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第6話 商談

「いってぇ……」


カラオケを出て早数時間。痛む足を庇いながらもあの城へ向けて草原を進む。


さっきの兎の件もあって、警戒心マックスで慎重に歩みを進めている。あんなトラウマ級の洗礼を受けたんだ、当然と言えば当然だ。


「この辺は動物が沢山居るんだな……。あんな凶暴な奴を動物って呼ぶのは嫌だけどな……」


警戒しながら進むうちにいつの間にか周囲に目を向ける余裕ができたのか、俺は周りに居るであろう生き物の気配を感じ取れるようになっていた。

木々の根元から飛び出す小さい影や、土を掘り返した痕跡、草むらからこちらを窺う野生動物の目……幸いにも兎のように襲ってくる気配はないがその全てが脅威に見える。



まだ陽は高い。が、ここで野宿するのは流石に御免だ。

暗くなる前にあの城までたどり着ければひとまず人間には会えるはずだ。


「ここは……」


しばらく歩いているといつの間にか草原を抜け、街道のような道に出ていた。といってもゲームでよくある石畳なんかじゃなくただの地面だが、明らかに馬車かなにかが通っていた痕跡がある。人の往来がある証拠だ。そして道は城の方角へと続いている、よし。


道に沿って歩み始める。すると───


「……馬車?」


進行方向から荷馬車らしきものが近づいてきた。距離はまだかなり離れているが間違いない。荷馬車を引いている馬に乗った人が1人、傍には護衛なのか帯剣している人も1人見える。


人間がいれば話せる可能性がある。情報も得られるし、事情を話せば助けて貰えるかも。


そう思った矢先


「……!」


護衛らしき人間が明らかに警戒した視線をこちらに向けているのがわかった。腰に差した剣に手を掛けている。

やばい、もしかして追い剥ぎか何かと勘違いされているのか?馬車はその場で止まり、明らかに距離を取ろうとしている。

そして護衛らしき人はこちらににじり寄ってきていた。その右手はゆっくりと剣の柄に添えられている。


「待て!待ってくれ!話を聞いてくれ!」


「……」


声を上げたが返事は無い。当たり前か……。明らかに警戒されている。

このままじゃ問答無用で切り捨てられかねない。なんとか誤解を解かなければ


「えっと、俺は怪しい者じゃない!」


「…………」


嘘つけ、全身泥塗れで下半身は血だらけ、しかも片足引き摺ってる奴なんて怪しさ満点だろう。

自分で言っておいてなんだが説得力が皆無だ。俺でも警戒するわ。怪我人のフリして人を騙すような奴も日本にいるんだから。


相手との距離が徐々に縮まる。そして護衛はついに剣を抜き───


「ッ!」


俺は咄嗟に膝を折って腰を落とし


「武器は持ってない!怪しい者じゃないんです!」


両手を上げて無抵抗の意思表示をした。

さらに


「ほら!見ての通り素手ですよ!」


裾をまくって負傷した足を見せる。相当に惨めな格好だが背に腹は変えられない。

命あっての物種だ。


「…………」


今更だが命乞いしたとて言葉が通じていないならなんの意味も無い。

俺はせめて抵抗の意思がないことだけでも通じてくれと願いながら相手の次のアクションを震えて待ち続けた。


……剣を構えた男は警戒を解かないまま静止する。俺と同程度の年齢に見える男は険しい表情でこちらの様子を窺っている。


「おい、どうした?」


馬車に乗っていた中年の男性が護衛の男に尋ねる。


日本語!?よかった……!!これなら話し合いの余地はありそうだ……!!


「いや、この男……敵意は無さそうなんだが見たこともない格好で……」



馬車の男性もこちらに目をやる。その顔は怪訝そうな表情だが敵意は感じられない……と思う。


「……君は一体何者だ?」


「あ、えっと……」


いきなり聞かれても困る……。

まずここがどこで、彼らが何者で、現状俺がどうしてこんな状況に至ったのか色々知りたい事は山程あるのに。


「答えられないのか?」


「あ、いやそういうわけじゃ……」


「ならば答えてくれ」


「はい……」


ヤバい、何にも思い浮かばん。流石に違う世界から来ましたーなんていきなり言ったら最悪斬られるかも。異世界かもってことを考慮するなら設定の1つでも考えとくべきだった……!


「……」


沈黙の時間が流れる。やばい、このままじゃ斬られるんじゃ……?


「あのぉ〜……俺は決して怪しい者じゃなくてですねぇ……」


「……ふむ、ではまず名を名乗れ」


「あっえっと……アサヒって言います。俺はアサヒ。東雲朝日(しののめあさひ)です」


「アサヒ?」


「はい、そうです」


「う〜む……」


男性は顎に手を当てて何かを考え込んだような仕草をしている。なにかまずったのか?


「私は商人のベネット。こっちは護衛のロナルド。君のその服装は一般的に用いられている服とは様相がまるで違う。一体どこから来た?」


「えっと、どこっていうか……」


うーむ、難しいな……どう誤魔化せばいいんだ。

下手に嘘ついてバレたら余計に信用失うし……。


悩んだ末に出した答えは


「俺は……別の国から来た者です。ちょっと旅行中に色々あって……」


「他国からの旅人ということか。なら、ある程度の信用は出来そうだが……」


「君、その足はどうした?」


ベネットさんの緊張が少し溶けたのを見てか、護衛のロナルド?さんが俺の怪我を問いただす。


「あ、これは……さっき襲われて……」


「ほう、どんな奴だったか分かるか?」


「えっと、毛並みが白くて……あと目が真っ赤でした」


「……ウルフラビットか。この辺りには多いと聞く。厄介な魔物だ」


魔物、やっぱりあれはただの動物じゃないんだな。いやなんとなくそうかなとは思ってたけど……。


「ウルフ……ラビット?」


「知らないのか?」


「ええ、まあ……」


「……あの魔物は単体なら駆け出し冒険者でも倒せるようなレベルだが、一般人なら運が悪けりゃ食い殺されてるだろう。よく生きてたもんだ」


「あ、あぁ……そうなんですか……」


俺が生きてたのは……たまたま運がよかっただけか。思わず身震いがする。


「それで、君は一体どこに行くつもりだったんだ?」


「あぁえっと、あの……あの大きな建物のある方へ行こうかと思ってまして」


「大きな建物?……あぁ、レッドモア城か。王都ヴィストラントへ行くつもりなのか?」


「はい、そうです……(レッドモア城と王都ヴィストラントか……ありがちな名前だ)


「行き先が同じなら同行させてやってもよかったが……我々はついさっき国を出てきたばかりでな。完全に丸腰なのか?武器も無いならかなり危険だぞ」



ベネットさんが眉を潜めて警告してくれた。

そう言われても本当に何も持っていない。護身用のフォークとナイフくらいだ。


いや、待てよ?この人確か商人って言ってたな……。


「あの……すいません。先程貴方は商人と仰いましたが、もしよければ武器になるようなものがあれば売って頂けませんか?」


この人がどんな品物を扱っている商人かはわからないが、流石に武器の1つや2つは携帯しているだろう。

この人も商人なら取引自体には応じてくれるはずだ。


「ふむ……武器を買いたいと?」


「ええ、護身用の剣や防具なんかがあれば是非買わせてください」


「ほう」


日本語が通じるなら日本円も使えるハズ……だよな?


ベネットさんは僅かに俺を品定めするような目でこちらを見据えてくる。


「物にもよるが……今ある剣ならコイツが1番手頃な価格だな。銀貨5枚ってところか」


そう言って彼が馬車から取り出したのはゲームでよく見るような剣。いかにもって感じの剣だが……今銀貨って言ったか?


言葉が通じたのは不思議だがどうやらお支払いは日本円じゃ無理そうだ。となると


「あの、ちなみにお支払いは……」


「先払いだ。現金か魔法具での支払いのみ受け付ける」


「現金か……」


残念ながら手持ちは日本円しかない。


つまり───


「すみません、想定と持ち合わせが……」


「……なら、物々交換でも構わない。何か商品になりそうなものを持っていればそれと交換でもいい」


「本当ですか!?」


「あぁ。だが物によっては取引は見送らせてもらう。どんな物がある?」


これはチャンスだ。荷物の中に価値がありそうなものがないか漁ってみる。


「えっと……例えばこのスマホとか」


「ス……スマ……?なんだそれは?」


スマホを見せるとベネットさんは怪訝な顔をする。そりゃそうか、この世界にスマホが普及してるとは思えない。となると


「ええと……」


他にあるのは───鞄、財布、男の勲章コンドームさん……ろくなもんがないな。


あとは……これくらいか。

ひとまず鞄とポケットから持ち物を出してベネットさんに見せる。商人なら彼に判断してもらった方が取引もうまくいくだろう。


「ひとまずこれが持ち物全てです。この中で交換できそうなものはありますか?」


ベネットさんは俺が提示した品をジロジロ眺めている。しばらくして口を開くと


「コレはなんだ?」


そう言って手に取ったのはステーキナイフ。特に珍しくもないと思うが……


「食事用のナイフですが……」


「ナイフ?これがか?これは銀じゃないのか?」


なんだ?別にナイフなんて珍しくもないだろうに。何をそんなに驚いてるんだ?


「ええ、銀製ですが……それが?」


「なるほど……確かにこれを武器として使うには使いにくいだろうが……良い銀を使っているな」


そうか?確かに高級感はあるが特別良いものには見えない。普段からみんな使っているだろうに。


「コレも銀だな」


ベネットさんはナイフの隣に置いてあったフォークも手に取り吟味している。


「ええ、そうですが……」


ベネットさんは顎に手を当ててなにか考え込んでいる。


「そうだな……このナイフ1本で剣10本……いや、それ以上の価値は十分にあるだろう」


「え!?」


「これはフォークか?最近貴族連中が使っていると噂で聞いてはいたが……これも銀ならナイフと同じだけの価値がある……」


そういえば……昔は貴族が銀製のスプーンやらで毒を見分けるなんて話をどこかで聞いたことがある。もしかしてこの世界では銀は貴重なもんなのか?さっき銀貨って言ってたが金と物じゃ価値の扱いが違うのか?


俺が考えていると


「気が変わった。物々交換ではなくこのナイフとフォークをありったけ買わせてくれ。全て売ってくれるなら剣はタダで渡しても構わない」


「ほ、本当ですか!?」


「あぁ。是非とも買わせてくれ」


「は、はい!!ありがとうございます!!」


なんという僥倖。思わぬ幸運だ。


まさか銀食器にそこまで価値があるなんて。


俺は急いで残りのナイフとフォークを出す。

計20本のナイフとフォークがベネットさんの前に並ぶ。


「コレで全部です」


「……驚いた。1つで金貨10枚はくだらないような品がこんなに大量にあるとはな」


金貨10枚とか言われても……こちとら通貨の単位もピンとこないんですけど。


「じゃあコレで交渉成立でいいな?約束通り、この剣は持っていってくれていい」


ベネットさんは俺の目の前に先程の剣を置いてくれた。


「あ、ありがとうございます……!」


俺は礼を言って鞘付きの剣を受け取る。

新品同様の綺麗な剣だ。

重量はそれなり、少し不格好になりそうだが振り回すことも出来そうだ。


「コレが代金だ。確認してくれ」


渡されたのは大きめの革袋に入った何か。やけに重いな。

中身を確認すると金色に輝くコインが大量に……


「この金色のコインが金貨なんですか?」


「そうだが、金貨を見るのは初めてか?」


「あ、いえ。そういう訳では……」


こんな感じのコインは稀に見る。それこそゲーセンやら大人の店やらなんかで。


「ちなみにこの金貨1枚で日本円だとどれくらいの価値なんですか?」


「に、にほん?すまんが他国の通貨についてはあまり詳しくないのだ」


しまった。まだ別の世界に来たっていう実感がわかなくてつい日本円って言っちゃった。


「あ、いえ。こっちこそすみません」


「価値として知りたいなら金貨1枚で銀貨10枚分……まぁ……一般市民であれば金貨10枚もあれば100日は優に暮らせるくらいだな」


「……え?」


10枚で100日?ならこの金貨1枚で10日……それがこんなに大量に?


「では私達はこれにて失礼させてもらう」


「え、あ、はい。ありがとうございました!!」


商人と護衛の人はは何故か足早に去っていき、再び俺は一人になった。怒涛の展開でなんだかどっと疲れた気分だ。


「まぁでも、収穫はあったな」


荷物を入れた鞄を背負い、もらった剣を腰に差して歩き出す。


「これでひとまず金には困らなそうだ。このまま歩いて行けば夕方までには城門前まで行けるはず……」


こうして俺は王都への歩みを再開した。


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