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第4話 異世界は甘くない

踏み出した先には大草原。

そして遠くに薄っすらと見えるあの城。遠目でみてもわかる程の巨大な城。あれだけの建造物があるならあそこに街もあるはずだ。

そしてもちろんそれを造った人間も。


人里が存在するならコミュニケーションが取れる可能性もあるし、金銭もなんとか稼げるかもしれない。この世界の通貨がスキルで使えるかはわからないけどな。


とはいえ……やはり未開の地。目的も理由もなく1人きりで放り出されてはやっぱり恐怖の方が大きい。大の大人だろうと怖いもんは怖い。


やっぱりドッキリの類じゃなさそうだ。ってことは完全なる未知の世界、つまり異世界。

何が起こってもおかしくない、下手すれば命に関わるような危険があるかもしれない。


「慎重になりすぎなくらいで行くか」


自分にそう言い聞かせる。

ここがどこであれ、まずは行動あるのみ。


振り返るとカラオケ内への扉は既に消失していた。


意を決して草原へと足を踏み入れる。

異世界での最初の一歩。ここに来て初めて感じる風。草木の香り。全てが新鮮で同時に不安を煽る材料になっていた。


「まずは水と食料……人もそうだけどまずは食えるもんが見つかればなんとかなる」


腹が減っては戦ができぬとはよく言ったもので、今の状況では特に当てはまる言葉だと思う。


幸いにも【カラオケボックス】のおかげでしばらく食うに困ることはない……けど手持ちの金は有限だ。つまり計画的にだ。


膝下まで伸びる草を掻き分けながら道なき道を進んでいると不意に前方の茂みがガサッと揺れた。


「ひっ!?」


思わず情けない悲鳴を上げてしまう。心臓が跳ね上がるほどドキッとした。


咄嗟に身構えるも……茂みから姿を現したのは可愛らしい兎っぽい生き物だった。丸っこい身体に耳の長い小さな動物が一匹。


「なんだ兎かよ……驚かせやがって」


安堵したのも束の間、次の瞬間その兎が牙を剥き出して飛びかかってきた。


「えっ!ちょっ待って!ぎゃあああああ!!」


慌てた俺が思わず尻餅をつくと、同時に兎は俺の脛あたりに噛みつき凄まじい力で食いちぎる。肉を引き裂かれる感触と共に激痛が走る。


「いでぇええええ!!!」


激しい痛みに悶絶していると、奴は再び同じ箇所に食らいついてきた。俺は必死に兎を引き剥がそうとする。が、ビクともしない。兎とは思えない凄まじい力だ。


「痛ッッッッ!!どっどうすれば……!」


突然の出来事にパニックになっていると、視界の端に枯れ枝が映った。


「……!」



半ば反射的に枝を拾い上げ、兎の頭目掛けて力一杯突きさした。


ズチャッ


頭部に響いた生々しい音と共に兎は沈黙する。事切れた兎を払い除けた俺の脛は血まみれで酷い有様だ。


「痛ってぇ……!!これ骨折れてんじゃねぇのか……?」


傷口を見ると、少量の肉がえぐり取られて真っ赤に染まり、おびただしい量の血が止めどなく溢れていた。


「早く治療……!!いやまずは血ぃ止めないとマズイか」


ポケットからハンカチを取り出し傷口を押さえつけるようにして縛る。見た目ほど痛みが無いのは興奮でアドレナリンが出ているからか。ともかく歩けはしそうだ。


泣きたい気持ちを抑えながら【カラオケボックス】の発動を試す。これじゃ探索どころじゃない。


『スキルを使う』ことを意識したら目の前にドアが出現した。周囲の安全を確認するとすぐさま個室内に駆け込み鍵をかけた……。



─────────



「いてぇぇえ……」


カラオケにとんぼ返りした俺は、痛みに悶絶している最中に思考を巡らせていた。

あの兎……兎じゃないか、獣は明らかに敵対的だった。しかもとんでもなく獰猛だ。


これでハッキリした、ここは間違いなく異世界。

常識が通用しない。たまたま出てきたのがあの兎で偶然勝てたから良かったが、もしもっと大型で凶暴な魔獣的なのが出てきたら即お陀仏だっただろう。運が良かっただけだ。


「こんなんチート能力でもないと死ぬだろ……なんでカラオケなんだよ、これじゃ外を歩くだけでも命懸けじゃねぇか」


吐き捨てるように愚痴を言いながら治療を続ける。といっても部屋に常備されている手指消毒用のアルコールで消毒してハンカチで止血するのが精一杯だ。


「……くそ」


俺はソファーにに座り込み天井を見上げた。


「これからどうすっかな……」


……この出来事が前途多難の異世界生活の幕を開けた瞬間だった。


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