結城一
第二章 勇者のギャップがひどすぎるのだが

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10/15

10 それ、茹でたのに生きてんの⁉

結城一の情報ページを開設しました。

https://note.com/yuuki_hajime

「ちょっ……ユーイ! これ動いた! 動いちゃった! パス!」

 勇者は情けない悲鳴を上げ、俺におたまを放ってくる。

「おい、投げんな! つうか、生きているなら食えねぇよ!」


カリッ カリカリカリカリ


「うわぁぁぁああ、なんか出ようとしてる!」

 蓋の向こうが見えないせいで、余計にろくでもない想像ばかりが膨らむ。

「……おめぇら、遊んでるんじゃねぇよ……」

 シアンは呆れた声で蓋を開ける。

 光沢のある虹卵がぴくりと揺れる。中から伝わる振動にお湯の表面が細かく波打つ。なぜかあの斑模様がさっきよりも広がっている気がする。

 

――――……マジで生きているよ

 

「どうするよ、これ」

 困って呟いている横でオグは激しく首を振っている。

「俺、確かに熱湯で八分茹でたよ⁉ 普通は生きてないでしょ! 水と火でグツグツだよ⁉」

「まぁ……、確かに()()()生きてないよな」

「カラスって火の化けものだったの⁉」

「んん? おい、ユーイ、カラスって火属性だっけ?」

「いや、水属性だっただろ」

「属性って何? 住んでいる場所ってこと? それともそういう魔法を使うってこと?」

 オグは首を傾げる。シアンは手にしていた蓋を地面に置き、俺からおたまを受け取る。

 卵の中からまたカリカリと音がする。

「まぁ、住んでる場所に関係ある時もあるけどよ。どっちかっていうと、体の性質とか特徴に近ぇな」

 オグはきょとんとしたままだ。

 俺は頭を掻いた。

「つまり、火属性なら火に強かったり、火魔法が使えたり、火に関係する場所に棲んでたりするってこと」

「じゃあ、茹でられているお湯が平気なのって、熱いから火属性? それともお湯って水だから水属性?」

「あー……。……あ?」

 改めて聞かれると俺も分からなくなってくる。情けないが、二人してシアンを見る。

「……あー……オレも、改めてそう聞かれると……分かんね」

 三人の間に沈黙が落ちる。時折、カリカリッと殻を引っ掻く音だけがやけに大きく聞こえる。

「あれ? マジで分かんねぇな。おっかしいな。今まで属性がぱっと分からなかったこと、なかったのによぉ」

「お前もか? 俺も……今まで分からなかったことはない」

 今度はシアンと二人でオグを見る。

「な……何?」

「いや、お前が来てから、なんか色々おかしい」

「……えっと、ごめん?」

「いや、そこ、謝るのかよ」

 シアンが少し笑いながら、おたまで卵を転がす。卵の中のカリカリ音が一段と激しくなる。

 どうでもいいがシアンはその未知の生物が怖くないのか。


――――俺は怖い。普通に、怖いぞ


ピシッ


「あ」

 卵の一点にひびが入る。そこからひびがじわじわと広がっていく。

「うわぁぁぁあ、怖い、怖い、怖い!」

 オグは悲鳴を上げながら鍋から後ずさる。

「勇者が情けねぇ悲鳴上げるんじゃねぇ! 『怖い』連呼するんじゃねぇ、もっと怖くなっちまうだろが!」

「お前ら、もう生まれるぞ! いいから黙っていろ!」

 誰が誰に叫んでいるのかも分からなくなった、その瞬間。


パリン

 

 殻の一部が弾け、水面に飛び散る。

 殻の隙間から艶のある黒い目がこちらを覗く。

「うわっ⁉」

 隙間から小さく細い手がにゅっ、と突き出る。

 真っ黒な手だ。骨と皮だけみたいに細く、鋭い四本指がひび割れた殻の縁を引っ掻く。

「なんか手が生えてやがるぞ⁉ カラスの卵じゃねぇのかよ!」

「知らないよ! 巣にあったからカラスのだと考えるのが普通でしょう⁉」

「お前が普通を語るな! 普通はカラスの卵なんか持ち出さないんだよ!」

「おめぇら、うるせぇ! 手ぇ出てんぞ、目ぇ逸らしてんじゃねぇ!」


パキ パキン


 黒い手が殻の縁を掴み、もう一本の骨ばった手がこちらへ探るように伸びてくる。

 俺は剣を引き抜き、オグの前に出る。

 鍋の向こうでシアンも短剣を構え、少し距離を縮めている。

 

ふぅ ふぅ ごきゅ ふぅ ふぅ

 

 真後ろにいるオグの息遣いと唾を飲み込む音がやけにうるさい。

 汗ばんだ手で柄を強く握る。


ぎりっ


 小さく軋む音がする。

 

パキンッ ピチャン ピチャン……


 ……いびつだ。

 モンスターの中でも、いびつな容姿だ。

 長く、骨ばった腕の先には大きな手。足は比較的短い。そして不格好なほど、大きな頭。胴体は内臓がどこに詰まっているのか分からないくらい短い。全身、濡れた真っ黒な短毛に覆われている。やたらと長くごつごつした尻尾が左へ、右へと不規則にうねっている。

 そして殻の中の液体を、その短毛から滴らせている。


ギュゥゥゥ…… イ

 

 割れた殻の中で立ち上がったモンスターを見て、誰も動かない。

「え、……ちっちゃ」

 オグの呆然とした声が背後で聞こえる。

 いびつなモンスターは、親指ほどの大きさである。

 三人ともまた無言だ。

 また滴る、変な汁の音。

 小さなモンスターはまだ体のバランスが悪いのか、殻の中で転げ回る。

 その拍子に殻が傾いてお湯の中で横に倒れる。


ギュゥウウイイイイ⁉


 モンスターは湯に驚いたように手足をばたつかせ、鍋の中で溺れかける。

「うわっ、溺れるって!」

 オグは俺を押しのけ、反射的に鍋へ手を突っ込んだ。

「あっちぃぃぃぃいい!」

「バカ、それ熱湯だろ⁉」

 悲鳴を上げながらも、オグは指先でそのいびつなモンスターをつまみ上げる。

「無理、無理、無理、熱っ、無理っ! 気持ち悪っ!」

 次の瞬間、俺の胸元へ放り投げる。

「うおっ⁉」

 反射的に受け止めたそれは、濡れたげっ歯類みたいな毛触りでありえないほどぬるついていた。

 そいつは俺の指にしがみつく。小さな爪が皮膚に食い込む。小さすぎて何も感じられないが。

「おぉわ……すっげぇ……ヌルヌルしてる。気持ち悪ぃ……臭っ」

 俺は腕を伸ばし、それをできるだけ体から離した。

 オグは赤くなった手をぶんぶん振り、空気を送ったり、息を吹きかけたりしている。

 シアンがオグの方へ駆け出しながら、俺に怒鳴る。

「ユーイ、大丈夫そうか⁉」

「……あぁ、多分。少なくとも、今すぐ暴れ出す感じじゃねぇ」

「オグ、さっさとてめぇの冷凍庫出せ!」

 シアンに怒鳴られ、オグは慌てて冷凍庫を出現させる。

 シアンが扉を開けると、オグは半泣きで手を氷の中に突っ込んだ。

 だが俺はそんな慌てふためく二人を見ていない。視線は得体の知れない化け物に向けたままだ。

 それは暴れることもなく、俺の手の中におさまっている。

 だが光を吸い込むような黒い瞳だけは、ずっとオグを追っている。


――――これ、不気味だ


「てめぇは、少し頭ぁ使え!」

 シアンが、さっき俺が言ったのと同じ台詞をオグに怒鳴っている。

 小さなモンスターはシアンの声がするたびに首をすくめる。そのくせ、オグの情けない悲鳴が上がるたびに首を伸ばしてじっとそちらを見つめる。

 俺の指にしがみついたまま、一度もこちらを見ない。


――――まるで、誰が自分を茹でたのか知っているみたいだな


 ようやくオグが落ち着くと、シアンはゆっくりと俺の方へ歩み寄ってくる。シアンの警戒で鋭くなった視線は、俺の手の中のモンスターを冷たく睨みつける。

 モンスターは近づいてきたシアンを震えながら見上げる。小さな爪がギリギリと俺の指先を引っ掻き、濡れた尻尾が手のひらをぬるりと這う。

「……ぶっさいくだな」


キシャァァァ


 そいつは小さな口を目いっぱい開け、シアンを威嚇する。精一杯開いても、俺の小指の爪ほどにも満たない大きさの口だが。

「いっちょ前に、選んでやがる」

「しがみつかれてんのは俺なんだけどな」

「そいつをどうする? 赤ん坊が殺せねぇっつうんだったら、オレが殺す(やる)

「ちょっと! さすがに殺しちゃダメだって!」

 オグが離れた場所で喚く。

 俺は相変わらずモンスターを出来る限り自分から遠ざけた姿勢で、シアンとともにオグの方へ歩いていく。

 オグは腰を引いたまま両手を異空間の入口に突っ込んだ情けない格好で、俺の手の中のモンスターを必死に覗き込もうとしている。

 モンスターはオグに近づくと、俺の手の中でぐるぐると回り出す。

 時々バランスを崩して顔から転ぶが、めげずにすぐ立ち上がり、またオグを見ながら歩き回る。

 なぜか嬉しそうだ。

「それ、何? さっきのカラスの子供じゃないよね?」

「カラスじゃねぇなぁ。こんなキモぇの、オレは見たことねぇ」

「俺もない。虹色の卵なんて聞いたこともねぇしな」

 シアンは肩を竦める。

「……で、こいつ、どうすんだ?」


ギュイ!


 その瞬間、モンスターが両手を広げてオグに飛びつく。

 だが脚力が足りなかったらしい。

 彼の足首にポスッと落ちる。

「うわぁぁあああ! 取って! これ、誰か取ってぇ!」

 モンスターは喚くオグを無視し、骨ばった長い手と短い足で一生懸命ズボンを這い上がっていく。

「離れろぉぉお!」

 オグが激しく足を振る。

 それでもモンスターは小さな手で必死にしがみつく。

「離れろって! さすがにもう食べたくないから!」

「食うな!」

 俺とシアンの声が見事に重なった。

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