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◆第12話「謎肉の誕生と松竹梅の魔法」

【本文】ガストン印の「イモ・ボーロ」が大ヒットし、工場には甘い香りが漂うようになっていた。だが、蓮はそれで満足してはいなかった。食堂で工員たちが即席ラーメンを啜る姿を見て、眉をひそめていたのだ。


「……茶色いな」「はい?」隣で帳簿をつけていたエリシアが顔を上げる。「ラーメンだよ。麺とスープだけ。栄養はあるけど、見た目が寂しい。毎日これじゃ飽きるし、心まで茶色く乾いてしまいそうだ」


 蓮は立ち上がった。「エリシアさん、リオネルを呼んで。フリーズドライ(凍結乾燥)技術の『応用編』をやるよ」



 開発室に呼び出されたリオネルは、蓮が持ち込んだ食材を見て首を傾げた。「野菜くずと……これは、スジ肉のミンチですか? こんな安い肉、シチューにして何時間も煮込まないと硬くて食えませんよ」


「だから、加工するんだ」蓮はミンチ肉に、大豆から作ったタンパク質や卵、調味料を混ぜて練り上げ、サイコロ状に成形した。「これを醤油スープで煮込んで味を染み込ませる。それから――急速凍結して水分を抜く!」


 リオネルが魔法を放つ。カチンコチンに凍った肉塊から水分が昇華し、軽石のような茶色いコロコロした物体が出来上がった。「……石ころですね」リオネルが呆れる。「お湯をかけてみなよ」


 熱湯を注ぐと、茶色い石ころは瞬く間に水分を吸い、ふっくらとした肉団子に戻った。口に入れると、ジュワッと肉汁とスープの旨味が溢れ出す。「……! 美味い! 元のスジ肉より柔らかくてジューシーだ!」「名付けて『味付ダイスミンチ』。……まあ、僕の世界じゃ『謎肉』なんて愛称で呼ばれてたけどね」


 蓮はさらに、茹でたキャベツやネギ、スクランブルエッグも同様にフリーズドライ化した。これらは乾燥状態ではカサカサだが、お湯で戻すと鮮やかな緑や黄色が蘇る。


「すごい……。これなら腐りやすい葉物野菜も、長期保存してラーメンに入れられます!」エリシアが目を輝かせる。



 数日後。蓮はエリシアに、新商品のラインナップ表を提示した。


「商品を三つのランクに分ける。名付けて『松竹梅作戦』だ」


ブロンズ


内容:麺+粉末スープのみ


価格:銅貨2枚(従来の最安値)


ターゲット:とにかく安く腹を満たしたい人、節約派。


シルバー


内容:麺+スープ+乾燥野菜・卵


価格:銅貨4枚


ターゲット:標準的な労働者。彩りと栄養が欲しい人。


ゴールド


内容:麺+スープ+乾燥野菜+味付ダイスミンチ(謎肉)増量


価格:銅貨6枚


ターゲット:給料日後の贅沢、自分へのご褒美。


 エリシアが難色を示す。「藤村殿。銅貨6枚は高すぎませんか? 食堂の定食が食べられる値段です。みんな安い【梅】ばかり買うのでは?」


 蓮はニヤリと笑った。「そこが人間の心理なんだよ。『アンカリング効果』ってやつさ」


 蓮の説明はこうだ。一番高い【松】を見せることで、真ん中の【竹】が「お得で手頃」に見えてくる。そして、【梅】しか買えない者にとって、【松】は「いつか食べてやる」という労働のモチベーションになる。さらに、【松】を買うことは、工場内でのちょっとした「ステータス(成功の証)」になるのだ。



 発売初日。工場の購買部には人だかりができていた。


「おい見ろよ! 『特選ゴールド』だ! 肉がゴロゴロ入ってるぞ!」「げっ、銅貨六枚!? 高けぇ!」「でも美味そうだなぁ……。匂いが違うぜ」


 予想通り、一番売れたのは中間の【竹】だった。だが、給料日直後の若者たちは、見栄を張って【松】を買った。


「ふふん、俺は今月残業頑張ったからな。今日は『ゴールド』で優勝するぜ!」お湯を入れると、漂う肉の香りが周囲を圧倒する。「うわっ、ズルいぞ! 俺なんか『ブロンズ』だぞ」「へへっ、一口食うか? この肉、すげぇジューシーだぞ」


 食堂のあちこちで、ラーメンのグレードが話題になり、笑い声が生まれた。ただの栄養補給だった食事が、「選ぶ楽しみ」と「小さな優越感」に変わった瞬間だった。


 その様子を見ながら、蓮はエリシアに言った。「見たろう? 人はパンのみに生きるにあらず。……『肉』と『見栄』も必要なんだよ」「……また悪巧みみたいな顔をして。でも、みんな楽しそうです」


 こうして、「具材かやく」の発明と、巧みな価格戦略により、蓮の工場はさらなる利益を上げることになった。そしてこの「手軽な贅沢」の味は、やがて貴族の食卓にさえも影響を及ぼすことになるのである。

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